The hero is dead ~復讐と魔女と果ての世界~

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世界の歴史

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人間と天使と魔族。
この世界には、人間を中心とした数多の愚かな歴史があった。

【第一の歴史】

かつて、人間界、魔界、天界は、全てが一つの大陸に在った。

最初に生まれた存在は人間だった。
何も無い世界で、無能だった人間は日を追うごとに知識をつけ、自然の力を利用していた。

その時代には亡骸を葬り、墓を建てると言う概念すらなかった。
ネクロマンサーや生命術士と言った、人の命を利用する存在。彼らは生涯を終えた人間の体を利用していた。
そうして、その数多の知識や実験から、人間以外の存在ーー天使と魔族が生まれることとなる。

人間の知識と実験によって生まれたその二つの種族。
それから百年余り。三種の種族はとても仲良く協力して暮らしていた。

だが、人間の一生は短く、実験によって生まれた生命である天使と魔族の一生は長かった。
だからこそ、短い一生の人間と違い、天使と魔族は日に日に力をつけて行った。

人間によって生まれた存在だと言うのに、彼らは意図も簡単に魔術なんてものを使い始めた。

いつしか、力を持った天使と魔族は人間を劣る存在として見始めた。
人間が最初から世界に存在していた、人間によって天使と魔族が生まれた‥‥もはやそんなものは、天使と魔族の記憶の片隅にも残っていないのだから。

そして、第一の争いが始まる。

長くを生きる天使と魔族。その両者が対立を始めた。
世界を統治する権力を求めて。


【第二の歴史】

劣る存在になった人間は、天使に降る者、魔族に降る者、そして、天使と魔族に対抗する為に再び実験を始めた者もいた。
それはやはり、ネクロマンサーや生命術士だ。

そんな中で、独自に魔術を学ぶ人間がいた。
争いの日々の中、魔族にも天使にも属さず、自ら書物で魔術を学び、何にも縛られず、たった一人で生きていた男。
独自で学んだこの力で自らを守り、それが劣るのならば甘んじて死を受け入れようとすら思っていたのにーー生命術士とネクロマンサーによる非道な実験により、彼は不老不死の身となった。

同時に、天使と魔族の血肉で造られた剣。後に【英雄の剣】と呼ばれる代物。
決して、人間を傷付けることは出来ず、天使と魔族にだけ効果をもたらす剣。
天使と魔族の翼や魂をない交ぜにし、空間すら切り裂くことが出来るという。その剣を使い、天使と魔族を退け、空間を裂き、人間の安息の地を築けと生命術師やネクロマンサーは男に命ずる。
父親を殺され、母親を人質にとられた男は従うしかなかった。
浅ましい人間は、非道になりきれない男を見て、予備の存在も作ったが、その予備が表舞台に出ることはなかった。

そうして、道具に作り替えられた人間の男は剣で大地を斬った。
天界は空へ。魔界は地底へ。人間界はそのままで。

魔族と天使に憎しみの感情を植え付け、世界は分断されたのだ。


【第三の歴史】

分断された三つの大地。しかし、それには裏側があった。
人間界はそのままの大地に残ったが、全てではなかった。

一部の大地は分断され、遥か世界の端に、一つの大地が落ちた。
一部の人間はその大地と共に落ち、天使や魔族にせっかく勝ったというのに、もはや何も関係のない場所に放り出された。
なんの因果か、実験の末にその身に魔術を刻み込んだ人間ばかりが落ちたのだ。
だが、その小さな大地で、その人間達は生きるしかなかった。
それと共に、実験の成れの果ての怪物ーー魔物もいた。

魔術を魔法と言い換え、魔法というものが当たり前に存在し、世界を統べる人間の王様やお姫様が誕生し、生活を脅かす魔物と戦う世界。

魔法ーー生活の営みの為だけに使われる力。
天使と魔族に対抗する為、実験の果てに変化した人間の体。十五の歳を過ぎた頃、人間の体に魔力と言うものが生まれ、自然を生み出すことが出来るようになる特異体質となった。

先人は、天使と魔族のいた時代を隠し、この大地が分断されたということも隠した。
時は過ぎ、分断されたその大地に生きる人々は、もはや何も知らない。

だが、その小さな大地の歴史も長くは続かなかった。
たった一人の、魔女と呼ばれた少女により大地は消滅し、夢の世界が創造される。

夢の世界で魂達は抗い、道を作り、愚者に慈悲を与えた。
二人の愚者が誰にも知られない場所で孤独に戦い、そして、世界は甦った。
誰にも知られない、英雄だった。


【第四の歴史】

空には天界、大地には魔界が広がる大地。
人間の英雄の歴史が語り継がれ、天使と魔族が悪役に仕立て上げられていた。

かつて、ネクロマンサーと占術士は人間は短い一生と知り、子孫達の遺伝子に過去の記憶が残るように組み込んでいた。
ネクロマンサーと占術士の子孫達は、過去の時代の記憶を持って生まれて来る。

英雄と呼ばれるようになった人間の男。
彼は自分の予備として作られた存在が、全てを憎み、全てに復讐するのではと危惧し、魔術を人間達の中から消した。

だが、ネクロマンサーや人間を憎み続けた天使の女が予備と呼ばれた男に手を貸した。
しかし、逆効果だった。

大地は再び一つに戻り、人間と天使と魔族は手を取り合った。

英雄に仕立て上げられた悲しい男の意思を継ぎ、一人の人間の少年が英雄の剣を手にする。

苦しんで来た人々に、救いを。
人生を全うした人々に、救いを。
今度こそ、皆が平等になれる世界を。

もう二度と、悲しき英雄が生み出されない時代になることを。
英雄が必要のない世界を。

でも、それでもーー英雄の意味は数多にある。
何かを救う者、何かを破壊する者。それを行う者を、傍観者がどう捉えるか。
英雄とは、その行いを自らの救いだと捉える傍観者が決めるもの。

だから、もし誰かが自分の為の英雄を必要とするのならば、そういった救いが必要であるのならば、人は、英雄になれるのだろう。

壊すんじゃない。
歪ますわけじゃない。

大切な誰かの為の英雄になら、大切な誰かの笑顔を守る為だったら、その人が泣かなくていいのならば、喜んで英雄になろう。

一人の少年の願いが、予備と呼ばれた男に良心を取り戻させる。

世界に狂わされ、世界に裏切られ、世界に見捨てられ、何にも成れなかった彼。

彼は、成りたいものがあった。せめて、この体がその為に歪められたと言うのならば、せめて‥‥「英雄に、なりたかった」と。

世界を破壊しようとした男は涙を流し、復讐の手を止めた。

一人の少年の願いと犠牲により、人間界、天界、魔界は一つの大地を取り戻し、世界には平和が訪れた。
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