一筋の光あらんことを

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二章【トモダチ】

2-8 宣言

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世界を殺すとカシルは言った。
そしてシュイアは世界を生かす者だと。

「なぜ、そんなことをしようと?」

リオはやっとそれだけを聞けた。

「全てが憎いからだ。理不尽な、全てが」

そう言って、カシルは笑う。
だが、どこか寂しい笑いだとリオは感じる。
だが、リオはまったくわからない。
自分自身、何かを憎いなどと思ったことは一度もないからだ。

「わからないだろう、小僧‥‥お前には」

カシルはそれだけ言って、しっしっと、手でリオを厄介払いするようにした。

「早くあの女のとこに行け。長々話すと怪しまれるぞ」
「あっ、レイラちゃんのこと忘れてた‥‥」

リオはぽかんと口をあけ、慌ててレイラの元へ戻ろうとしたが、あることを思い出し、カシルに向き直る。

「何だ、まだ何かあるのか?」
「カシルさんはレイラちゃんのことが好きなんですか?」
「‥‥」

リオがいきなりそんなことを聞くので、いつも冷静で余裕ありげに振る舞っているカシルが珍しく眉を潜めた。

「あのなぁ‥‥」

彼は小さくため息を吐き、

「なんでそう思った?」

と、少々呆れた声を出す。

「えっ、えぇっと‥‥それは‥‥あのパーティの時‥‥二人が、きっ‥‥きっ‥‥」

リオがそこまで言うと、

「あぁ‥‥なるほど。見たのか」

カシルは肩を竦めた。

「じっ、じゃあ、やっぱりレイラちゃんのこと」
「それは違うぞ、小僧」

カシルが否定の言葉を放つので、

「どうしてですか?キスと言うものは好きな人にするものだと聞いたんですが‥‥」
「‥‥」

純粋な眼差しに、カシルは思いきり面倒だと言うような顔をして、

「あーゆーことをしたからと言って、必ずしもそいつのことを好きだと言うわけでもない。分かったか?」

カシルはまるで、小さい子供に話すかのようにゆっくりした口調で言った。

「じゃあ‥‥レイラちゃんのこと嫌いなんですか?」
「俺は人を好きにはならない。何があっても、絶対に」

カシルは厳しい目でリオを見る。

「え!?」
「誰かを好きになっても、最後には裏切られる」
「え‥‥」

リオは聞いてはいけないことを聞いてしまったと思い、視線を落とした。

「ーーかもしれないだろ」

カシルが付け足すようにして言って。

「でっ、でも‥‥そんなことないんじゃないでしょうか?」

リオはカシルに言い、

「裏切られるだなんて‥‥そんな。ほっ、本当に好きなら、裏切られることなんかないと思います」

リオは困った顔をしながら言った。

「ーーお前がそれを言うのか?」

一瞬、空気が氷ついた感覚に陥る。
リオは驚いて目を大きく見開かせた。

「とんだ正論だな、反吐が出る」

カシルはそう言って、きつく、冷めた目でリオを見る。
それに対し、リオは言葉が出なかった。

(‥‥じっ‥‥じゃあ、レイラちゃんの気持ちは‥‥レイラちゃんは、あなたのことが‥‥)

リオは唇をきつく噛み締め、ゆっくりとカシルを見て、

「じゃあ、私がレイラちゃんのことも、世界も守ります」

すると、なぜだろうか。
目の前にいるカシルが少しだけ、悲しそうな顔をした。

「あっ、あれ?ごっ‥‥ごめんなさい!出来もしないのに私、何を言って‥‥」

リオはとっさに謝り、軽くカシルに頭を下げ、逃げるようにレイラのいる店に走って行く。


「まもる‥‥か」

カシルは呟き、とある言葉が彼の脳裏を過る。

『約束する。必ず、守る』


◆◆◆◆◆

「れ、レイラちゃん」

リオはやっとレイラの元へ行った。

「リオ、長かったわね」

そう言って、怪しむかのようにレイラは目を細める。

「えーっと、あはは‥‥」
「ーーで?」
「え?」

レイラがいきなり何かを聞くような声を出したので、リオは笑ったまま首を傾げた。

「何を話してたの?」

やはりそう聞かれて、リオは、

「れっ‥‥レイラちゃんのことをいろいろと聞かれたよ!」

とっさに嘘を吐く。

「え!?わっ‥‥私のことを‥‥?」

しかし、その嘘を聞いたレイラは赤面しながら驚いていて‥‥その様子を見て、リオはなんだか悲しくなった。
そしてとうとう、聞く決意をした。

「レイラちゃんは‥‥あの人のことが好き‥‥なの?」
「なっ‥‥」

いきなりのことにレイラは絶句したが、

「‥‥わっ、わかるの?」

と、照れ臭そうに肯定する。

「うん‥‥わかるよ。今は、見ててとっても、わかる‥‥」

少し悲しくて、少し苦しくて、少し、思った。

(レイラちゃんとカシルさん‥‥出会わなければ良かったのに‥‥)

ーーと。

(彼は‥‥あなたのことを好きになんてなってくれないよ‥‥どうしてカシルさんなんかを‥‥いっつも笑ってるレイラちゃんが悲しむのは、見たくないよ)

だが、それを口に出すことは絶対に出来なかった。

「まっ‥‥まあ、こんな話は置いときましょ。それよりリオ、明日またお城に来て!母に私の友達を‥‥あなたを紹介したいわ」

レイラが微笑んでとんでもないことを言うので、

「は‥‥母って‥‥女王様に!?女王様って、とっても偉い人なんでしょ!?ダメだよ!!」
「王女命令よ!リオ」
「いやいやっ!?」

本気で焦るリオを無視して、

「ところでリオ、このお店で何か買うんでしょ?」

レイラに言われ、リオはさっきとっさに吐いた嘘を思い出す。
店はアクセサリー屋で、別に買うものなど本当はなかったので、

「あっ、あはは‥‥やっぱり今日はいいや!れっ、レイラちゃん‥‥それじゃ、また!」

リオはそう言って、レイラを置いて急いで店から出た。


ーー店を出た際、レイラを待つカシルとすれ違って。
リオは彼をチラッと見て、気まずそうに通り過ぎようとしたが‥‥

「なぁ小僧」

呼び止められて、ドキッと、心臓が大きく鳴る。

「お前は、約束を守る奴か?」

そんなことを聞かれ、いきなりの質問の意味がよくわからなくて、リオはまた困った顔をした。
でも、

「私はたぶん‥‥約束は‥‥きっと、守るような奴です」

リオは少し笑ってそう答え、今度こそカシルの側を通り過ぎた。
その時の彼の顔は、見なかった。


◆◆◆◆◆

そうして、リオはアイムの家に戻り、

「あら、リオちゃん。お帰りなさい」

フィレアがリオを出迎える。

「‥‥はい。遅くなりまし‥‥たっ!?」

家の中に入ったリオはびっくりして、急に声を大きくした。

「やっぱり知り合いだったのね。私も外をぶらぶら歩いててね。リオちゃんの知り合いだって言うこの子に会ったのよ」

フィレアは笑って言う。家の中にいたのは‥‥

「もうっ!リオ君はすぐどっか行っちゃうんだから!」
「ハトネさん‥‥」

リオは先ほど街中で再会したハトネを置き去りにしたことを思い出した。

「私もこの家でお世話になることになったからね」

ハトネのその発言に、

「そっ、そんな勝手な!?」

驚くリオを余所に、フィレアとハトネはすっかり仲良くなっていて、二人で楽しそうに話を弾ませていた。
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