一筋の光あらんことを

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三章【繋がり】

3-12 ありがとう(後編)

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あの日、フォード国の公園で会った君は、とても強引で‥‥でも、無邪気で。
とても王女になんか見えなかった。

君と出会ってから、不思議なことばかり起きた。

シュイアさんとしか接することのなかった私に、君は友達という立場で私に接してくれた。

私の中の何かを、君が確実に変えた。

だから、助けたいと思った。

また一緒に、笑い合いたいと思った。

彼女を好きだと思った。

それが友達ーーそういうのが、友達なんだろう。

(不死鳥‥‥ごめん‥‥あなたと生きると約束したけれど‥‥私はもう‥‥)

リオは意識を失いかけていた。
崩れ行く遺跡の中、レイラと共に。
意識が遠くなる中で、リオはうっすらと見た。

目の前にしゃがみこむ男を‥‥レイラを見つめる、その眼差しを。

「どう‥‥して」

リオは掠れた声で聞く。

「結局、俺は世界を見せてやれただろうか?」

男の言葉を、リオは黙って聞いていた。
なぜ、そんなことを彼は言うのか‥‥

「どう思う?小僧」

そんなことよりも、彼がどうしてここにいるかの方がリオは気になった。
そしてなぜ、自分にそんなことを聞くのか‥‥
だが、リオの中にその問いへの答えはあった。

「レイラちゃんは‥‥最期に、あなたの名を呼んでた。だからきっと、彼女を救ってきたのは‥‥あなたなんだよ‥‥」

その事実を口にし、リオは悔しくて、悲しくなる。

「‥‥そうか。だが小僧、レイラを救ったのは、お前だ」
「‥‥」

リオはぽかんと口をあけた。
この男は、時折わけのわからないことを言うから。

「‥‥あなたは、レイラちゃんのこと、本当は‥‥好きだったの?」
「‥‥違う。言っただろう、俺は誰も好きにならないと」
「誰かを好きになっても‥‥最後には裏切られる‥‥だったっけ?」

リオはあの日の彼の言葉を思い出す。

「レイラちゃんは‥‥あなたを裏切らなかったよ?最後まで‥‥あなたのことだけは、裏切らなかった‥‥」

リオは微笑み、

「レイラちゃんはずっと、あなたが好きだった‥‥」
「ーー俺は愛せなかった」
「‥‥」

しかし、それにもリオは微笑んで、

「それでも‥‥あなたは愛されていた。そのことを、忘れないで‥‥レイラちゃんのこと、忘れないでね」

男からの返事はない。

「‥‥っ」

リオの体に傷が響き、苦しそうに目を細める。

「小僧‥‥お前も早くーー‥‥!!」

遺跡の崩れが激しくなったことに、サジャエルの術が解けたのだとカシルは気づいた。

「小僧‥‥行くぞ!!」

カシルがリオに言うが、リオは意識を失ったようで‥‥

「ーー俺はお前に‥‥」

そう言って、少女に手を伸ばそうとしたが‥‥

ザパァアアァアアッー━!!と、遺跡の地面からまるで噴水のように大量の水が押し寄せてきた。

「くっ‥‥!」

カシルは水の届かない場所に避難する。
レイラの亡骸と、リオを腕に抱えて。
ーーだが‥‥不覚だった。
天井の崩れも一層に早まっていて‥‥
カシルは二人を庇いつつ、自らの体に崩れてきた岩を浴びるが‥‥

「ちっ‥‥!」

彼はとうとう耐えきれず、二人を離してしまった。

「リオーー!!」

二人は落下し、激しい激流の波に呑まれていく。

「‥‥お前はいつも、行ってしまうな‥‥」

カシルは二人を見失い、静かに呟いた。


◆◆◆◆◆

一面の青だ。水の流れが激しい。
リオはただ、その流れに身を任せていた。

ー━それから、数時間後‥‥

ハトネは光景を見て驚いた。
遺跡が跡形もなく崩れ去っていたのだ‥‥

「リオちゃん‥‥戻ってくるって言ったのに‥‥!本当‥‥約束を守らない子ね‥‥」

フィレアは大人気ないと思いつつも、遺跡を見て涙を溢す。

「シュイア様に会ったら、なんて説明すればいいのよ‥‥」
「待ってよ!まだ、リオさんが死んだって決まったわけじゃないんだ!リオさんは戻ってくるって言った‥‥信じようよ」

