一筋の光あらんことを

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四章【何処かで】

4-10 騒ぎ

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「二回戦まで俺もお前もだいぶ時間があるな」

シェイアードが言い、

「しばらくは他の参加者の試合を見るだけかぁ」

リオは憂鬱な気分になり、ため息を吐く。
なぜなら、他の参加者の試合ーーそれはただの無意味な殺し合いを見るだけなのだから。


ーーそれから、二人はしばらくの間、試合を見ていた。

(えげつない戦いばかりだ。命乞いすら許されない‥‥何を思って殺し、殺されるんだろう)

やはり、何度見ても見慣れなくて、気分が悪くなってリオは目を細める。
それから隣に座るシェイアードをチラリと見て、

「シェイアードさんはルイナ女王のことどう思ってるの?」

単刀直入にそう聞いた。

「いきなりなんだ」
「だって、彼女はあなたのこと好きーーむぐっ‥‥」
「だからどうだと言うんだ」

シェイアードはそう言って、右手でリオの口を塞ぐ。

「相手が俺をどう思おうが、俺にはそのような感情はないんだ。無理にそんな感情を作るわけにもいかないだろう」

塞がれた口から手を放され、

「‥‥まあ、そうですけど」

と、リオは俯いた。
安心したような、複雑な気分のような‥‥そんな気持ちになる。

(‥‥ルイナ女王の気持ちを放ってはおけない。今度こそ‥‥)

リオはルイナにレイラを見ていた。

(カシルを好きになったレイラに‥‥私は何もしてやれなかった‥‥だから‥‥でも‥‥)

リオがそう考えていると、

「それに、女王のことを好きだったのは、俺の弟だ」

ぼそりとシェイアードが言う。リオが顔を上げると、

「キャァアァァアア!!?」
「うわぁあぁぁああ!!!」

いきなり、遠くの観客席から悲鳴が聞こえた。

「何!?」

リオとシェイアードは慌てて席から立ち上がる。

「キャアァアーー!!」

次に聞こえたその悲鳴は、聞き覚えのある声だった。

「女王の声だ!」

リオが悲鳴の聞こえる方向に走り出したので、

「おいっ‥‥」

シェイアードは呆れるようにため息を吐く。

「たっ、助けてくれぇ!」

人々は、何かから逃げるように叫んでいた。

「何があったの!?」

リオが逃げようとする一人の男を捕まえて聞くと、

「まっ‥‥まもっ‥‥魔物が来たぁぁぁああ!」
「魔物!?」

リオは慌てて剣を抜き、ルイナを捜して走る。

「ーーグガァアアア!!」

獣のような声が聞こえ、声の方にリオは振り返った。

「誤算だったな、ファインライズとフライシル家の者達は殺しきったと思ったが‥‥まさか一人ずつ生きていたとは」

頭の左右から角を生やし、赤い目と鋭い牙、獣のような茶色い皮膚。
人間よりも遥かに大きな生き物ーー魔物が片手にルイナを抱えながら言った。
気絶したルイナを見たリオは剣を構え、

「女王様を離せ!」

と、叫ぶ。魔物の鋭い目がリオを捉えた。

「リオ、何をしている!」

駆け付けたシェイアードが言ったが、リオには聞こえていないようで、

「早く離せと言っている!」

怒るように言ったリオの体から、不死鳥の炎が溢れ出す。

「なっ、なんだこの人間は!?」

魔物は思わずルイナを地面に落としてしまった。
すると、シェイアードは魔物を見て目を見開かせ、

「あれ、は‥‥」

と、明らかに何か、彼は動揺している。魔物は次にシェイアードに視線を移し、

「貴様ーーシェイアード・フライシルか!あの時、確かに殺したと思ったが‥‥右目を失っただけか」

そう、魔物は笑った。

「えっ!?まさか、シェイアードさんの言っていた魔物‥‥?」

リオが気づくように言えば、

「見間違えるわけがない‥‥あれは、俺の家族を殺した魔物だーー!」

まるで、怒り任せにシェイアードは剣を引き抜く。
叫び回る人々の声を聞きながら、変わり果ててしまった状況を整理する暇もなかった。
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