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三章【繋がり】
3-1 本当の始まり
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結局、泣いたのはあの日だけ。
もう、どこへ行ったか分からず、戻って来ない友の為に流した涙。
あの日以降は、ただ、時間任せに日々を過ごしていた。
女王と王女がいなくなった国。
リオ達は国民に真実を話した。
王女の護衛が、実は世界を壊そうとしているということ。
王女がその男と共に行ったということ。
女王はその男の仲間に殺されたということ。
国民たちは、最初は信じなかった。そんなのは作り話だと。
だが、リオは必死に訴えた。声を震わせながら、友の名誉を守る為に。
『レイラ王女は悪くないんです。友達として、彼女の気持ちに気づけずに、止められなかった私の責任なんです。私は女王様の最期を看取りました、助けられませんでした。だから、レイラ王女は必ず助けます‥‥!必ず、この国に連れ戻しますーー!』
フォード国の者達は言葉を失った。
国民でもなく、そしてただの子供である彼女の言葉に。
一人で全てを抱え込むような、苦しそうな表情にーー。
◆◆◆◆◆
「シュイアさん、お願いします。私に戦い方を教えて下さいーー!」
リオのその申し出に、シュイアは目を伏せる。
「私がもし戦えたなら、あの時‥‥女王様が死なずに済んだかもしれません。レイラちゃんを助けれたかもしれません‥‥」
リオは俯き、そして顔を上げて、
「でも、今更‥‥後悔はしません。ただ、もうあんなことを繰り返さないように‥‥少しでもシュイアさんのように、カシルさんのように、戦えるようになりたいんです」
リオの真剣な目を見て、シュイアはため息を吐いた。
「いつかは、お前が力を求めることはわかっていた。だが、リオ。戦う力を手に入れるということは、同時に【死】と言うものが身近に在るということだ。言葉だけで力を求めるのは簡単だ。だが‥‥」
シュイアは厳しい口調で言って、真剣な眼差しでリオを見据える。
その視線を、リオは真っ直ぐに見つめた。
「ーーこの剣を貸してやろう」
シュイアの手から淡い光が放たれ、彼には少し小さすぎる剣が現れる。
魔術を見慣れたせいか、リオはもう驚かなかった。
リオはシュイアの側に行き、恐る恐るその剣を受け取る。
初めて手にする剣の感触と重さに、リオは驚いた。
(おっ‥‥重たいーー!シュイアさんはこんな重たいものを軽々と‥‥)
リオがまじまじと剣を見ていると、
「さあ、リオ」
と、シュイアの呼び掛けに、リオは首を傾げる。
「剣を交えてやろう」
「え‥‥」
「剣の相手をしてやろうと言っているんだ」
「なっ」
リオは慌てるように首を横に振って、
「そっ、そんなっ!?私、無理です!こんな‥‥剣を使うのなんて初めてですし‥‥それに、シュイアさんとなんて‥‥」
リオの言葉を最後まで聞かず、シュイアは腰に下げた剣を抜き、その切っ先をリオに向けた。
「リオ。もし戦いの場に赴くことがあれば、そんなことを言う事は許されない。それを言っている間は‥‥逃げている間は、お前に戦う資格はない」
「っ」
シュイアのそんな言葉が酷く突き刺さり、
「わっ‥‥分かりました。お願いします、シュイアさん!」
リオは手にした剣を地面で引きずりながら持ち上げようとする。
構えた剣が重さのせいか、初めての戦いのせいか、カチャカチャと音を立てて震えていた。
だが、そうしている間に、リオは目を見開かせる。
ドゴッーー!!!
