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④昔の話
全ての始まり-7
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ーーそうしてまた日は過ぎ、ヒロがサントレイル国を出て、シハルに出会ってから七ヶ月目となった。
今ではヒロはシハルと共にギルドの依頼をこなしている。
と言っても、まだまだ簡単な依頼ばかりであるが。
サラとカナタを置いていける理由は、カイアだ。
カイアは『ヒロとシハルの行いを'見張る'為!』と、最初の頃は言っていたが、今では五人で家族のように教会で暮らしている。
依頼から帰ったら、いつもカイアがご飯の支度をしてくれて、サラとカナタの身の回りのことも全て、彼がしてくれていて‥‥
彼は、まだまだ自分の中で葛藤して、疑問を抱きつつ異端者と接しているのであろうが、少しずつ変わってきている気がした。
ずっとずっと、ここで皆で居れたら幸せだな、と。
ヒロは思っている。きっと、皆もそう思っているはずだ。
そんなある日の、ギルドの依頼を終えてからの帰り道。
カイアからヒロに連絡魔法が届いたのだ。
「え‥‥!?」
ヒロはその内容に一気に顔を青冷めさせる。
「なんだったんだい?」
隣でシハルに尋ねられ、ヒロは泣きそうな顔になった。
いつものように、サラとカナタは一室で黙々と遊んでいたそうだ。
ぬり絵をしていたそうで、カイアもいつものように家事をしていた。
一段落して二人の様子を見に行ったら‥‥
二人の姿が無くなっていたと言うのだ。色鉛筆や、塗っていた絵も無くなっているらしい。
教会中を捜したが居ないそうで、まさかとは思うが、外に出た可能性があるかもしれないと、カイアは今、近隣の村へ向かっているそうだ。
「もしかして、教会のことがバレて、拐われたとか‥‥?!」
ヒロはそう言い、二人は慌ててカイアが向かっている村へと走り出す。
「わからない‥‥とにかくカイアと合流してからだ!」
シハルが言った。
するとそこで、再び連絡魔法が繋がって、
『ふ、二人が見付かりました!教会からずっと北に向かった海岸沿いに‥‥!』
カイアの声が届き、それを聞いてヒロとシハルはホッとしたが、
『でも、人が‥‥人が居て!二人のことを異端者だと気付いていてて‥‥!』
その言葉にヒロは息を飲む。
それは、二人が国に突き出されてしまう可能性が高いということだ。
「カイアはその人達と関わるな!とにかく、俺達が行くまで待っているんだ!」
シハルが言う。
カイアは戦えない。
揉め事になれば、カイアは圧倒的に不利だし、人々の前で彼に異端者を助けさせるわけにもいかない。
二人は急いだ。間に合え、間に合えと願って。
◆◆◆◆◆
「ヒロさん!シハルさん!」
二人の姿を見つけてカイアは叫んだ。
「サラとカナタは?!」
ヒロが聞けば、カイアは指を差す。
そこには崖があり、その下には海。
崖の上で、サラとカナタを囲むように二人の男が立っていて‥‥
すると、
「あ、あの人が‥‥」
と、カイアが言う。男二人以外のもう一人の姿をヒロも確認し、
「あれは‥‥波瑠さん!?」
先日の、着物を着た女性ーーあの村で異端者であるカナタを助けていたあの女性がそこに居た。
彼女は男二人と話をしている。
恐らくまた、異端者を‥‥サラとカナタを助けようとしているのであろう。
「波瑠‥‥?ああ、前にヒロさんが会ったって言ってた人か。とにかく、俺が行ってくる!」
シハルがそう言ってその場に向かうので、
「おっ、オレも‥‥カイアはここで待ってて!」
ヒロもシハルの後を追った。
