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二章【トモダチ】
2-2 必然
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ーーハトネがいなくなった。
リオが王女、レイラ・フォードと話したあの日から、彼女は姿を消した。
いつものように、リオはフォード国の宿屋で目を覚ます。
「昨日はあのめちゃくちゃな王女様と会ったんだっけ」
リオは確認するかのように言い、
「それで‥‥ハトネさんがいなくなったんだ」
フォード国内で彼女を捜した。でも、彼女はいなかった。
(私がいつまでも情けないから、ハトネさん呆れたんだろうな)
そう思い、リオは薄く笑う。
本当に、誰もいなくなってしまった。泣かないと決めたリオだったが‥‥
「シュイアさん‥‥」
シュイアのことを考えると、どうしても泣いてしまう。
「どこに行ったんですか‥‥シュイアさん‥‥」
◆◆◆◆◆
一方、フォード城では【めちゃくちゃな王女様】が何かを叫んでいた。
「嫌よ!絶対いや!」
レイラは必死に首を横に振っていて‥‥
「レイラ、母の言うことが聞けないのですか?貴女が時折、城を抜け出していること、母は知っていますよ。ましてや昨日のパレードでさえも途中で‥‥」
フォード国の女王ーーレイラの母は厳しい口調で言う。
「でっ、でも、お母様‥‥私は自由に‥‥」
「王女としての自覚を持ちなさい、レイラ。貴女はこの国の次期女王となるのですよ。貴女に何かあっては近い将来、この国を治める者がいなくなります。分かりますね?レイラ」
女王は真剣な眼差しで言うが、
(わかってるわよ、そんなこと!でも私は‥‥)
レイラは悔しそうに唇を噛み締め、黙りこんでしまった。
「貴女には今日から護衛をつけます、構いませんね、レイラ?」
「護衛なんていらないわよ!!護衛なんて‥‥」
駄々をこねるようなレイラの視界に、一人の男の姿が目に入り、玉座の間に入ってきたその男の姿を見て、レイラは口を止めた。
「せめて、街に出る時は必ずこの者と共に行くのですよ。これが、母から貴女に出来る唯一の情けです」
◆◆◆◆◆
リオは街中を歩いていた。
今日、ようやくフォード国を出る決心をしたのだ。
(えーっと、旅に必要なものってなんだろう?)
シュイアがハトネに渡していった十分なお金。
ハトネはそれを宿屋に置いていっていた。とりあえずはそれでなんとかしていけそうだ。
(食べ物に‥‥薬草に‥‥うーん‥‥)
いつもシュイアに任せきりなので、旅に必要なものが分からない。
(私、情けないなぁ)
リオは自分を嘲笑った。
「リオ!リオー!」
すると、誰かが大きな声でリオの名前を呼んでくる。
この声はーーと、リオは顔をひきつらせ、
「王女‥‥様」
力なくそう言った。
「こらっ!昨日のこと忘れたの?」
レイラはリオの頭を一発ペシっと叩く。
「いたっ!えっ、あ‥‥?‥‥れっ、レイラ‥‥ちゃん」
リオは叩かれた部分を手で押さえながら、仕方なく言い直した。
レイラは昨日とは一変して、ドレスではなく、普通の庶民が着るようなワンピースを着て、眼鏡をかけている。
変装しているつもりなのだろうか?
(その印象的な紫の髪でバレバレな気がする‥‥)
リオはそう思った。
髪型は昨日はひとつにくくっていたが、今日は三つ編みにしているようで。それでもとても綺麗な色合いがその場に映える。
「リオ、買い物してるの?」
リオの様子を見て、レイラは尋ねた。
「うん、まぁ、そんなとこ。今日、この国を出ることにしたんだ」
リオは嬉しそうに言う。
心細いが、一人で旅するということに少しわくわくしていた。
しかし、それを聞いたレイラの表情が少しだけ暗くなる。
「私、旅をして、いろんな国や街や村を回って‥‥いっぱい学んで、シュイアさんを捜すんだ!それでーー」
「ねえリオ。私を置いていく気?」
レイラが怒ったように言ってきて、
「えっ?置いていくって‥‥私たちは昨日会ったばかりでしょ?」
リオのその言葉に、レイラは頬を膨らませた。
(なんだろ?何かまずいことを言ったかな?)