「がはっ‥‥!?」
何かに酷くぶつかる音と、リオの声が同時に重なった。
リオは何が起きたのかわからず、背中にズキズキと痛みを感じ、地面に座り込んでいる。
目に見えない速さだったが‥‥シュイアが自らの剣でリオをなぎ払ったようだ。
その剣圧により、リオは数メートル先の岩に叩きつけられていた。
痛みと驚きのせいか、リオは言葉が出ない。
涙も出ないほど、あっと言う間のことだったから。
ただ、これが殺気なのだろうかと感じる。
シュイアの剣に、躊躇いはなかった。
下手したら、リオを殺す勢いでーー‥‥
そこまで考えて、パラパラと、ぶつかった岩が軽く崩れ、砂や小石が落ちてくる。
「‥‥あ」
ようやくリオはそれだけの声が出た。
口元がヒリヒリするなと思ったら、口から軽く血が出ていたのに気付き、慌ててそれを手で拭う。
すると、シュイアがいつの間にかリオの前に立っていて、
「リオ‥‥お前はこれでも本当に、戦えるのか?」
シュイアが少しだけ悲しそうな顔をして言った。
「わっ‥‥私ーー‥‥」
◆◆◆◆◆
「はぁ‥‥夢みたい」
フィレアは、うっとりしながら言う。
ここは、フィレアとアイムの家だ。
小さい家の中に、フィレアとアイム。そして、リオとハトネ、シュイアーーなかなかの人数で食卓を囲んでいた。
「何が夢みたいなんですか?」
ハトネがフィレアに聞くと、
「あっ‥‥ううん。その‥‥」
フィレアはチラリとシュイアを見る。
「だって‥‥八年振りなんだもの。シュイア様に会うの」
フィレアはとても嬉しそうな顔をしながらスープに口を付けた。
「ああ、だが、出会ったのは十年も前で、旅先で確かに何度かお前に会ったが‥‥私はお前の名前すら覚えていなかったのに、お前はよく私を覚えていたな」
なんて言って、
(えっ。シュイアさん、フィレアさんのこと覚えてなかったんだ)
シュイアは完璧な人だと感じていたので、意外だなとリオは思う。
「‥‥わっ、忘れられるわけ‥‥ないじゃないですか‥‥」
そんな二人の会話を聞き、リオとハトネはなんとなくその場に居づらくなった。
「あんたがこの子を連れて来てくれて‥‥私は本当に幸せな生活をおくれているんだよ。本当に感謝しているよ」
アイムは微笑んでシュイアに言い、フィレアの頭をポンポンと軽く撫でる。
「ところでリオ君、左腕と右足はもう大丈夫?」
ハトネに聞かれた。あの時、ロナスにやられた傷‥‥
「うん。一昨日ぐらいまでは痛かったけど‥‥今はもう、だいぶマシになりました」
リオは微笑んでみせた。
「そっか!良かったぁ!!ねっ、リオ君。これからどうするの?また旅するの?」
ハトネの問いに、
「しばらくは、この国でゆっくりしようと思っています。この国は‥‥色々ありすぎて‥‥気持ちを整理したいし‥‥」
リオは静かに笑う。リオのその笑みを見て、ハトネとフィレアにはどこか‥‥泣いているように見えた。
「そっかそっかぁ!じゃあ私、リオ君の傍にちゃんといるからね!」
ハトネがリオに抱きつく。
「じゃあ、まだ一緒に居られるのね!えっ‥‥じゃあ‥‥シュイア様とも!?」
フィレアはリオとーーと言うより、シュイアと一緒に居られるかもしれないと言うことに喜んでいた。
すると、
コンコンーーと、ドアがノックされ、
「はい、どうぞ」
アイムが言うと、
「お邪魔します」
そう言いながら、一人の少年ーーラズが入って来た。
「ラズ、どうしたの?」
フィレアが尋ねると、
「あっ‥‥もしかしたら、お姉さん達、もうどこかへ行っちゃうのかなって」
ラズはリオを見る。
「大丈夫だよ!リオ君、しばらくここにいるって」
ハトネが笑って言えば、
「そうなの!?」
と、ラズも笑った。
「嬉しいな‥‥お姉さんは僕を助けてくれた人だから‥‥その、お礼もまだできてないし‥‥」
ラズが照れ臭そうにするので、
「ラズ君。気にしなくていいですよ」
リオはそう言って、微笑む。
ーー楽しかった‥‥
こんなにたくさんの人と笑い合いながら。
リオはそう、先刻のことを思い出す。
意識はその場に戻り、
「リオ‥‥お前はこれでも本当に、戦えるのか?」
以前、道を開く者にも似たようなことを聞かれたことを思い出す。
『これからあなたはきっと、数々の者達の死を見ることになるでしょう。あなたは【見届ける者】なのですから。それでもあなたは、生きて行けますか?』
ーーと。
リオはその時はっきりと答えた。
友達を守り抜けるまでは、生きていくと。
あの時は、そう答えた。
【世界を壊す鍵】というものがレイラの中にあった。
それを探す為、女王様を殺す為、彼女はカシルに利用されていた。
だが、彼女はカシルに恋をしたーー。
リオはギュッと目を閉じ、
「私はーー戦います。守りたい、助けたい人がいるから!」
そう、決意するように目を開け、
「あなたはいつも私の身を案じてか、戦わせないようにしてくれていましたね。だけど、そろそろ守られているだけじゃダメなんですよね‥‥私は‥‥」
リオは自分よりも、遥かに背の高い男を見上げ、
