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三章【繋がり】
3-8 手に入れた力
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レイラ達が小屋を去ってから三時間程経った。
彼らも不死鳥の力が必要だったらしい。
その理由は分からないが‥‥
「いいのか?主」
頭の中で不死鳥が話し掛けて来た。
「うん、一人で大丈夫」
リオはまた、一人で旅立っていた。
白いコートを纏い、その下に黒い長袖。
長袖の下の腕には、不死鳥の山での火傷のせいで包帯が巻かれている。
ズボンも新しいものに変えたが、やはり青色だ。
胸元にはしっかりと、青い石のペンダントをつけている。
ーーロナスが言ったのだ。
『不死鳥は手に入らなかったが、不死鳥がここに現れた。長かったが、これで世界を殺す準備が出来たな!止めたいなら追い掛けて来いよ』
リオはロナスの言葉を思いだし、
「不死鳥の山から北東にある遺跡‥‥」
と、呟く。
(だが、どうしてロナスは私に場所を教えたのだろう。罠?不死鳥が現れたことが‥‥関係してるのか?)
そう考えていると、
「主、目は痛むか?」
気遣うように不死鳥が聞いてきて、リオは頷いた。
リオの右目は包帯で覆われている。
「決着をつけるよ。友達との決着を。その為に、不死鳥、君を頼ったんだから」
リオはそう言って歩き続けた。
――瞬間、がばっ‥‥と。誰かが後ろから抱きついてきて‥‥
「魔物か!?」
リオはすかさず剣を抜く。
「わわわ!リオ君待って!私!ハトネだよぉ」
「え?!ハトッ‥‥」
リオは驚きながら剣を下ろした。
「ハト?!リオ君、それってあだ名?嬉しい!」
ハトネは更にリオに抱きつく。
「ちっ、違うよ!驚いて最後まで呼べなかったんだ!でも、なんでここに‥‥」
リオが聞くと、
「言ったでしょう!どうして頼らないのって!あなたまた一人で旅立つんだから!」
よく見ると、フィレアとラズもいた。
「でも‥‥三人には関係のないことだし‥‥」
リオは口ごもる。
「これは私とレイラの問題だから」
ーーと。
「関係ないけど、私、言ったよね!リオ君とずっと一緒だって」
ハトネの嘘のない笑顔に、リオは肩を竦めた。
「そういえばあなた、四年前シュイア様と一緒に旅立ったんじゃなかったの?」
フィレアが聞いてきて、
「シュイアさんは別の用事があると言って、四年前からお互い別々で旅をしています。そういえば、シュイアさんは今、どこにいるんだろう?」
四年前と口にはするが、リオにとっては少し前のことにすぎない。
「そうだったのね。あなたが死んだら、きっとシュイア様は悲しむわ。だから、あなたと一緒に私も行く」
フィレアが言って、
「えっ‥‥縁起でもない」
リオは顔をひきつらせた。
「でも、ラズは?君の理由が分からないんだけど‥‥」
ハトネはリオと一緒がいい。
フィレアはシュイアの為。
じゃあ、ラズは?