と、リオは不思議そうにレイラを見つめる。
「そう‥‥そっか。今日でお別れかぁ‥‥残念ね」
レイラはあっさり引き下がった。それを聞いたリオは、
(お別れも残念も何も、昨日会ったばかりだしなぁ‥‥)
と、リオはあまり何も感じていなかった。
「ーーあっ、そうだリオ。彼ね、今日から私の護衛につくことになった人よ」
「護衛?へえー‥‥」
リオはゆっくりと顔を上げながら、レイラの後ろに立つ男の姿を確認する。
「私があまりにも一人で外出するから危ないってお母様が‥‥もうっ、お母様には困っちゃうわよね」
レイラはふう‥‥と、ため息を吐くも、あまり困った様子ではない。
ーーだが、リオはそんなレイラの言葉に耳を傾けず、ただただ驚くように目を見開かせていた。
「ちょっ、ちょっとリオ、どうしたの?大丈夫?」
「‥‥どっ‥‥どうして」
リオが震えた声で言い、男を見続けるので、
「なっ‥‥何?もしかして彼と知り合いなの?」
レイラはそう尋ねる。
「あ‥‥」
リオが何か言おうとしたが、
「いいえレイラ様。俺はこのようなガキは知りませんね」
男がそう言って、
「ーー!?ごっ、ごめんなさいリオ!この人、口が悪いのよ‥‥なんでお母様はこの人を護衛にしたのかしら‥‥腕が立つって言ってたから、それでだと思うけど‥‥」
レイラは慌ててリオに言うが、リオは何を言われてもどうでも良かった。
ただ、目の前の男がなぜ、レイラの護衛なのか。
あの日、一度だけの出会いだが、よく覚えている‥‥
この男はーー。
「この人、カシルさんって言うの」
レイラは男を紹介した。
そうーーカシル。
シュイアが追っていた相手。
シュイアの敵だという男。
(なっ‥‥なぜあなたが‥‥)
声が出なかった。
言葉にしようと思っても、唇が震えて、歯がガチガチとなって、声が出ない。
この男の素性を知りはしないが、あの日、シュイアを殺そうとしていた姿が脳裏に焼き付いている。
とにかく今は、ここから‥‥この国から逃げ出すこと。
リオはそれだけを考えた。
「カシルさん、この子はリオって言ってね、昨日知り合ったの」
レイラは楽しそうに、カシルにリオを紹介する。
「‥‥れ‥‥レイラちゃん。私、そろそろ‥‥行かなきゃ‥‥」
リオは前を向けず、俯いてそう言って、
「あ‥‥そうだったわね。この国を出るのよね」
レイラは悲しそうな顔をしているが、今のリオには申し訳ないだとかそんな気持ちはなかった。
ただ、カシルを見ると、とても寒気を感じ、恐怖心に襲われる。
彼はシュイアを本当に殺そうとしたのだから。
(‥‥殺そうと?‥‥待って。そんな人がなぜ王女の側に?何を考えて?カシルさんの目的は?レイラちゃんの側に置いて大丈夫なの?引き離した方がいい?ううん‥‥カシルさんの狙いはシュイアさんの命のはず。だったら、レイラちゃんは大丈夫‥‥だよね?)
リオは色々なことを一気にを考えてしまう。考えすぎてしまって‥‥
「ーーっ!!レイラちゃん‥‥やっぱり私、もう少しこの国に‥‥いるよ!」
リオはあらん限りの声を出して宣言した。
「え?本当に!?」
レイラが嬉しそうに反応してきて、
(ーーって‥‥わっ、私、勢いに任せてなんてことを!?)
リオはすぐさま宣言してしまったことを後悔する。
(でも、王女様と一緒にいれば‥‥カシルさんと話す機会があるかも。カシルさんならシュイアさんの居場所とか知って‥‥あれ?)
リオはあることに気が付いた。
(カシルさんはまだこの国にいる。シュイアさんはカシルさんを追ったんじゃないの?)