「ずっと、シュイアさんのことも助けたかったんです。いつも、何も出来ない自分が情けなかった‥‥あなたはいつも寂しそうで、時折、悲しそうな‥‥苦しそうな顔をする。そんなあなたを、助けたいと思った‥‥」
リオは今まで言えなかったことをようやく、微笑みながら口にした。
ずっと傍にいた小さな存在にそんなことを言われて、シュイアは目を見開かせる。
「私には、大切なものが一気に出来ました。ハトネさん、フィレアさん、アイムさん、ラズ君。そして、レイラちゃん。皆が、私が知らなかった感情を教えてくれました。私は大切な人を取り戻す為に戦いたいんです」
空を仰ぎながら、リオは笑った。
そんな少女を見て、それでもシュイアは苦しそうな表情をしたので、リオは慌ててシュイアを見つめる。
だが、大きな手に小さな腕が引かれ、リオはシュイアに抱き締められた。
「えっ、シュイアさん?」
「私にはやるべき事がある。だから、お前と共には行けない‥‥」
「‥‥」
それを聞き、シュイアはカシルを追わないのだろうかとリオは疑問に感じる。
「次に会う時は、強くなっていろ、リオ。私と剣を交えれるように。だから、それまで死ぬな」
「‥‥はい!私、強くなります‥‥!」
シュイアの胸の中でリオは頷き、
「私、シュイアさんが大好きです、とっても!あなたに出会えたから、今、私はここにいます」
無邪気なその声に、言葉に、シュイアは目を細め、小さく「ありがとう」と言った。
◆◆◆◆◆
「リオ君‥‥!?」
「シュイア様もいないわ!」
ハトネとフィレアが気付いた頃にはもう、二人はフォード国を発っていた。
ーー青い空、一面の草原。
全てを捨てて、一から始める。
腰に重たい剣を下げながら。
(待ってて、レイラちゃん)
シュイア以外の誰にも告げず、リオは旅立った。
少女の物語が今、始まる。
もう、どこへ行ったか分からず、戻って来ない友の為に流した涙。
あの日以降は、ただ、時間任せに日々を過ごしていた。
女王と王女がいなくなった国。
リオ達は国民に真実を話した。
王女の護衛が、実は世界を壊そうとしているということ。
王女がその男と共に行ったということ。
女王はその男の仲間に殺されたということ。
国民たちは、最初は信じなかった。そんなのは作り話だと。
だが、リオは必死に訴えた。声を震わせながら、友の名誉を守る為に。
『レイラ王女は悪くないんです。友達として、彼女の気持ちに気づけずに、止められなかった私の責任なんです。私は女王様の最期を看取りました、助けられませんでした。だから、レイラ王女は必ず助けます‥‥!必ず、この国に連れ戻しますーー!』
フォード国の者達は言葉を失った。
国民でもなく、そしてただの子供である彼女の言葉に。
一人で全てを抱え込むような、苦しそうな表情にーー。
◆◆◆◆◆
「シュイアさん、お願いします。私に戦い方を教えて下さいーー!」
リオのその申し出に、シュイアは目を伏せる。
「私がもし戦えたなら、あの時‥‥女王様が死なずに済んだかもしれません。レイラちゃんを助けれたかもしれません‥‥」
リオは俯き、そして顔を上げて、
「でも、今更‥‥後悔はしません。ただ、もうあんなことを繰り返さないように‥‥少しでもシュイアさんのように、カシルさんのように、戦えるようになりたいんです」
リオの真剣な目を見て、シュイアはため息を吐いた。
「いつかは、お前が力を求めることはわかっていた。だが、リオ。戦う力を手に入れるということは、同時に【死】と言うものが身近に在るということだ。言葉だけで力を求めるのは簡単だ。だが‥‥」
シュイアは厳しい口調で言って、真剣な眼差しでリオを見据える。
その視線を、リオは真っ直ぐに見つめた。
「ーーこの剣を貸してやろう」
シュイアの手から淡い光が放たれ、彼には少し小さすぎる剣が現れる。
魔術を見慣れたせいか、リオはもう驚かなかった。
リオはシュイアの側に行き、恐る恐るその剣を受け取る。
初めて手にする剣の感触と重さに、リオは驚いた。
(おっ‥‥重たいーー!シュイアさんはこんな重たいものを軽々と‥‥)
リオがまじまじと剣を見ていると、
「さあ、リオ」
と、シュイアの呼び掛けに、リオは首を傾げる。
「剣を交えてやろう」
「え‥‥」
「剣の相手をしてやろうと言っているんだ」
「なっ」
リオは慌てるように首を横に振って、
「そっ、そんなっ!?私、無理です!こんな‥‥剣を使うのなんて初めてですし‥‥それに、シュイアさんとなんて‥‥」
リオの言葉を最後まで聞かず、シュイアは腰に下げた剣を抜き、その切っ先をリオに向けた。
「リオ。もし戦いの場に赴くことがあれば、そんなことを言う事は許されない。それを言っている間は‥‥逃げている間は、お前に戦う資格はない」
「っ」
シュイアのそんな言葉が酷く突き刺さり、
「わっ‥‥分かりました。お願いします、シュイアさん!」
リオは手にした剣を地面で引きずりながら持ち上げようとする。
構えた剣が重さのせいか、初めての戦いのせいか、カチャカチャと音を立てて震えていた。
だが、そうしている間に、リオは目を見開かせる。
ドゴッーー!!!