「あっ、ぼっ‥‥僕は‥‥」
リオが好きだなんて、面と向かっては到底言えない。
「リオさんは出会った時、僕を助けてくれたから‥‥だから次は、僕が助けたいんです」
ラズはそう、声を絞り出した。
それを聞き、リオはラズとの痛々しい出会いを思い出す。
そして、四人のあまりの目的のバラバラさにリオは苦笑した。
「もし、戦うことになったら‥‥カシルは強いよ。あのロナスって男も危険だ。それに、最悪なことに、レイラも武器を手にしてしまった。誰かが命を落とすかもしれない。私かもしれないし、この中の誰かかもしれないし、向こうの三人の誰かかもしれない。そんな危険な戦いになると思う。それでもいいの?」
リオが確認するように聞くと、
「‥‥私、見ちゃったから」
フィレアは小さく微笑む。
「何を?」
「リオちゃんとレイラ王女が、二人で本当に笑い合っているところを」
フィレアの言葉に、リオは目を大きく開けた。
「凄いなって思ったの。庶民と王女の間に本当に絆が‥‥繋がりがあるんだなって。だから、まだその絆がもしあるのなら‥‥私はそれを取り戻してあげたい」
フィレアの言葉に、リオは視界を揺らし、
「きず‥‥な‥‥」
その言葉に泣きそうになるが、
「‥‥うん。もう一度、彼女と一緒に話したいし、笑い合いたい。手を繋いで歩きたい。だからまたそうなれるように、私は頑張る。だから‥‥頼っていいって言うんなら‥‥私のワガママにどうか、力を貸して下さい」
リオはきっと、初めて素直に人に頼み事をした。
そして、三人に頭を下げる。
「りっ‥‥リオ君」
「私一人じゃきっと、何も出来ない。カシルにもロナスにも勝てない。だから、一緒に戦ってほしい」
リオは、昔のままの頼りなさげな声で言った。
「もちろんだよ。その為に、僕らは来たんだから」
ラズの言葉に、ハトネとフィレアも頷く。
「‥‥ありがとう」
リオは柔らかく微笑んだ。
「それより、リオさん」
ラズは、腕を伸ばし、リオの包帯の巻かれた右目辺りに軽く触れる。
「目、大丈夫ですか?」
ラズは泣きそうな顔をした。
「まあ‥‥視界がせばまって凄く困ってる。もし戦いになれば、右側からの攻撃には対応しきれないと思う。いろいろ不利かな。でも幸い左目は見えるんだ。両目とも見えなくなるよりマシだね」
「でも、どうしてレイラ王女が‥‥まだ信じられないわ」
フィレアが言う。
レイラは、そんなことをするような人物ではなかったから。
「レイラにも何か事情があるんだ、きっと」
リオはそう思った。
(僅かだったけど、短剣を握ったレイラの手は、震えていたから。私が力を求めたのと同じで、レイラにも、きっと)
リオはそう信じる。
◆◆◆◆◆
「ーーで。さっきから歩いてるんだけど、北東ってこれで合ってる?」
リオがいきなり不安気に聞いた。
「えっ‥‥そんなこと聞かれても困るわ」
フィレアが言って、
「私の魔術で飛ぶ?」
ハトネがにこっと笑って言う。
確か、ハトネは瞬間移動の魔術が使えるんだったなと、一同は思い出した。
「できるの?」
リオが聞くと、
「うんっ!行ったことない場所だから多少失敗することも多いと思うけど‥‥」
その言葉に三人は、
「それなら歩いた方が早い」
と、声を揃えて言った。
◆◆◆◆◆
「にしても、オレ達が四年間、いろーんな封印を解いてる間に、不死鳥に契約者が出来たのは誤算だったなぁ。しかも、まさかあんなガキが‥‥」
ロナスはため息を吐く。
「不死鳥の力がなくても、鍵とこの遺跡さえあればなんとかなるんでしょう?」
レイラ言えば、
「は?それはーー」
「カシル様が言ってたわよ?不死鳥の力なんかなくても大丈夫って」
「んー。あぁー‥‥そうだなぁ。この遺跡の鍵こそが、四年前、お前の中から出てきた鍵だからなぁ。この遺跡の封印を解くまで、長かった」
ロナスはまた、ため息を吐いた。
「そうね。四年間、世界中を巡って‥‥遺跡の封印を解く。本当、時間がかかったわね。何もあんなに封印を作らなくても‥‥」
レイラは目を閉じ、四年間のことを思い出す。
「まあ、そりゃあ‥‥この遺跡ひとつで世界が壊れちまうんだ。こんな遺跡を作った悪者と、必死で阻止しようと封印を作った英雄。くくっ‥‥どっちも、馬鹿馬鹿しいよなぁ」
そう、どこか懐かしむようにロナスは笑った。
「だが、オレもカシルも魔術が使える。不老なんだ。だから、時間なんてものはいくらでもある」
その言葉に、レイラは俯く。
「あぁ‥‥そうだったな。お前はカシルに惚れてるもんなぁ。カシルは不老だが、お前だけが時の流れに乗って生きていく」
ロナスが馬鹿にするように笑ってきて、レイラは唇を噛み締めた。
「ーー‥‥一つ。簡単に不老になれる方法があるぜ、魔術を手に入れなくてもな」
「え?」
ロナスの言葉に、レイラは顔を上げる。
◆◆◆◆◆
