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第三章【破滅へと至る者】
3―8 レンジロウとルヴィリ
しおりを挟むレンジロウは頭を抱えるような思いをしていた。ウェザとマジャがスイーツバイキングで争いを始めてから三十分以上は経っている。マータを監視すると言ったノルマルの姿はここからは見えないし、ノルマルを守る為、リダと対峙したというアリアの姿も見えない。
全体を見ると言ったシーカーもどこにいるのやら‥‥
しかし、ウェザがマジャの足止めをしているのも事実。自分もしっかりルヴィリを見ておかなければーーといっても、やはり彼女は定位置から動くことはなかった。真面目なのだろうか。
その一方で、ルヴィリは気づいていた。隠されることのない、まるわかりな視線に。
(あの男、さっきから私を監視するような視線ね。まあいいわ。こんな秩序の欠片もない場所。何が紛れ込んでいてもおかしくはない)
そう思い、ルヴィリはレンジロウからの視線を気にすることはなかった。
貴族以外にも一般市民が招待状もなく、身分確認もされずにぞろぞろと城内にいる異様な光景。
(リダもマジャも自由行動。マータは真面目に待機しているようね‥‥ちょうど良いわ。リダとマジャ、邪魔者二人がいない方がこっちとしては気楽だし、それに、そろそろ‥‥)
ちらっと、ルヴィリは大時計を見る。それと同時に、
「ああああああああああ」
「なんだ、こいつ!!!!」
急に、会場の中央で談笑を楽しんでいた人々が悲鳴を上げた。ルヴィリはその場から動くことなく悲鳴に耳を澄ませる。
「なっ、何事でありますか!?」
レンジロウは悲鳴の場所へと走り、悲鳴の根元を目にした。それに絶句する。
一人の成人男性が白目を剥き、口からダラダラと血を流して立ち尽くしているのだ。その足元には、首筋を食いちぎられた女性が絶命している。
「にっ‥‥逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
誰が言ったかはわからない。しかし、どよめきが巻き起こり、人々は一目散に出入り口を目指した。そこに待機するルヴィリは息を吐き、握っていた槍を構え、手元を狂わすことなく、向かって来る人々の心臓を一突きしていく。
「ぎゃあああああああああああ!!!!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
悲鳴が止まない。
突き刺す度に、体に、翼に、返り血を浴びる。
無事に逃げ出せた者もいれば、ルヴィリの槍で殺された者もいる。
彼女は手を休めることなく、二十人程だろうか。足元に転がる死体を見つめ、槍を構えていた腕を下ろす。それ以上は殺めることなく、通り過ぎる人々を見過ごした。
その光景を、レンジロウは目を見開かせて見ていることしか出来なかった。同じ槍使いであるが、動きが全く違う。
心臓を突き刺し、引き抜き、また次の獲物を突き刺しーー彼女の動きに無駄はなく、的は決して外さない。美しい見た目に騙されていたのかもしれない。彼女はシックスギアであるが、リダやマジャとは違うのではないかと。そう思っていたが‥‥やはり彼女も同類。
鮮血のルヴィリは、静かに人を殺める者だった。
「なっ、なんなんですの!」
さすがにデザートを手放し、ウェザはレンジロウに合流する。人々は逃げ出し、ホールはガランとしていた。
残されたのは、レンジロウとウェザ。マジャとルヴィリ。そして、女性の首筋を食いちぎったーーバケモノのような男だけ。
「ちょっ‥‥他の皆は?」
ウェザはノルマルにシーカー、アリアがいないことに焦り、
「はぁ?どうなってんのぉ?マータ坊やは?アイツ、リダァ!!!!アイツはまた女でも連れ込んでんのかァ!?どこ行きやがったぁ!」
シックスギア側も人数が足りないようで、マジャが目を見開かせて叫ぶ。ルヴィリはマジャの側まで行き、バケモノのような男を見た。
白目を剥き、「ハー、ハー」と息をするだけの存在。彼女はそれの心臓を槍で突き刺し、ドサリと、呆気なくそれは死んだ。
「あーあ、もったいなぁい。殺しちゃったの?って言うかぁ、アンタ、ずいぶんと勝手してなかったぁ?」
マジャが聞けば、
「なんのことかしら。それにこれは試作品。出来損ないでしょう?邪魔なだけよ」
と、ルヴィリは言い、この場に残るレンジロウとウェザを怪訝そうに見る。
「それで?あんた達は何?逃げないの?さっきから私を監視しているようだったけど」
ルヴィリはレンジロウを見た。気づかれていたことに、レンジロウとウェザは冷や汗を流す。
「‥‥ん?あっれぇ?おじさん、どっかで見たことあるようなぁ‥‥んー?気のせい?」
マジャはレンジロウの顔を覗きこんだ。鎧を脱ぎ、兜を被っていない為、幸い気づかれていないようだ。
「びっ、ビックリして、動けなくなっただけよ‥‥今から、逃げるわよ」
ウェザはマジャ達に見られないよう、レンジロウの背中を小突いて言う。
「そう。なら、さっさと行きなさい」
「そうよそうよ、ジャマだから出て行きなさい」
なんて、ルヴィリとマジャは深追いせずそう言ってきたので、レンジロウ達は拍子抜けした。しかし、マジャはペロリと唇を舐め、
「逃げてもどうせ、あんた達も死ぬんだからねぇ!キャハハハ。ここで生きてても無意味なんて、かっわいそー!」
高笑いをしながら、マジャは城内の奥へと進んで行く。ルヴィリは肩を竦め、ウェザに振り向く。
「なっ、なんですの‥‥」
「‥‥大きくなったのね、ウェザ」
それだけ言って、彼女もマジャと同じ道を進んだ。
「えっ、えっ、えっ?」
ルヴィリが自分の名前を知っていて、ウェザは動揺する。
「ウェザ殿、どっ、どうするでありますか?足止めせねばならないのに、現状に体が動きませぬ‥‥」
そう言ったレンジロウの足はガクガクと震えていた。仕方がない、それはウェザも同じ。
いきなり人間を襲った人間。ルヴィリの強さ。
二人がかりでも立ち向かうのは不可能だ。
「ですが、ここにはまだエクス殿達がいます。なんとか誰かに合流しましょう」
「そうね‥‥城って言うんだから、きっと一番奥にソートゥ様はいるのよね。そこにエクス様はいるかもしれない‥‥こわいけど、さすがに見捨てて行くなんて後味悪いことは出来ないわ」
ウェザはだらだら流れてくる汗を拭い、
「でも、逃げ出しても死ぬとかマジャは言ってたし、それに‥‥」
二人は足元に転がる、ルヴィリに殺された人間の男を見つめ、
「試作品と言っていましたな‥‥」
あまりにも不可解で、どことなく気味の悪い空間と化してしまったロンギング城。レンジロウとウェザは自分の力量を知りつつも、まだ仲間というほどの期間を歩んでいない者達の元へと足を進めた。
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