ラズが言えば、その隣でハトネが涙を流しながら、力強く頷いた。


◆◆◆◆◆

息苦しい。

(そうだ‥‥カシルが、助けてくれようとしてた‥‥)

水の中で、リオは思い出す。

(私も、レイラちゃんの元に、逝けるかな)

リオは微笑み、目を閉じた。

「ダメよ」

リオの右手を誰かが握る。

「あなたは生きるの。こっちに来ちゃダメよ」

明るく、優しく、強い声。

「あなたに預けた約束の石に、私、願ったからね」

それは、レイラだった。だが、リオは驚くことなく、

(何を、願ったの‥‥?)

そう聞けば、

「秘密!」

と、彼女は悪戯っぽく笑った。
すると、レイラはぐいっとリオの腕を引き、

「‥‥カシル様のこと‥‥よろしくね」

レイラは悲し気に微笑んで言う。

(え?レイラちゃん?レイラちゃん‥‥待って!レイラちゃん!?)


ーーザザァ‥‥と、波の音がした。
リオは目を開け、

「待って!!レイラちゃん!!」

リオは腕を伸ばし、がばっと起き上がる。

「はっ‥‥!はぁっ、はっ‥‥えっ?ここは!?」

辺りを見回すと、どこかの浜辺にいることに気付いた。

「あれ?」

瞬きを数回する。
傷つけられたはずの右目が、しっかりと見えた。

『あなたに預けた約束の石に、私、願ったからね』

先刻の言葉が思い浮かび‥‥

「まさか‥‥レイラちゃんが?あれは、夢じゃ‥‥なかったの?」

リオはレイラから預かった青い石を見た。
石の青い輝きはなくなり、ただの白い石になっているではないか。

「願って‥‥くれたの?レイラちゃん‥‥私の、為に‥‥」

リオは石を握り締める。

「ごめんなさいっ‥‥ごめんなさい‥‥約束守れなくて‥‥助けれなくて‥‥」

リオは謝り、

「ありがとう、レイラちゃん‥‥ありがとう‥‥」

次に、何度も何度も、礼を言った。

「君に会えてっ‥‥良かった!君と友達になれて‥‥本当に良かった‥‥出会えたのが、友達になれたのが、君で‥‥良かった‥‥!」

リオは涙を流しながら、レイラと出会えたことに心からの感謝をする。

「うんっ‥‥レイラちゃん。私も、後悔しないよっ‥‥この結末を、後悔なんか‥‥しないから!君がくれたこの命‥‥私は、君を忘れずに、生きていくからっ‥‥!」


一つの物語が幕を閉じた。
別れた道が再び重なることはなかったが、それでも、絆と繋がりは消えなかった。

忘れはしない。

この時代に会えたことを‥‥
この世界で会えたことを‥‥

顔が、声が、いつかは思い出せなくなる日がくるかもしれない。
でも、それでも、忘れない。
名を、呼ぶから。
思い出があるから。

二人で手を取り合い、友として共に歩んだ短い日々。
忘れない、絶対にーー‥‥

「忘れないよ、レイラ‥‥」


この世界でたった一人の友達。
これからの時代、君以上の友など現れないだろう。

そして、君が愛した人のことを、私はもっとちゃんと、理解していこうと思う。
君が安心して、眠れるように‥‥

だから、おやすみ、レイラ‥‥

私は、諦めが悪いから。だから、願わくは。
いずれまた、いつかの時代で出会えればと思う。

叶わない願いを、私は抱く。


心から、本当に。君に会えて、良かった。

ありがとう‥‥レイラ。


~第三章~繋がり~〈完〉
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