白と黒が目に入った。
「あれか?」
リオが言うと、
「こんな遺跡があったの?地図にも載ってないわよね」
フィレアが言って、
「でも、どこからどう見ても遺跡だよ!」
ハトネが指を差しながら言う。
「よし!早く乗り込もう」
いきなりリオが言った。
「リオ君!?でも、こんな夜中に‥‥遺跡の中、真っ暗みたいだよ。道に迷うかもだし、危ないよ!朝ならまだ、遺跡内の隙間から光が射してくるだろうから明るいと思うよ」
ハトネが止めるようにそう言う。
確かに、今は真夜中だ。
ただでさえ暗い遺跡内は、更に暗いであろう。
「でも、朝まで待っていたら‥‥彼らが世界を壊すかもしれない」
リオは俯いた。
「どうかな‥‥?彼らは不死鳥の力を手に入れようとしてたよね。不死鳥の力がなかったら、世界は壊れないんじゃないかな?」
ラズの言葉に、
「もしかしたら、不死鳥の力を手に入れたリオちゃんをこの遺跡に誘き出す罠かもしれない」
フィレアは気づくように言う。
「うーん、どうだろう?」
リオは他人事のように曖昧な返事をした。
「とにかく、ハトネさんの言う通り‥‥今は危険だと思うから、明日の朝早くにでも遺跡に入ろうよ」
「さぁ!そうと決まればここで夜営しよ!」
ラズとハトネが言ったので、
「はあ‥‥わかったよ」
リオは諦めるように息を吐く。
だが、夜営など、久し振りだった。
シュイアと旅をしていた頃は毎日のようにしていたが、こうやって‥‥仲間と言っていいかはわからないが、仲間とこういう風なことをするのも悪くないなと感じる。
食べ物はフィレア達が持ってきていたパンなどを食べた。
シュイアとの時は、そこら辺の山菜など食べていたが‥‥
「ふー!食べた食べた!」
食事を終え、ハトネが地面に寝転がる。
触れる草がくすぐったいと言って、笑っていた。
「全員が寝るわけにはいかないわよね」
フィレアが言い、
(そういえば、シュイアさんは夜営の時、魔物がいる場所では寝ずの番をしてくれていたな)
リオはそのことを思い出し、
「私が見張っておくから、皆寝ててよ」
リオはそう言って微笑む。
「何言ってるのよ!あなた、今日の朝まで不死鳥の山にいたのよ!そんなボロボロの体で‥‥」
フィレアに止められて、
「あっ‥‥そっか。私、この一週間過ぎ、一睡もしてなかった」
リオは思い出すように言った。
「でも、あんまり眠くないんだ。緊張してるのかもしれない」
今度は作り笑いをする。
思い出したら、本当は眠くて仕方がなくなってきた。だが、寝る気などおきなくて‥‥
「リオ君、無理しないで、ね?」
ハトネが不安そうに言う。
「大丈夫だよ」
と、明るく言うリオを、他の三人は心配そうな顔をして見つめていた。
◆◆◆◆◆
「寝たか‥‥」
リオは三人が寝静まったのを確認する。
「‥‥不死鳥、聞こえる?」
「ああ」
「魔物が寄ってこない魔術とか使えないかな?」
「‥‥」
リオの子供のような質問に、不死鳥は沈黙した。まあ、子供なのだが。
「そのような魔術はあるが‥‥そうだな、魔術を慣らす為だ。使ってみるか?」
不死鳥がリオに聞いたので、
「えっ、私が?」
リオは不死鳥に頼んだつもりなのだが‥‥
「ああ。我の力を与えたのだ。主はもう、魔術が使える」
不死鳥の言葉にリオは目を見開かせる。
「右手を地面に」
不死鳥に言われるがまま、リオは右手で地面に触れた。
「我の後に続け。‘邪悪なるカケラよ’」
「えっ!?じっ‥‥邪悪なる、カケラよ?」
「‘一時光に呑まれよ’」
「いっ、一時‥‥光に呑まれよ」
リオは照れ臭そうに不死鳥の言葉を真似る。
すると、リオの手から黒い光が地面に向かって放たれた。
「わっ!?こっ、これでいいの?魔物が来ないの?」
いまいち実感が湧かず、リオは首を傾げる。
「これで朝までは保つ。さあ、主よ。行くのだろう?また一人で」
「うん‥‥またフィレアさんに怒られるね」
リオは苦笑いをした。
たった一つの、決意を抱いて。
彼らも不死鳥の力が必要だったらしい。
その理由は分からないが‥‥
「いいのか?主」
頭の中で不死鳥が話し掛けて来た。
「うん、一人で大丈夫」
リオはまた、一人で旅立っていた。
白いコートを纏い、その下に黒い長袖。
長袖の下の腕には、不死鳥の山での火傷のせいで包帯が巻かれている。
ズボンも新しいものに変えたが、やはり青色だ。
胸元にはしっかりと、青い石のペンダントをつけている。
ーーロナスが言ったのだ。
『不死鳥は手に入らなかったが、不死鳥がここに現れた。長かったが、これで世界を殺す準備が出来たな!止めたいなら追い掛けて来いよ』
リオはロナスの言葉を思いだし、
「不死鳥の山から北東にある遺跡‥‥」
と、呟く。
(だが、どうしてロナスは私に場所を教えたのだろう。罠?不死鳥が現れたことが‥‥関係してるのか?)