「だからぁ、大の大人が子供囲んでビビらして恥ずかしくないのぉ?」
サラとカナタを囲む男二人に波瑠が言い、
「ビビるも恥ずかしいもないだろ、異端者に!それよりなんなんだ?コイツら助けようだなんて。姉ちゃん頭のネジ飛んでんのか?」
そう、一人の男は軽蔑するように波瑠を見て、それからヒョイッーーと、まるで猫の首を掴むようにカナタを持ち上げる。
「やめろ!!」
そこに駆け付けたシハルが叫んだ。
「カナタ‥‥!!その子を離して‥‥!」
ヒロはそう言って、
「なんだ?仲間か?それに、カナタぁ?異端者に名前なんてつけてるのか?」
もう一人の男が首を傾げ、それから大笑いをして、
「異端者連れてくより、お前ら取っ捕まえて突き出した方が良い値になりそうだな」
そう、にんまりと、いやらしい笑みを浮かべて言う。
「そっ‥‥それでもいいから!その子達を離して!」
ヒロが泣きそうな声で叫べば、カナタを持ち上げたままの男はニタリと笑って、
「あー、はいはい」
「まさか!!」
男の行動にシハルが気付き、動いた時には遅かった。
ドボンーー‥‥と、海が鈍い音を鳴らす。
「かっ‥‥カナタぁぁああ!!!」
ヒロは崖の下を、海を見ながら叫んだ。
カナタを持ち上げていた男は、海に向かって手を離したのだ。
カナタは崖から遥か下の海に、沈められていった‥‥
「ひっ、酷‥‥」
波瑠がその光景に小さく言い、そして、
「ぐぁああああ!!!」
と、カナタを海に落とした男の悲鳴が響く。
ーーシハルだ。
カナタを助けようと剣を抜き、だが間に合わなかったシハルはそのまま男を斬りつけた。
その男は剣圧に押されて崖から落ち、海に沈んでいく。
「ひいっ‥‥!?お、お前ら‥‥!人間じゃねぇ?!化け物だ‥‥!」
残された方の男がそう叫び、懐に持っていたナイフを無差別に投げ付けた。それは波瑠の方に向かい、
「波瑠さん‥‥っ、危ない!!」
「きゃっ!!」
咄嗟にヒロは隣にいた波瑠の体を押す。
ナイフは誰にも当たらず、地面に落ちた。
「化け物はお前らだろう!あの子を‥‥ただの、子供を‥‥さあ!その子を、サラをこちらに返せ!!」
シハルが怒りに震え、声を荒げさせる。
◆◆◆◆◆
ーーそこからの記憶は今でもとても曖昧で‥‥
いや、信じたくなくて‥‥頭の中が確か真っ白になっていたのだ。
男がカナタを海に落とし、その男自身もシハルによって海へ。
次にまた、残ったサラの側に居たもう一人の男にシハルは斬りかかった。
ーーサラを離せ、と。
だが、男は怯みつつも雷の魔術の呪文を口にしていて、怯んでいた為か、シハルに当たるはずの閃光は不安定な動きをし、再び波瑠とヒロの方に飛んで来ようとしている。
「‥‥は、波瑠さん、こっち!」
ヒロは波瑠の腕を引いて避けようとするが、魔術の動きは速い。
避けるには遅く、バチィッーー!!と、直撃の音を立てた。
「‥‥ぐぅっ!!」
だが、痛みの声を上げたのは、ヒロでも波瑠でもなく、シハルで‥‥
「え‥‥?」
ヒロは目を見開かせ、疑問を漏らす。
サラを助けようとしたシハルだったが、魔術が飛んだ先に気付いた時には咄嗟にヒロを庇っていて、男の魔術はシハルの背に直撃していた。
「ひっ、ひぃいいぃいぃ!!」
男はまるで錯乱したように叫び、サラを抱えて逃げ出そうとする。
「あ‥‥あぁっ‥‥さ、サラ!!かっ、カイア!」
ヒロは遠目に残してきたカイアに視線を向け、カイアはその男の後を追った。
ヒロも追いたかったが、自分を庇い、目の前に倒れたシハルを置いてはいけなかった。
「シハル、シハル!!」
ヒロは自分にもたれ掛かるシハルの体を支えながらその名を叫ぶ。
「ヒロ‥‥さん、サラ、を」
