脇役ほいほい

ar

文字の大きさ
上 下
18 / 53
④昔の話

全ての始まり-7

しおりを挟む
ーーそうしてまた日は過ぎ、ヒロがサントレイル国を出て、シハルに出会ってから七ヶ月目となった。

今ではヒロはシハルと共にギルドの依頼をこなしている。
と言っても、まだまだ簡単な依頼ばかりであるが。

サラとカナタを置いていける理由は、カイアだ。
カイアは『ヒロとシハルの行いを'見張る'為!』と、最初の頃は言っていたが、今では五人で家族のように教会で暮らしている。

依頼から帰ったら、いつもカイアがご飯の支度をしてくれて、サラとカナタの身の回りのことも全て、彼がしてくれていて‥‥
彼は、まだまだ自分の中で葛藤して、疑問を抱きつつ異端者と接しているのであろうが、少しずつ変わってきている気がした。

ずっとずっと、ここで皆で居れたら幸せだな、と。
ヒロは思っている。きっと、皆もそう思っているはずだ。

そんなある日の、ギルドの依頼を終えてからの帰り道。
カイアからヒロに連絡魔法が届いたのだ。

「え‥‥!?」

ヒロはその内容に一気に顔を青冷めさせる。

「なんだったんだい?」

隣でシハルに尋ねられ、ヒロは泣きそうな顔になった。

いつものように、サラとカナタは一室で黙々と遊んでいたそうだ。
ぬり絵をしていたそうで、カイアもいつものように家事をしていた。
一段落して二人の様子を見に行ったら‥‥
二人の姿が無くなっていたと言うのだ。色鉛筆や、塗っていた絵も無くなっているらしい。

教会中を捜したが居ないそうで、まさかとは思うが、外に出た可能性があるかもしれないと、カイアは今、近隣の村へ向かっているそうだ。

「もしかして、教会のことがバレて、拐われたとか‥‥?!」

ヒロはそう言い、二人は慌ててカイアが向かっている村へと走り出す。

「わからない‥‥とにかくカイアと合流してからだ!」

シハルが言った。
するとそこで、再び連絡魔法が繋がって、

『ふ、二人が見付かりました!教会からずっと北に向かった海岸沿いに‥‥!』

カイアの声が届き、それを聞いてヒロとシハルはホッとしたが、

『でも、人が‥‥人が居て!二人のことを異端者だと気付いていてて‥‥!』

その言葉にヒロは息を飲む。
それは、二人が国に突き出されてしまう可能性が高いということだ。

「カイアはその人達と関わるな!とにかく、俺達が行くまで待っているんだ!」

シハルが言う。
カイアは戦えない。
揉め事になれば、カイアは圧倒的に不利だし、人々の前で彼に異端者を助けさせるわけにもいかない。

二人は急いだ。間に合え、間に合えと願って。

◆◆◆◆◆

「ヒロさん!シハルさん!」

二人の姿を見つけてカイアは叫んだ。

「サラとカナタは?!」

ヒロが聞けば、カイアは指を差す。
そこには崖があり、その下には海。
崖の上で、サラとカナタを囲むように二人の男が立っていて‥‥
すると、

「あ、あの人が‥‥」

と、カイアが言う。男二人以外のもう一人の姿をヒロも確認し、

「あれは‥‥波瑠さん!?」

先日の、着物を着た女性ーーあの村で異端者であるカナタを助けていたあの女性がそこに居た。
彼女は男二人と話をしている。
恐らくまた、異端者を‥‥サラとカナタを助けようとしているのであろう。

「波瑠‥‥?ああ、前にヒロさんが会ったって言ってた人か。とにかく、俺が行ってくる!」

シハルがそう言ってその場に向かうので、

「おっ、オレも‥‥カイアはここで待ってて!」

ヒロもシハルの後を追った。


「だからぁ、大の大人が子供囲んでビビらして恥ずかしくないのぉ?」

サラとカナタを囲む男二人に波瑠が言い、

「ビビるも恥ずかしいもないだろ、異端者に!それよりなんなんだ?コイツら助けようだなんて。姉ちゃん頭のネジ飛んでんのか?」

そう、一人の男は軽蔑するように波瑠を見て、それからヒョイッーーと、まるで猫の首を掴むようにカナタを持ち上げる。

「やめろ!!」

そこに駆け付けたシハルが叫んだ。

「カナタ‥‥!!その子を離して‥‥!」

ヒロはそう言って、

「なんだ?仲間か?それに、カナタぁ?異端者に名前なんてつけてるのか?」

もう一人の男が首を傾げ、それから大笑いをして、

「異端者連れてくより、お前ら取っ捕まえて突き出した方が良い値になりそうだな」

そう、にんまりと、いやらしい笑みを浮かべて言う。

「そっ‥‥それでもいいから!その子達を離して!」

ヒロが泣きそうな声で叫べば、カナタを持ち上げたままの男はニタリと笑って、

「あー、はいはい」
「まさか!!」

男の行動にシハルが気付き、動いた時には遅かった。

ドボンーー‥‥と、海が鈍い音を鳴らす。

「かっ‥‥カナタぁぁああ!!!」

ヒロは崖の下を、海を見ながら叫んだ。
カナタを持ち上げていた男は、海に向かって手を離したのだ。
カナタは崖から遥か下の海に、沈められていった‥‥

「ひっ、酷‥‥」

波瑠がその光景に小さく言い、そして、

「ぐぁああああ!!!」

と、カナタを海に落とした男の悲鳴が響く。
ーーシハルだ。
カナタを助けようと剣を抜き、だが間に合わなかったシハルはそのまま男を斬りつけた。
その男は剣圧に押されて崖から落ち、海に沈んでいく。