そう考えていると、
「主、目は痛むか?」
気遣うように不死鳥が聞いてきて、リオは頷いた。
リオの右目は包帯で覆われている。
「決着をつけるよ。友達との決着を。その為に、不死鳥、君を頼ったんだから」
リオはそう言って歩き続けた。
――瞬間、がばっ‥‥と。誰かが後ろから抱きついてきて‥‥
「魔物か!?」
リオはすかさず剣を抜く。
「わわわ!リオ君待って!私!ハトネだよぉ」
「え?!ハトッ‥‥」
リオは驚きながら剣を下ろした。
「ハト?!リオ君、それってあだ名?嬉しい!」
ハトネは更にリオに抱きつく。
「ちっ、違うよ!驚いて最後まで呼べなかったんだ!でも、なんでここに‥‥」
リオが聞くと、
「言ったでしょう!どうして頼らないのって!あなたまた一人で旅立つんだから!」
よく見ると、フィレアとラズもいた。
「でも‥‥三人には関係のないことだし‥‥」
リオは口ごもる。
「これは私とレイラの問題だから」
ーーと。
「関係ないけど、私、言ったよね!リオ君とずっと一緒だって」
ハトネの嘘のない笑顔に、リオは肩を竦めた。
「そういえばあなた、四年前シュイア様と一緒に旅立ったんじゃなかったの?」
フィレアが聞いてきて、
「シュイアさんは別の用事があると言って、四年前からお互い別々で旅をしています。そういえば、シュイアさんは今、どこにいるんだろう?」
四年前と口にはするが、リオにとっては少し前のことにすぎない。
「そうだったのね。あなたが死んだら、きっとシュイア様は悲しむわ。だから、あなたと一緒に私も行く」
フィレアが言って、
「えっ‥‥縁起でもない」
リオは顔をひきつらせた。
「でも、ラズは?君の理由が分からないんだけど‥‥」
ハトネはリオと一緒がいい。
フィレアはシュイアの為。
じゃあ、ラズは?