一体どうなっているのか。
シュイアの目的すら、リオは分からなくなってきた。
「良かったー!じゃあこれから毎日会いましょう、リオ!ふふっ」
「えっ?毎日は‥‥」
無理だと言おうとしたが、レイラは言うだけ言って、近くにあった小物店を見に行ってしまう。
カシルと共に取り残されてしまい、気まずさはあるが、
「あっ、あの‥‥私のこと、覚えてますよね?どっ‥‥どういうことですか?カシルさんがどうして王女様の護衛になんか‥‥」
リオがそう聞けば、
「さあな」
と、カシルは答えてはくれない。
「あのっ、じゃあ、シュイアさんがどこに行ったか知りませんか?」
「‥‥なんだ。お前、置いていかれたのか?あいつのことだ。俺がもうこの国を出たと思い込んで別の国だのなんだのを捜し回ってるんじゃないのか?知らないけどな」
「そっ、そんな」
リオはシュイアとの連絡手段など何もない。
シュイアはカシルを追っているーーそのはずだが‥‥
それからリオは何を聞いたらいいのか分からなくなり、無言になってしまった。
「小僧、お前、この国に残って俺の行動を探るつもりだろ」
「えっ!?」
カシルに言い当てられて、リオは視線をちらつかせる。
「いっ、いえ‥‥あなたがいたら、シュイアさんにまた会えるかなと思っただけで」
それを聞いたカシルは何か言いたそうにしたが、
「そうか」
それだけ言って、視線をレイラに移した。
リオは俯き、視線を足元に落とす。
「リオ!リオ!!こっち来てよ!!」
リオの今の思いなど知らず、レイラは笑顔でリオを呼んで、
「な、何?レイラちゃん」
「これ!ほらっ‥‥このストーン!とっても綺麗!」
レイラは小物店に置いてある、青色に輝く石を手に取り、リオに見せた。
「本当、綺麗な石だね。でも、レイラちゃんはもっと高価な宝石いっぱい持ってるんじゃないの?」
リオは素朴な質問をする。なぜなら、このストーンは一つ、たったの50ゴールドだったから。
「宝石なんて、高いだけのただの飾り物よ。ねっ、知ってる?このストーン、この国の人々に評判らしいの。見る人見る人、ネックレスにしたり、お守りにしたりで身に付けているのよ」
「へえー」
「私も、皆と一緒がいいの。王女なんて立場よりも‥‥」
その時は、何気なく聞いていた。
だが、ぽつりと言った、その時のレイラの言葉が『今でも』忘れられない。
彼女はこの時からずっと、自由を求めていたのだと。
もっと、もっと早くに気付いていれば、こんなことにならずに済んだのに‥‥
リオが王女、レイラ・フォードと話したあの日から、彼女は姿を消した。
いつものように、リオはフォード国の宿屋で目を覚ます。
「昨日はあのめちゃくちゃな王女様と会ったんだっけ」
リオは確認するかのように言い、
「それで‥‥ハトネさんがいなくなったんだ」
フォード国内で彼女を捜した。でも、彼女はいなかった。
(私がいつまでも情けないから、ハトネさん呆れたんだろうな)
そう思い、リオは薄く笑う。
本当に、誰もいなくなってしまった。泣かないと決めたリオだったが‥‥
「シュイアさん‥‥」
シュイアのことを考えると、どうしても泣いてしまう。
「どこに行ったんですか‥‥シュイアさん‥‥」
◆◆◆◆◆
一方、フォード城では【めちゃくちゃな王女様】が何かを叫んでいた。
「嫌よ!絶対いや!」
レイラは必死に首を横に振っていて‥‥
「レイラ、母の言うことが聞けないのですか?貴女が時折、城を抜け出していること、母は知っていますよ。ましてや昨日のパレードでさえも途中で‥‥」
フォード国の女王ーーレイラの母は厳しい口調で言う。
「でっ、でも、お母様‥‥私は自由に‥‥」
「王女としての自覚を持ちなさい、レイラ。貴女はこの国の次期女王となるのですよ。貴女に何かあっては近い将来、この国を治める者がいなくなります。分かりますね?レイラ」
女王は真剣な眼差しで言うが、
(わかってるわよ、そんなこと!でも私は‥‥)
レイラは悔しそうに唇を噛み締め、黙りこんでしまった。
「貴女には今日から護衛をつけます、構いませんね、レイラ?」
「護衛なんていらないわよ!!護衛なんて‥‥」
駄々をこねるようなレイラの視界に、一人の男の姿が目に入り、玉座の間に入ってきたその男の姿を見て、レイラは口を止めた。
「せめて、街に出る時は必ずこの者と共に行くのですよ。これが、母から貴女に出来る唯一の情けです」
◆◆◆◆◆
リオは街中を歩いていた。
今日、ようやくフォード国を出る決心をしたのだ。
(えーっと、旅に必要なものってなんだろう?)
