一筋の光あらんことを

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四章【何処かで】

4-4 悪魔

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【悪魔のはなし】

これは、私が子供の頃の話だ。

△年○月×日


悪魔は最初からいた。
人同様に。
妖精、エルフ、人魚(魚人)といった存在も最初からいた。

だから、何も不思議には思わなかった。
最初から、当たり前にいたのだから。


妖精は美しい透明の羽を持ち、空高い国に住んでいた。妖精王ーー‥‥
(この部分はなぜか、黒で塗りつぶされていて読めない)


エルフは人間とは違い、長く鋭い耳のお陰で、どんな音にも敏感だ。
彼等は三百年は生きると言われている。
森を好み、人里には滅多に訪れず、とある森に彼らだけの集落があるらしい。
魔術の他に、弓を得意とする種族だ。


魚人ーー人魚。
基本的に彼らの寿命は短い。
せいぜい三十年だと言われる。
水の中でしか生活できず、長時間、水の外にいると死んでしまう種族だ。
美しい姿のまま死に行く種族である。


ーーさて。悪魔の話に戻そうか。

悪魔は最初、魔術を使える種族として【魔族】と呼ばれていた。

以下では、悪魔のことを魔族と記す。


人と魔族は協力的だった。

魔族は不老だ、だが不死ではない。

死ぬとすれば、重傷を負った時、重病になった時ーー全ての人と同じだ。

魔族は産まれた時から魔術が使えるようだ。

だから人はいつしか火をおこすことを忘れた。
火など、水など、魔族の魔術でどうとでもなるのだから。

そしていつしか、例外が現れた。

魔族と人間。
エルフと人間。

その間に産まれた子供は異端者と呼ばれた。
やはり、普通の子供とは違いすぎるのだ。

魔族と人間の子供は魔族ほどではないが、軽い魔術が使える。そして、いつしか老いが止まる。

異端の力ーーそれは徐々に、忌み嫌われはじめた。

人間は言った。

『魔族の力などいらない。我々は我々だけの力で生きていく』と。

散々魔族の力に頼ってきて、ああ、人間とはなんて身勝手なのだろうか。


ある日、一人の魔族が殺された。
人間の手によって。

いつしか人間と魔族は敵対した。
魔族と恋仲にある人間も、魔族と見なされた。

人間は時に残忍だ。いや、人間だからこそだ。


魔族は優しかった。人間よりも遥かに。
魔族は自分達だけの集落を作った。
争いを避け、平穏に暮らす為に‥‥
だが、人間はそれを許さなかった。

人間とは自分の価値観だけで動く生き物だ。
他人よりも、自分が大事。

結局、悪魔と愛し合った人間も、悪魔を捨てて人間に戻った。
ーーただ、人里に帰り、どうなったかは知らないが。

とうとう、人間は悪魔達の隠れ里を見つけた。
ここから先は、別の書に記すとしよう。

著者『ベーダ・カラット』

◆◆◆◆◆

【悪魔狩り】

魔族達の隠れ里を見つけた人間達は、ためらうことなどなく、魔族に武器を向けた。

優しい魔族達はそんな人間達にとうとう激怒した。

魔族は自らの魔術を暴走させる。
その力は絶大だった。

そして、その場にいた人間だけでなく、魔族共々、消滅した。

奇跡的に生き残ったのは極僅か。私も、その一人だ。

魔族達は少数しか残らず、住む場所を失った。
生き残った魔族達は、たちまち姿を消した。

もう、隠れて生きるしかなかった。

それから人間は、魔族を【悪魔】と呼ぶ。
【悪の魔術】を使う者として。

だが、魔族達は悪の魔術など使わなかったのに。
人間が、巻き起こしたのに。

この一件から当然、魔族‥‥いや、悪魔も人間を憎み、人を襲う魔術を使うようになった。

これは全て人間が犯した罪。

人は何かを差別してしか生きられないのだろうか。


そして少ししかいなくなってしまった悪魔は、架空の存在とされる。

ここに記したことはきっと、後の世では信じてはもらえないだろう。

だって、英雄達の話でさえも、語り継がれないのだから‥‥

それでも可能性を信じて、私は託す。
これを読んでいる者が、我々の時代の輪廻に交わる者だと信じて。

私は書き続けよう、抗い続けよう、託し続けよう。
この身が消滅するその日まで、人間達の愚かさを、醜さを。
しかし、それを打ち砕いたのも、未来を開いたのもまた、人間だということを。