弱々しい声で言うシハルに、
「シハルを、置いては行けないよ‥‥カイアが今、男を追ってるから‥‥シハル、バカだ。どうしてあのまま、サラを助けなかったの‥‥」
ヒロが涙を流しながら聞けば、
「俺は所詮、異端者に対して‥‥まだまだ偽善の感情だった‥‥誰を助けるかの判断は‥‥サラより、ヒロ‥‥大切な、君だった‥‥んだ」
シハルはそこまで言って気を失った。
「し、シハル‥‥」
ヒロは俯き、
「‥‥偽善な、もんか」
そう呟く。
先程、カナタのことに対してシハルは怒りを露にした。
サラのことだってさっき、本気で助けようとしてくれた。
「‥‥でも、カナタ、サラ‥‥なぜ、こんなところに」
「‥‥ねえ、これ何?」
そこで、波瑠が地面に落ちた何かを見つけて拾い上げる。
それは、二人と共に消えた色鉛筆とぬり絵で‥‥
「カナタとサラの‥‥」
「なんなのぉ?」
「二人はよく、ぬり絵をしていて‥‥今日も、ぬり絵をしてたって」
その絵を見た瞬間、ヒロは肩を震わせた。
ーー海の絵が描かれたぬり絵だったから。
それが何を意味するのかはわからない。ただの、予想でしかない。
感情の無い彼らはその絵を見て、海を探して、この海が見える場所に二人で赴いたのだろうか?
子供の好奇心に似たものだろうか。
真意は、彼らにしかわからない。
「‥‥波瑠さんの言う通りでしたね、オレは‥‥痛い目を見た。誰も、助けれやしない」
「‥‥詳しい話は後にしましょ。あんた、前に言ってたわねぇ、安全な場所があるって。この人を運びましょ、ちょっと危険な状況だわぁ。あと、気掛かりなんでしょ?拐われた異端者の少女と、それを追った仲間のこと」
それにヒロは頷いた。
そして海を見て、
(カナタ、ごめん。本当に‥‥ごめん。私が、私なんかが助けたばかりに‥‥!私がカナタを殺してしまったようなものだ‥‥)
一緒に暮らして来た少年を思い、まだ若い命だったことを思い‥‥
ヒロは強い罪悪感を持った。
今ではヒロはシハルと共にギルドの依頼をこなしている。
と言っても、まだまだ簡単な依頼ばかりであるが。
サラとカナタを置いていける理由は、カイアだ。
カイアは『ヒロとシハルの行いを'見張る'為!』と、最初の頃は言っていたが、今では五人で家族のように教会で暮らしている。
依頼から帰ったら、いつもカイアがご飯の支度をしてくれて、サラとカナタの身の回りのことも全て、彼がしてくれていて‥‥
彼は、まだまだ自分の中で葛藤して、疑問を抱きつつ異端者と接しているのであろうが、少しずつ変わってきている気がした。
ずっとずっと、ここで皆で居れたら幸せだな、と。
ヒロは思っている。きっと、皆もそう思っているはずだ。
そんなある日の、ギルドの依頼を終えてからの帰り道。
カイアからヒロに連絡魔法が届いたのだ。
「え‥‥!?」
ヒロはその内容に一気に顔を青冷めさせる。
「なんだったんだい?」
隣でシハルに尋ねられ、ヒロは泣きそうな顔になった。
いつものように、サラとカナタは一室で黙々と遊んでいたそうだ。
ぬり絵をしていたそうで、カイアもいつものように家事をしていた。
一段落して二人の様子を見に行ったら‥‥
二人の姿が無くなっていたと言うのだ。色鉛筆や、塗っていた絵も無くなっているらしい。
教会中を捜したが居ないそうで、まさかとは思うが、外に出た可能性があるかもしれないと、カイアは今、近隣の村へ向かっているそうだ。
「もしかして、教会のことがバレて、拐われたとか‥‥?!」
ヒロはそう言い、二人は慌ててカイアが向かっている村へと走り出す。
「わからない‥‥とにかくカイアと合流してからだ!」
シハルが言った。