「がはっ‥‥!?」
何かに酷くぶつかる音と、リオの声が同時に重なった。
リオは何が起きたのかわからず、背中にズキズキと痛みを感じ、地面に座り込んでいる。
目に見えない速さだったが‥‥シュイアが自らの剣でリオをなぎ払ったようだ。
その剣圧により、リオは数メートル先の岩に叩きつけられていた。
痛みと驚きのせいか、リオは言葉が出ない。
涙も出ないほど、あっと言う間のことだったから。
ただ、これが殺気なのだろうかと感じる。
シュイアの剣に、躊躇いはなかった。
下手したら、リオを殺す勢いでーー‥‥
そこまで考えて、パラパラと、ぶつかった岩が軽く崩れ、砂や小石が落ちてくる。
「‥‥あ」
ようやくリオはそれだけの声が出た。
口元がヒリヒリするなと思ったら、口から軽く血が出ていたのに気付き、慌ててそれを手で拭う。
すると、シュイアがいつの間にかリオの前に立っていて、
「リオ‥‥お前はこれでも本当に、戦えるのか?」
シュイアが少しだけ悲しそうな顔をして言った。
「わっ‥‥私ーー‥‥」
◆◆◆◆◆
「はぁ‥‥夢みたい」
フィレアは、うっとりしながら言う。
ここは、フィレアとアイムの家だ。
小さい家の中に、フィレアとアイム。そして、リオとハトネ、シュイアーーなかなかの人数で食卓を囲んでいた。
「何が夢みたいなんですか?」
ハトネがフィレアに聞くと、
「あっ‥‥ううん。その‥‥」
フィレアはチラリとシュイアを見る。
「だって‥‥八年振りなんだもの。シュイア様に会うの」
フィレアはとても嬉しそうな顔をしながらスープに口を付けた。
「ああ、だが、出会ったのは十年も前で、旅先で確かに何度かお前に会ったが‥‥私はお前の名前すら覚えていなかったのに、お前はよく私を覚えていたな」
なんて言って、
(えっ。シュイアさん、フィレアさんのこと覚えてなかったんだ)
シュイアは完璧な人だと感じていたので、意外だなとリオは思う。
「‥‥わっ、忘れられるわけ‥‥ないじゃないですか‥‥」
そんな二人の会話を聞き、リオとハトネはなんとなくその場に居づらくなった。
「あんたがこの子を連れて来てくれて‥‥私は本当に幸せな生活をおくれているんだよ。本当に感謝しているよ」
アイムは微笑んでシュイアに言い、フィレアの頭をポンポンと軽く撫でる。
「ところでリオ君、左腕と右足はもう大丈夫?」
ハトネに聞かれた。あの時、ロナスにやられた傷‥‥
「うん。一昨日ぐらいまでは痛かったけど‥‥今はもう、だいぶマシになりました」
リオは微笑んでみせた。
「そっか!良かったぁ!!ねっ、リオ君。これからどうするの?また旅するの?」
ハトネの問いに、
「しばらくは、この国でゆっくりしようと思っています。この国は‥‥色々ありすぎて‥‥気持ちを整理したいし‥‥」
リオは静かに笑う。リオのその笑みを見て、ハトネとフィレアにはどこか‥‥泣いているように見えた。
「そっかそっかぁ!じゃあ私、リオ君の傍にちゃんといるからね!」
ハトネがリオに抱きつく。
「じゃあ、まだ一緒に居られるのね!えっ‥‥じゃあ‥‥シュイア様とも!?」
フィレアはリオとーーと言うより、シュイアと一緒に居られるかもしれないと言うことに喜んでいた。
すると、
コンコンーーと、ドアがノックされ、
「はい、どうぞ」
アイムが言うと、
「お邪魔します」
そう言いながら、一人の少年ーーラズが入って来た。
「ラズ、どうしたの?」
フィレアが尋ねると、
「あっ‥‥もしかしたら、お姉さん達、もうどこかへ行っちゃうのかなって」