「ひいっ‥‥!?お、お前ら‥‥!人間じゃねぇ?!化け物だ‥‥!」

残された方の男がそう叫び、懐に持っていたナイフを無差別に投げ付けた。それは波瑠の方に向かい、

「波瑠さん‥‥っ、危ない!!」
「きゃっ!!」

咄嗟にヒロは隣にいた波瑠の体を押す。
ナイフは誰にも当たらず、地面に落ちた。

「化け物はお前らだろう!あの子を‥‥ただの、子供を‥‥さあ!その子を、サラをこちらに返せ!!」

シハルが怒りに震え、声を荒げさせる。

◆◆◆◆◆

ーーそこからの記憶は今でもとても曖昧で‥‥
いや、信じたくなくて‥‥頭の中が確か真っ白になっていたのだ。


男がカナタを海に落とし、その男自身もシハルによって海へ。

次にまた、残ったサラの側に居たもう一人の男にシハルは斬りかかった。
ーーサラを離せ、と。

だが、男は怯みつつも雷の魔術の呪文を口にしていて、怯んでいた為か、シハルに当たるはずの閃光は不安定な動きをし、再び波瑠とヒロの方に飛んで来ようとしている。

「‥‥は、波瑠さん、こっち!」

ヒロは波瑠の腕を引いて避けようとするが、魔術の動きは速い。
避けるには遅く、バチィッーー!!と、直撃の音を立てた。

「‥‥ぐぅっ!!」

だが、痛みの声を上げたのは、ヒロでも波瑠でもなく、シハルで‥‥

「え‥‥?」

ヒロは目を見開かせ、疑問を漏らす。
サラを助けようとしたシハルだったが、魔術が飛んだ先に気付いた時には咄嗟にヒロを庇っていて、男の魔術はシハルの背に直撃していた。

「ひっ、ひぃいいぃいぃ!!」

男はまるで錯乱したように叫び、サラを抱えて逃げ出そうとする。

「あ‥‥あぁっ‥‥さ、サラ!!かっ、カイア!」

ヒロは遠目に残してきたカイアに視線を向け、カイアはその男の後を追った。
ヒロも追いたかったが、自分を庇い、目の前に倒れたシハルを置いてはいけなかった。

「シハル、シハル!!」

ヒロは自分にもたれ掛かるシハルの体を支えながらその名を叫ぶ。

「ヒロ‥‥さん、サラ、を」

弱々しい声で言うシハルに、

「シハルを、置いては行けないよ‥‥カイアが今、男を追ってるから‥‥シハル、バカだ。どうしてあのまま、サラを助けなかったの‥‥」

ヒロが涙を流しながら聞けば、

「俺は所詮、異端者に対して‥‥まだまだ偽善の感情だった‥‥誰を助けるかの判断は‥‥サラより、ヒロ‥‥大切な、君だった‥‥んだ」

シハルはそこまで言って気を失った。

「し、シハル‥‥」

ヒロは俯き、

「‥‥偽善な、もんか」

そう呟く。

先程、カナタのことに対してシハルは怒りを露にした。
サラのことだってさっき、本気で助けようとしてくれた。

「‥‥でも、カナタ、サラ‥‥なぜ、こんなところに」
「‥‥ねえ、これ何?」

そこで、波瑠が地面に落ちた何かを見つけて拾い上げる。
それは、二人と共に消えた色鉛筆とぬり絵で‥‥

「カナタとサラの‥‥」
「なんなのぉ?」
「二人はよく、ぬり絵をしていて‥‥今日も、ぬり絵をしてたって」

その絵を見た瞬間、ヒロは肩を震わせた。
ーー海の絵が描かれたぬり絵だったから。
それが何を意味するのかはわからない。ただの、予想でしかない。
感情の無い彼らはその絵を見て、海を探して、この海が見える場所に二人で赴いたのだろうか?
子供の好奇心に似たものだろうか。
真意は、彼らにしかわからない。

「‥‥波瑠さんの言う通りでしたね、オレは‥‥痛い目を見た。誰も、助けれやしない」
「‥‥詳しい話は後にしましょ。あんた、前に言ってたわねぇ、安全な場所があるって。この人を運びましょ、ちょっと危険な状況だわぁ。あと、気掛かりなんでしょ?拐われた異端者の少女と、それを追った仲間のこと」

それにヒロは頷いた。
そして海を見て、

(カナタ、ごめん。本当に‥‥ごめん。私が、私なんかが助けたばかりに‥‥!私がカナタを殺してしまったようなものだ‥‥)

一緒に暮らして来た少年を思い、まだ若い命だったことを思い‥‥
ヒロは強い罪悪感を持った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

処理中です...