息をするように、

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殺意

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殺意とはなんだろう?
自分はそれを感じたことがない。

目の前の砂利だらけの地面には、迷子になって両親を捜していた可愛らしい女の子が転がっています。
黄色い水玉模様の上着に、ピンク色のスカート。かわいいお洋服を着て、お出掛けの最中だったのでしょう。

そんなかわいらしかった彼女は、今はただの物体。
喉元にはナイフが突き刺さったままで、口からヒューヒューと音が発せられています。
両足首には大きめの釘が打ち付けられています。トントンとんとん、金槌で打ち付けてみましたー。
骨の部分は避けて、肉の部分に打ち付けたので案外すんなりと釘は刺さりました。
骨を砕いたらそれで終わっちゃいそうだったからさぁ‥‥

段々と弱々しくなって衰弱していく様を眺めています。三十分くらい経ったかな?
両親は全然来ませんね、どこへ行ったのやら。

それから三時間ぐらい経ちました、たぶん。
地面に転がる物体の色が青白くなってきましたが、まだ息は続いています。
なかなか頑丈に出来ているようです。

ギョロリと、眼球がこっちを捉えました。
黒い目玉がこっちを睨み付けています。
血走った目で、それはそれは殺意混じりの目で。

こんなか弱い物体でも、死の間際には殺意なんてものを手に入れるんだなぁとひしひし。

おや、声が聞こえてきた。誰かの名前を呼んでいます。たぶん、この物体の名前、この物体の両親。

やれやれ、自分は優しいので家族団らんの時間を与えてあげようと思いました。
物体だけを置き去りに、物陰から様子を見てみます。

男女二人が変わり果ててしまった物体の姿に悲鳴を上げました。

女は混乱して、物体の喉元に刺さったナイフと両足首に刺さった釘を引き抜きました。
すると、物体の小さな悲鳴。絶命。
三時間も耐え続けた物体は、いとも簡単に死んでしまいました。

男が叱咤するような、責任を押し付けるような怒声。
発狂する女。

男の手にはナイフ。
女の手には釘。

誰得でもない殺し合いが開幕。

あんなこわーい顔して肉を切り裂き引き裂きぶち破るなんて、おぞましいね。
殺意って、こわっ!
まあ、これも一種の家族団らんの時間かな?

えっ?お前がやってることは何かって?
殺意なんて持ってないよ、ただ自分らしく生きてるだけだからさ。
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