するとそこで、再び連絡魔法が繋がって、
『ふ、二人が見付かりました!教会からずっと北に向かった海岸沿いに‥‥!』
カイアの声が届き、それを聞いてヒロとシハルはホッとしたが、
『でも、人が‥‥人が居て!二人のことを異端者だと気付いていてて‥‥!』
その言葉にヒロは息を飲む。
それは、二人が国に突き出されてしまう可能性が高いということだ。
「カイアはその人達と関わるな!とにかく、俺達が行くまで待っているんだ!」
シハルが言う。
カイアは戦えない。
揉め事になれば、カイアは圧倒的に不利だし、人々の前で彼に異端者を助けさせるわけにもいかない。
二人は急いだ。間に合え、間に合えと願って。
◆◆◆◆◆
「ヒロさん!シハルさん!」
二人の姿を見つけてカイアは叫んだ。
「サラとカナタは?!」
ヒロが聞けば、カイアは指を差す。
そこには崖があり、その下には海。
崖の上で、サラとカナタを囲むように二人の男が立っていて‥‥
すると、
「あ、あの人が‥‥」
と、カイアが言う。男二人以外のもう一人の姿をヒロも確認し、
「あれは‥‥波瑠さん!?」
先日の、着物を着た女性ーーあの村で異端者であるカナタを助けていたあの女性がそこに居た。
彼女は男二人と話をしている。
恐らくまた、異端者を‥‥サラとカナタを助けようとしているのであろう。
「波瑠‥‥?ああ、前にヒロさんが会ったって言ってた人か。とにかく、俺が行ってくる!」
シハルがそう言ってその場に向かうので、
「おっ、オレも‥‥カイアはここで待ってて!」
ヒロもシハルの後を追った。
「だからぁ、大の大人が子供囲んでビビらして恥ずかしくないのぉ?」
サラとカナタを囲む男二人に波瑠が言い、
「ビビるも恥ずかしいもないだろ、異端者に!それよりなんなんだ?コイツら助けようだなんて。姉ちゃん頭のネジ飛んでんのか?」
そう、一人の男は軽蔑するように波瑠を見て、それからヒョイッーーと、まるで猫の首を掴むようにカナタを持ち上げる。
「やめろ!!」
そこに駆け付けたシハルが叫んだ。
「カナタ‥‥!!その子を離して‥‥!」
ヒロはそう言って、
「なんだ?仲間か?それに、カナタぁ?異端者に名前なんてつけてるのか?」
もう一人の男が首を傾げ、それから大笑いをして、
「異端者連れてくより、お前ら取っ捕まえて突き出した方が良い値になりそうだな」
そう、にんまりと、いやらしい笑みを浮かべて言う。
「そっ‥‥それでもいいから!その子達を離して!」
ヒロが泣きそうな声で叫べば、カナタを持ち上げたままの男はニタリと笑って、
「あー、はいはい」
「まさか!!」
男の行動にシハルが気付き、動いた時には遅かった。
ドボンーー‥‥と、海が鈍い音を鳴らす。
「かっ‥‥カナタぁぁああ!!!」
ヒロは崖の下を、海を見ながら叫んだ。
カナタを持ち上げていた男は、海に向かって手を離したのだ。
カナタは崖から遥か下の海に、沈められていった‥‥
「ひっ、酷‥‥」
波瑠がその光景に小さく言い、そして、
「ぐぁああああ!!!」
と、カナタを海に落とした男の悲鳴が響く。
ーーシハルだ。
カナタを助けようと剣を抜き、だが間に合わなかったシハルはそのまま男を斬りつけた。
その男は剣圧に押されて崖から落ち、海に沈んでいく。
「ひいっ‥‥!?お、お前ら‥‥!人間じゃねぇ?!化け物だ‥‥!」
残された方の男がそう叫び、懐に持っていたナイフを無差別に投げ付けた。それは波瑠の方に向かい、
「波瑠さん‥‥っ、危ない!!」
「きゃっ!!」
咄嗟にヒロは隣にいた波瑠の体を押す。
ナイフは誰にも当たらず、地面に落ちた。
「化け物はお前らだろう!あの子を‥‥ただの、子供を‥‥さあ!その子を、サラをこちらに返せ!!」
