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恋慕
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しおりを挟む「素晴らしい!素晴らしい!」
笛と竪琴の音が止むと、尾の長い蝶のようにひらひらと薄い布が宙を舞い、踊り子はその場に跪いた。
王座に座り踊りを鑑賞していたシドルフ国王が手を叩き賞賛すると、宴の席についていた公爵や伯爵達も手を叩いて頷き、髭を撫でては満足気に口角を吊り上る。
拍手が鳴り止むと、立ち上がったシドルフ国王はワインを片手に声高らかに言った。
「隣国サバトラを我が手中に治めた証の戦利品が金貨の輝きよりも美しい踊り子とはガリー大佐も気が利く。賢者達が集まった宴で妖精の如く踊って見せたその者、ヴェールを上げ顔を見せよ」
王が言ったその言葉に場は少しざわついた。
顔を見せろ、と踊り子に命ずることは滅多にあることではない。それほど素晴らしい踊りを見せた女の顔、見てみたいと誰もが思う。勿論、シドもその一人だった。護衛も兼ねシドは毎回宴の席を用意され、その度に踊り子の舞いを見物してきたが、王が顔を見せろ、と言ったのは初めての事だった。
少し躊躇したのか時間を置いてから、その踊り子はゆっくりとヴェールと、顔を上げた。
「なんと……美しい……!」
その大きなブルーの瞳、彫刻のように筋の通った鼻、薔薇色の唇。
目の下に装飾された粒の宝石が煌めき、その妖艶な美しい顔を際立たせている。
誰もが女かと思った。
けれど、シドには一目でわかったのだ。
あの時あの雨の中、踊っていた男・だと―。
王が満足げに頷くと、踊り子はまたヴェールで顔を覆った。
「さあ諸君、もう一度彼女に踊ってもらうとしよう。実は今日は祝福して頂き事がある。私の愛すべき勇者、シド・ローレンと、私の愛する末娘ルビー・エドガーが婚約したのだ!」
おお!それはそれは、なんというめでたい事だ―皆が口々に祝福を述べ、その場は一気に活気溢れた。
シドは立ち上がり、右手を胸にあて三度会釈をした。
それとともにもう一度笛と竪琴の軽快な音楽が流れ始め、踊り子は鳥のように踊り始めた。
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