ラズはリオを見る。
「大丈夫だよ!リオ君、しばらくここにいるって」
ハトネが笑って言えば、
「そうなの!?」
と、ラズも笑った。
「嬉しいな‥‥お姉さんは僕を助けてくれた人だから‥‥その、お礼もまだできてないし‥‥」
ラズが照れ臭そうにするので、
「ラズ君。気にしなくていいですよ」
リオはそう言って、微笑む。
ーー楽しかった‥‥
こんなにたくさんの人と笑い合いながら。
リオはそう、先刻のことを思い出す。
意識はその場に戻り、
「リオ‥‥お前はこれでも本当に、戦えるのか?」
以前、道を開く者にも似たようなことを聞かれたことを思い出す。
『これからあなたはきっと、数々の者達の死を見ることになるでしょう。あなたは【見届ける者】なのですから。それでもあなたは、生きて行けますか?』
ーーと。
リオはその時はっきりと答えた。
友達を守り抜けるまでは、生きていくと。
あの時は、そう答えた。
【世界を壊す鍵】というものがレイラの中にあった。
それを探す為、女王様を殺す為、彼女はカシルに利用されていた。
だが、彼女はカシルに恋をしたーー。
リオはギュッと目を閉じ、
「私はーー戦います。守りたい、助けたい人がいるから!」
そう、決意するように目を開け、
「あなたはいつも私の身を案じてか、戦わせないようにしてくれていましたね。だけど、そろそろ守られているだけじゃダメなんですよね‥‥私は‥‥」
リオは自分よりも、遥かに背の高い男を見上げ、
「ずっと、シュイアさんのことも助けたかったんです。いつも、何も出来ない自分が情けなかった‥‥あなたはいつも寂しそうで、時折、悲しそうな‥‥苦しそうな顔をする。そんなあなたを、助けたいと思った‥‥」
リオは今まで言えなかったことをようやく、微笑みながら口にした。
ずっと傍にいた小さな存在にそんなことを言われて、シュイアは目を見開かせる。
「私には、大切なものが一気に出来ました。ハトネさん、フィレアさん、アイムさん、ラズ君。そして、レイラちゃん。皆が、私が知らなかった感情を教えてくれました。私は大切な人を取り戻す為に戦いたいんです」
空を仰ぎながら、リオは笑った。
そんな少女を見て、それでもシュイアは苦しそうな表情をしたので、リオは慌ててシュイアを見つめる。
だが、大きな手に小さな腕が引かれ、リオはシュイアに抱き締められた。
「えっ、シュイアさん?」
「私にはやるべき事がある。だから、お前と共には行けない‥‥」
「‥‥」
それを聞き、シュイアはカシルを追わないのだろうかとリオは疑問に感じる。
「次に会う時は、強くなっていろ、リオ。私と剣を交えれるように。だから、それまで死ぬな」
「‥‥はい!私、強くなります‥‥!」
シュイアの胸の中でリオは頷き、
「私、シュイアさんが大好きです、とっても!あなたに出会えたから、今、私はここにいます」
無邪気なその声に、言葉に、シュイアは目を細め、小さく「ありがとう」と言った。
◆◆◆◆◆
「リオ君‥‥!?」
「シュイア様もいないわ!」
ハトネとフィレアが気付いた頃にはもう、二人はフォード国を発っていた。
ーー青い空、一面の草原。
全てを捨てて、一から始める。
腰に重たい剣を下げながら。
(待ってて、レイラちゃん)
シュイア以外の誰にも告げず、リオは旅立った。
少女の物語が今、始まる。
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