「あっ、ぼっ‥‥僕は‥‥」
リオが好きだなんて、面と向かっては到底言えない。
「リオさんは出会った時、僕を助けてくれたから‥‥だから次は、僕が助けたいんです」
ラズはそう、声を絞り出した。
それを聞き、リオはラズとの痛々しい出会いを思い出す。
そして、四人のあまりの目的のバラバラさにリオは苦笑した。
「もし、戦うことになったら‥‥カシルは強いよ。あのロナスって男も危険だ。それに、最悪なことに、レイラも武器を手にしてしまった。誰かが命を落とすかもしれない。私かもしれないし、この中の誰かかもしれないし、向こうの三人の誰かかもしれない。そんな危険な戦いになると思う。それでもいいの?」
リオが確認するように聞くと、
「‥‥私、見ちゃったから」
フィレアは小さく微笑む。
「何を?」
「リオちゃんとレイラ王女が、二人で本当に笑い合っているところを」
フィレアの言葉に、リオは目を大きく開けた。
「凄いなって思ったの。庶民と王女の間に本当に絆が‥‥繋がりがあるんだなって。だから、まだその絆がもしあるのなら‥‥私はそれを取り戻してあげたい」
フィレアの言葉に、リオは視界を揺らし、
「きず‥‥な‥‥」
その言葉に泣きそうになるが、
「‥‥うん。もう一度、彼女と一緒に話したいし、笑い合いたい。手を繋いで歩きたい。だからまたそうなれるように、私は頑張る。だから‥‥頼っていいって言うんなら‥‥私のワガママにどうか、力を貸して下さい」
リオはきっと、初めて素直に人に頼み事をした。
そして、三人に頭を下げる。
「りっ‥‥リオ君」
「私一人じゃきっと、何も出来ない。カシルにもロナスにも勝てない。だから、一緒に戦ってほしい」
リオは、昔のままの頼りなさげな声で言った。
「もちろんだよ。その為に、僕らは来たんだから」
ラズの言葉に、ハトネとフィレアも頷く。
「‥‥ありがとう」
リオは柔らかく微笑んだ。
「それより、リオさん」
ラズは、腕を伸ばし、リオの包帯の巻かれた右目辺りに軽く触れる。
「目、大丈夫ですか?」
ラズは泣きそうな顔をした。
「まあ‥‥視界がせばまって凄く困ってる。もし戦いになれば、右側からの攻撃には対応しきれないと思う。いろいろ不利かな。でも幸い左目は見えるんだ。両目とも見えなくなるよりマシだね」
「でも、どうしてレイラ王女が‥‥まだ信じられないわ」
フィレアが言う。
レイラは、そんなことをするような人物ではなかったから。
「レイラにも何か事情があるんだ、きっと」
リオはそう思った。
(僅かだったけど、短剣を握ったレイラの手は、震えていたから。私が力を求めたのと同じで、レイラにも、きっと)
リオはそう信じる。
◆◆◆◆◆
「ーーで。さっきから歩いてるんだけど、北東ってこれで合ってる?」
リオがいきなり不安気に聞いた。
「えっ‥‥そんなこと聞かれても困るわ」
フィレアが言って、
「私の魔術で飛ぶ?」
ハトネがにこっと笑って言う。
確か、ハトネは瞬間移動の魔術が使えるんだったなと、一同は思い出した。
「できるの?」
リオが聞くと、
「うんっ!行ったことない場所だから多少失敗することも多いと思うけど‥‥」
その言葉に三人は、
「それなら歩いた方が早い」
と、声を揃えて言った。
◆◆◆◆◆
「にしても、オレ達が四年間、いろーんな封印を解いてる間に、不死鳥に契約者が出来たのは誤算だったなぁ。しかも、まさかあんなガキが‥‥」
ロナスはため息を吐く。
「不死鳥の力がなくても、鍵とこの遺跡さえあればなんとかなるんでしょう?」
レイラ言えば、
「は?それはーー」
「カシル様が言ってたわよ?不死鳥の力なんかなくても大丈夫って」
「んー。あぁー‥‥そうだなぁ。この遺跡の鍵こそが、四年前、お前の中から出てきた鍵だからなぁ。この遺跡の封印を解くまで、長かった」
ロナスはまた、ため息を吐いた。
「そうね。四年間、世界中を巡って‥‥遺跡の封印を解く。本当、時間がかかったわね。何もあんなに封印を作らなくても‥‥」
レイラは目を閉じ、四年間のことを思い出す。
「まあ、そりゃあ‥‥この遺跡ひとつで世界が壊れちまうんだ。こんな遺跡を作った悪者と、必死で阻止しようと封印を作った英雄。くくっ‥‥どっちも、馬鹿馬鹿しいよなぁ」
そう、どこか懐かしむようにロナスは笑った。
「だが、オレもカシルも魔術が使える。不老なんだ。だから、時間なんてものはいくらでもある」