著者『ベーダ・カラット』


◆◆◆◆◆

悪魔関連の書物を読み終えたリオは目を伏せる。

(なんだか、重い。後味が悪いな‥‥ロナスの言っていたことが真実なら、これは実話だ)

リオは本を棚にしまいながら思った。

(悪魔‥‥か。ロナスはどこに行ったんだろう?次に会ったら、どうしたらいい?)

悪魔が人間を憎む理由。
共存していたのに、いきなり裏切られ、傷つけられ‥‥憎しみの連鎖が生まれた。

(でも、ロナスは女王とレイラを‥‥)

ーー殺した。

リオは行き場のない思いにぎゅっと目を閉じる。


「ここか?」
「ーー!!」

誰かが書庫に入ってきた音と声がして、リオはビクッと肩を揺らすが、

「シェイアードさんか‥‥」

リオは彼の姿を確認し、気の抜けたような声でそう言った。

「‥‥?ここは俺の家だからな。別におかしくはないだろう」

そう言って、シェイアードは首を傾げる。

「あのさ、変なことを聞くけど‥‥シェイアードさんは、悪魔の存在を信じる?」

そうリオが尋ねれば、

「書物に記されている悪魔、か?よく童話に登場しているが、実際にいるかどうかは俺にもわからない。見たことがないからな」
「‥‥だよねぇ」

リオはため息を吐いた。

「もし、悪魔が本当にいたとして、もし‥‥悪魔に大切な人を、たとえば友達とかを殺されたら‥‥シェイアードさんは悪魔を憎む?」

悪魔の境遇を知ったリオは悩むことしかできなくて、自分の境遇を曖昧にして彼に聞いてみる。

「悪魔についての書物に書かれていることが本当なら、人間が犯した過ちは重いな。‥‥いや、だが‥‥」

シェイアードは一息置き、

「大切な者を殺されたら、俺はきっと悪魔を憎むだろうな。きっと、許せない」

それを聞いたリオは、ハナから聞いたシェイアードの事情を思い出し、

「そっか‥‥シェイアードさんは、お父さんとお母さんが死んだんだよね‥‥弟さんは、わからないって‥‥事件って言ってたから、何か‥‥」

そこまで言って、リオはしまったと言葉を止めた。シェイアードの視線が痛い。

「‥‥あの口の軽い使用人め」

と、シェイアードが悪態を吐くので、

「あっ‥‥えーっと」

リオは話題を変えようと頭を働かせ、

「シェイアードさん!三日後の大会、頑張ろうね!」

と言えば、

「‥‥ハナが夕食が出来たからお前を呼んでこいと言った」
「わあっ!ご馳走になっていいの!?」
「‥‥ご馳走も何も、食事ぐらい出すだろう」
「船から降りてから何も食べてなかったからお腹ペコペコだよ!ありがとう!!」

そう言って、リオはシェイアードの胸に飛び込むので、

「おっ、おい、お前また‥‥」

シェイアードが顔をひきつらせつつ、抱きついてきたリオを押し退けようとすれば、

「まあ‥‥!!お二人が遅いからと見に来てみれば‥‥とんだお邪魔虫でしたわね」

なかなか夕食の場にこない二人を結局ハナが呼びに来て、そうからかうように言って去って行った。

(そっか‥‥憎む、許せない、か。‥‥境遇がどうあれ、犯した罪は、赦されない‥‥のかな。私は、私の心は‥‥)

リオは先程のシェイアードの答えを思い、

(‥‥早く帰らなきゃ。シュイアさん達のいる場所へ。ロナスやカシルと、話がしたい)

リオはそう思う。 
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