シハルが怒りに震え、声を荒げさせる。
◆◆◆◆◆
ーーそこからの記憶は今でもとても曖昧で‥‥
いや、信じたくなくて‥‥頭の中が確か真っ白になっていたのだ。
男がカナタを海に落とし、その男自身もシハルによって海へ。
次にまた、残ったサラの側に居たもう一人の男にシハルは斬りかかった。
ーーサラを離せ、と。
だが、男は怯みつつも雷の魔術の呪文を口にしていて、怯んでいた為か、シハルに当たるはずの閃光は不安定な動きをし、再び波瑠とヒロの方に飛んで来ようとしている。
「‥‥は、波瑠さん、こっち!」
ヒロは波瑠の腕を引いて避けようとするが、魔術の動きは速い。
避けるには遅く、バチィッーー!!と、直撃の音を立てた。
「‥‥ぐぅっ!!」
だが、痛みの声を上げたのは、ヒロでも波瑠でもなく、シハルで‥‥
「え‥‥?」
ヒロは目を見開かせ、疑問を漏らす。
サラを助けようとしたシハルだったが、魔術が飛んだ先に気付いた時には咄嗟にヒロを庇っていて、男の魔術はシハルの背に直撃していた。
「ひっ、ひぃいいぃいぃ!!」
男はまるで錯乱したように叫び、サラを抱えて逃げ出そうとする。
「あ‥‥あぁっ‥‥さ、サラ!!かっ、カイア!」
ヒロは遠目に残してきたカイアに視線を向け、カイアはその男の後を追った。
ヒロも追いたかったが、自分を庇い、目の前に倒れたシハルを置いてはいけなかった。
「シハル、シハル!!」
ヒロは自分にもたれ掛かるシハルの体を支えながらその名を叫ぶ。
「ヒロ‥‥さん、サラ、を」
弱々しい声で言うシハルに、
「シハルを、置いては行けないよ‥‥カイアが今、男を追ってるから‥‥シハル、バカだ。どうしてあのまま、サラを助けなかったの‥‥」
ヒロが涙を流しながら聞けば、
「俺は所詮、異端者に対して‥‥まだまだ偽善の感情だった‥‥誰を助けるかの判断は‥‥サラより、ヒロ‥‥大切な、君だった‥‥んだ」
シハルはそこまで言って気を失った。
「し、シハル‥‥」
ヒロは俯き、
「‥‥偽善な、もんか」
そう呟く。
先程、カナタのことに対してシハルは怒りを露にした。
サラのことだってさっき、本気で助けようとしてくれた。
「‥‥でも、カナタ、サラ‥‥なぜ、こんなところに」
「‥‥ねえ、これ何?」
そこで、波瑠が地面に落ちた何かを見つけて拾い上げる。
それは、二人と共に消えた色鉛筆とぬり絵で‥‥
「カナタとサラの‥‥」
「なんなのぉ?」
「二人はよく、ぬり絵をしていて‥‥今日も、ぬり絵をしてたって」
その絵を見た瞬間、ヒロは肩を震わせた。
ーー海の絵が描かれたぬり絵だったから。
それが何を意味するのかはわからない。ただの、予想でしかない。
感情の無い彼らはその絵を見て、海を探して、この海が見える場所に二人で赴いたのだろうか?
子供の好奇心に似たものだろうか。
真意は、彼らにしかわからない。
「‥‥波瑠さんの言う通りでしたね、オレは‥‥痛い目を見た。誰も、助けれやしない」
「‥‥詳しい話は後にしましょ。あんた、前に言ってたわねぇ、安全な場所があるって。この人を運びましょ、ちょっと危険な状況だわぁ。あと、気掛かりなんでしょ?拐われた異端者の少女と、それを追った仲間のこと」
それにヒロは頷いた。
そして海を見て、
(カナタ、ごめん。本当に‥‥ごめん。私が、私なんかが助けたばかりに‥‥!私がカナタを殺してしまったようなものだ‥‥)
一緒に暮らして来た少年を思い、まだ若い命だったことを思い‥‥
ヒロは強い罪悪感を持った。
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