シュイアがハトネに渡していった十分なお金。
ハトネはそれを宿屋に置いていっていた。とりあえずはそれでなんとかしていけそうだ。
(食べ物に‥‥薬草に‥‥うーん‥‥)
いつもシュイアに任せきりなので、旅に必要なものが分からない。
(私、情けないなぁ)
リオは自分を嘲笑った。
「リオ!リオー!」
すると、誰かが大きな声でリオの名前を呼んでくる。
この声はーーと、リオは顔をひきつらせ、
「王女‥‥様」
力なくそう言った。
「こらっ!昨日のこと忘れたの?」
レイラはリオの頭を一発ペシっと叩く。
「いたっ!えっ、あ‥‥?‥‥れっ、レイラ‥‥ちゃん」
リオは叩かれた部分を手で押さえながら、仕方なく言い直した。
レイラは昨日とは一変して、ドレスではなく、普通の庶民が着るようなワンピースを着て、眼鏡をかけている。
変装しているつもりなのだろうか?
(その印象的な紫の髪でバレバレな気がする‥‥)
リオはそう思った。
髪型は昨日はひとつにくくっていたが、今日は三つ編みにしているようで。それでもとても綺麗な色合いがその場に映える。
「リオ、買い物してるの?」
リオの様子を見て、レイラは尋ねた。
「うん、まぁ、そんなとこ。今日、この国を出ることにしたんだ」
リオは嬉しそうに言う。
心細いが、一人で旅するということに少しわくわくしていた。
しかし、それを聞いたレイラの表情が少しだけ暗くなる。
「私、旅をして、いろんな国や街や村を回って‥‥いっぱい学んで、シュイアさんを捜すんだ!それでーー」
「ねえリオ。私を置いていく気?」
レイラが怒ったように言ってきて、
「えっ?置いていくって‥‥私たちは昨日会ったばかりでしょ?」
リオのその言葉に、レイラは頬を膨らませた。
(なんだろ?何かまずいことを言ったかな?)
と、リオは不思議そうにレイラを見つめる。
「そう‥‥そっか。今日でお別れかぁ‥‥残念ね」
レイラはあっさり引き下がった。それを聞いたリオは、
(お別れも残念も何も、昨日会ったばかりだしなぁ‥‥)
と、リオはあまり何も感じていなかった。
「ーーあっ、そうだリオ。彼ね、今日から私の護衛につくことになった人よ」
「護衛?へえー‥‥」
リオはゆっくりと顔を上げながら、レイラの後ろに立つ男の姿を確認する。
「私があまりにも一人で外出するから危ないってお母様が‥‥もうっ、お母様には困っちゃうわよね」
レイラはふう‥‥と、ため息を吐くも、あまり困った様子ではない。
ーーだが、リオはそんなレイラの言葉に耳を傾けず、ただただ驚くように目を見開かせていた。
「ちょっ、ちょっとリオ、どうしたの?大丈夫?」
「‥‥どっ‥‥どうして」
リオが震えた声で言い、男を見続けるので、
「なっ‥‥何?もしかして彼と知り合いなの?」
レイラはそう尋ねる。
「あ‥‥」
リオが何か言おうとしたが、
「いいえレイラ様。俺はこのようなガキは知りませんね」
男がそう言って、
「ーー!?ごっ、ごめんなさいリオ!この人、口が悪いのよ‥‥なんでお母様はこの人を護衛にしたのかしら‥‥腕が立つって言ってたから、それでだと思うけど‥‥」
レイラは慌ててリオに言うが、リオは何を言われてもどうでも良かった。
ただ、目の前の男がなぜ、レイラの護衛なのか。
あの日、一度だけの出会いだが、よく覚えている‥‥
この男はーー。
「この人、カシルさんって言うの」
レイラは男を紹介した。
そうーーカシル。
シュイアが追っていた相手。
シュイアの敵だという男。
(なっ‥‥なぜあなたが‥‥)
声が出なかった。
言葉にしようと思っても、唇が震えて、歯がガチガチとなって、声が出ない。
この男の素性を知りはしないが、あの日、シュイアを殺そうとしていた姿が脳裏に焼き付いている。
とにかく今は、ここから‥‥この国から逃げ出すこと。
リオはそれだけを考えた。
「カシルさん、この子はリオって言ってね、昨日知り合ったの」
レイラは楽しそうに、カシルにリオを紹介する。
「‥‥れ‥‥レイラちゃん。私、そろそろ‥‥行かなきゃ‥‥」
リオは前を向けず、俯いてそう言って、
「あ‥‥そうだったわね。この国を出るのよね」
レイラは悲しそうな顔をしているが、今のリオには申し訳ないだとかそんな気持ちはなかった。
ただ、カシルを見ると、とても寒気を感じ、恐怖心に襲われる。
彼はシュイアを本当に殺そうとしたのだから。
(‥‥殺そうと?‥‥待って。そんな人がなぜ王女の側に?何を考えて?カシルさんの目的は?レイラちゃんの側に置いて大丈夫なの?引き離した方がいい?ううん‥‥カシルさんの狙いはシュイアさんの命のはず。だったら、レイラちゃんは大丈夫‥‥だよね?)