その言葉に、レイラは俯く。
「あぁ‥‥そうだったな。お前はカシルに惚れてるもんなぁ。カシルは不老だが、お前だけが時の流れに乗って生きていく」
ロナスが馬鹿にするように笑ってきて、レイラは唇を噛み締めた。
「ーー‥‥一つ。簡単に不老になれる方法があるぜ、魔術を手に入れなくてもな」
「え?」
ロナスの言葉に、レイラは顔を上げる。
◆◆◆◆◆
白と黒が目に入った。
「あれか?」
リオが言うと、
「こんな遺跡があったの?地図にも載ってないわよね」
フィレアが言って、
「でも、どこからどう見ても遺跡だよ!」
ハトネが指を差しながら言う。
「よし!早く乗り込もう」
いきなりリオが言った。
「リオ君!?でも、こんな夜中に‥‥遺跡の中、真っ暗みたいだよ。道に迷うかもだし、危ないよ!朝ならまだ、遺跡内の隙間から光が射してくるだろうから明るいと思うよ」
ハトネが止めるようにそう言う。
確かに、今は真夜中だ。
ただでさえ暗い遺跡内は、更に暗いであろう。
「でも、朝まで待っていたら‥‥彼らが世界を壊すかもしれない」
リオは俯いた。
「どうかな‥‥?彼らは不死鳥の力を手に入れようとしてたよね。不死鳥の力がなかったら、世界は壊れないんじゃないかな?」
ラズの言葉に、
「もしかしたら、不死鳥の力を手に入れたリオちゃんをこの遺跡に誘き出す罠かもしれない」
フィレアは気づくように言う。
「うーん、どうだろう?」
リオは他人事のように曖昧な返事をした。
「とにかく、ハトネさんの言う通り‥‥今は危険だと思うから、明日の朝早くにでも遺跡に入ろうよ」
「さぁ!そうと決まればここで夜営しよ!」
ラズとハトネが言ったので、
「はあ‥‥わかったよ」
リオは諦めるように息を吐く。
だが、夜営など、久し振りだった。
シュイアと旅をしていた頃は毎日のようにしていたが、こうやって‥‥仲間と言っていいかはわからないが、仲間とこういう風なことをするのも悪くないなと感じる。
食べ物はフィレア達が持ってきていたパンなどを食べた。
シュイアとの時は、そこら辺の山菜など食べていたが‥‥
「ふー!食べた食べた!」
食事を終え、ハトネが地面に寝転がる。
触れる草がくすぐったいと言って、笑っていた。
「全員が寝るわけにはいかないわよね」
フィレアが言い、
(そういえば、シュイアさんは夜営の時、魔物がいる場所では寝ずの番をしてくれていたな)
リオはそのことを思い出し、
「私が見張っておくから、皆寝ててよ」
リオはそう言って微笑む。
「何言ってるのよ!あなた、今日の朝まで不死鳥の山にいたのよ!そんなボロボロの体で‥‥」
フィレアに止められて、
「あっ‥‥そっか。私、この一週間過ぎ、一睡もしてなかった」
リオは思い出すように言った。
「でも、あんまり眠くないんだ。緊張してるのかもしれない」
今度は作り笑いをする。
思い出したら、本当は眠くて仕方がなくなってきた。だが、寝る気などおきなくて‥‥
「リオ君、無理しないで、ね?」
ハトネが不安そうに言う。
「大丈夫だよ」
と、明るく言うリオを、他の三人は心配そうな顔をして見つめていた。
◆◆◆◆◆
「寝たか‥‥」
リオは三人が寝静まったのを確認する。
「‥‥不死鳥、聞こえる?」
「ああ」
「魔物が寄ってこない魔術とか使えないかな?」
「‥‥」
リオの子供のような質問に、不死鳥は沈黙した。まあ、子供なのだが。
「そのような魔術はあるが‥‥そうだな、魔術を慣らす為だ。使ってみるか?」
不死鳥がリオに聞いたので、
「えっ、私が?」
リオは不死鳥に頼んだつもりなのだが‥‥
「ああ。我の力を与えたのだ。主はもう、魔術が使える」
不死鳥の言葉にリオは目を見開かせる。
「右手を地面に」
不死鳥に言われるがまま、リオは右手で地面に触れた。
「我の後に続け。‘邪悪なるカケラよ’」
「えっ!?じっ‥‥邪悪なる、カケラよ?」
「‘一時光に呑まれよ’」
「いっ、一時‥‥光に呑まれよ」
リオは照れ臭そうに不死鳥の言葉を真似る。
すると、リオの手から黒い光が地面に向かって放たれた。
「わっ!?こっ、これでいいの?魔物が来ないの?」
いまいち実感が湧かず、リオは首を傾げる。
「これで朝までは保つ。さあ、主よ。行くのだろう?また一人で」
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