リオは色々なことを一気にを考えてしまう。考えすぎてしまって‥‥
「ーーっ!!レイラちゃん‥‥やっぱり私、もう少しこの国に‥‥いるよ!」
リオはあらん限りの声を出して宣言した。
「え?本当に!?」
レイラが嬉しそうに反応してきて、
(ーーって‥‥わっ、私、勢いに任せてなんてことを!?)
リオはすぐさま宣言してしまったことを後悔する。
(でも、王女様と一緒にいれば‥‥カシルさんと話す機会があるかも。カシルさんならシュイアさんの居場所とか知って‥‥あれ?)
リオはあることに気が付いた。
(カシルさんはまだこの国にいる。シュイアさんはカシルさんを追ったんじゃないの?)
一体どうなっているのか。
シュイアの目的すら、リオは分からなくなってきた。
「良かったー!じゃあこれから毎日会いましょう、リオ!ふふっ」
「えっ?毎日は‥‥」
無理だと言おうとしたが、レイラは言うだけ言って、近くにあった小物店を見に行ってしまう。
カシルと共に取り残されてしまい、気まずさはあるが、
「あっ、あの‥‥私のこと、覚えてますよね?どっ‥‥どういうことですか?カシルさんがどうして王女様の護衛になんか‥‥」
リオがそう聞けば、
「さあな」
と、カシルは答えてはくれない。
「あのっ、じゃあ、シュイアさんがどこに行ったか知りませんか?」
「‥‥なんだ。お前、置いていかれたのか?あいつのことだ。俺がもうこの国を出たと思い込んで別の国だのなんだのを捜し回ってるんじゃないのか?知らないけどな」
「そっ、そんな」
リオはシュイアとの連絡手段など何もない。
シュイアはカシルを追っているーーそのはずだが‥‥
それからリオは何を聞いたらいいのか分からなくなり、無言になってしまった。
「小僧、お前、この国に残って俺の行動を探るつもりだろ」
「えっ!?」
カシルに言い当てられて、リオは視線をちらつかせる。
「いっ、いえ‥‥あなたがいたら、シュイアさんにまた会えるかなと思っただけで」
それを聞いたカシルは何か言いたそうにしたが、
「そうか」
それだけ言って、視線をレイラに移した。
リオは俯き、視線を足元に落とす。
「リオ!リオ!!こっち来てよ!!」
リオの今の思いなど知らず、レイラは笑顔でリオを呼んで、
「な、何?レイラちゃん」
「これ!ほらっ‥‥このストーン!とっても綺麗!」
レイラは小物店に置いてある、青色に輝く石を手に取り、リオに見せた。
「本当、綺麗な石だね。でも、レイラちゃんはもっと高価な宝石いっぱい持ってるんじゃないの?」
リオは素朴な質問をする。なぜなら、このストーンは一つ、たったの50ゴールドだったから。
「宝石なんて、高いだけのただの飾り物よ。ねっ、知ってる?このストーン、この国の人々に評判らしいの。見る人見る人、ネックレスにしたり、お守りにしたりで身に付けているのよ」
「へえー」
「私も、皆と一緒がいいの。王女なんて立場よりも‥‥」
その時は、何気なく聞いていた。
だが、ぽつりと言った、その時のレイラの言葉が『今でも』忘れられない。
彼女はこの時からずっと、自由を求めていたのだと。
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