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7、契約

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「ふぁぁ…」

朝、目が覚めた凪は、昨夜サルージャに言われたことを思い出す。

────────────────────

ご飯を食べた後。

「ナギ、ちょっといいか」

少しかしこまったような感じで話しかけてきたサルージャ。

「なんですか?」
「あぁ、明日のことなんだが…。明日、君の召喚獣との契約を執り行う」
「召喚獣って?」

聞きなれない単語に目を瞬く凪。

「妖精や精霊、幻獣、天使や悪魔そういった人や亜人とは異なる存在を呼び出し使役するんだ」
「へー」

わかるような分からないような微妙な反応を返した。

「朝、ご飯を食べた後に行うから早めに起きて準備をしておくように」
「わかりました。あの、皆さんは召喚獣って持ってるんですか?」
「持っている…という表現は少し語弊があると思いますが、まぁ、使役はしていますよ?」

少し苦笑しながら教えてくれるイージス。

「見せてもらったりは…」
「出来ねぇな」

スッパリ切り捨てたヴィルム。

「ですよねー」

少し落ち込んだ様子の凪を見て、ロルフが慰めてくれた。

「…大丈夫。……オレはヴィルと違って見せてあげる」
「え?」
「せやせや、遠慮せんで見ていいで?ワイも見せたるけん。ヴィルムみたいな意地悪なやっちゃ無視してええけんな」
「ありがとうございます」

マルクもすかさず慰めてくれる。嬉しくなって凪が笑顔を二人に向ければ、サルージャ、イージスも見せてくれると言う。感謝の言葉を伝えたら、

「お、俺も見せてやる!特別だぞ、特別っ!」

慌てたように自分も見せると言い出すヴィルム。その様子に少し笑いながら、ありがとうと伝えれば照れたように、

「お、おぅ。でも、明日な!」

という。皆も明日見せてくれるようなので、明日のお楽しみということになった。

────────────────────

「召喚獣かぁ」

もふもふな獣をイメージする。乙女というよりも少女な凪にとっては美人やイケメン、カッコイイ召喚獣よりも、可愛くてもふもふした存在の方が嬉しいのだ。
鼻歌を歌いながら、朝食の準備にかかる。

「えっと、今日は…」

冷蔵庫(電気ではなく魔石で稼動する)にある食材を見ながら考える。

「朝だから、あっさりしたものがいいよね」

パンとレタス(?)と卵を用意し、昨夜のコンソメスープの残りを温めた。
パンはフランスパンのような長いパンを2、3センチ幅に切っていく。レタスもパンに合わせた大きさに切り、のせ、さらにその上に半熟に焼いた目玉焼きをのせる。軽く胡椒を振りかけたら完成だ。コンソメスープも丁度温まったので全員を呼びに行く。

「「「「「恵みの神に感謝を」」」」」
「いただきます」

全員が揃い手を合わせて感謝の言葉をのべ、さぁ食べようかという所でサルージャが質問してきた。

「ナギ、昨夜も気になったのだが、その…いただきますとはなんなんだ?」

当たり前といえば当たり前の質問だ。素直に答えた凪。

「私が前にいたところでの食前に言う言葉です。食材を作ってくれた人、また、その食材に対して感謝していただく。という意味なんです」
「そうなのか」

それに納得するサルージャ。しかし、少し顔に陰りがあるように感じた。
凪は知らなかったのだが、この国、または他国では食前の言葉は神に感謝をするのが常識だ。そのため、凪のような挨拶はここよりもはるか遠くの国か、規模の小さな辺境の村などでしか考えられないのだ。

「今日はご飯を食べたら召喚獣と契約をするんでしたよね?」

サルージャの表情には気づかずに話を変える凪。

「えぇ、ご飯を食べた後に案内します」

イージスが答えてくれる。

「どうやってするんですか?」
「召喚用の魔法陣に入り血を一滴垂らして、自分と契約してくれるように祈るんです。ちなみに、契約の途中で陣から出たり、外部の人間がその陣に入るのは禁止されています」
「そうなんですか」
「そうせんとな、契約が未完了のまま出たりしてしもうたら、その呼ばれた奴が暴れ出す危険性もあるんよ。逆に、外部の奴が入ったりしたらそいつが死ぬ危険性もある。それに加え、その召喚されたやつがその入ってきたやつに奪われる可能性もあるんや」
「なるほど」

マルクの説明の補足を聞いて安全な訳でも無いことを理解した凪。

「ま、そんなバカをやらかすやつなんていねぇんだけどな」

ニカッと笑って凪の頭をポンポンしながら言ってくるヴィルム。

「そういう事だ。心のままに呼んだらいい」

サルージャのその言葉を聞いて、安心し、食事を再開した。

「さ、ここが召喚を行う場所です」

ご飯を食べた後、案内されたのは何やら王様とかが謁見しそうな場所。

「本当にここであってるんですか?」

召喚陣を囲うように貴族のような人達が大勢いるため確認をする。

「えぇ」

ニッコリと笑って肯定をするイージス。
ちなみに、今の凪の格好はこの国の魔術師が着るローブを羽織り、中には白いブラウスに黒のチョッキを着て、下は膝丈の黒いズボンに黒の靴下、茶色のブーツを履いている。長い髪は耳の上の高さでひとくくりに黒いリボンで結んでおり、目は隠していない。

「あの、でも…なんか偉そうな人たくさんいませんか?」
「えぇ、国の重鎮達です」

その言葉を聞いて顔を引き攣らした。

「な、なんでそんな人達が…?」
「仕方がないことなんだ。8つの属性を持つ人間は今までの歴史の中でひとりとして見つかったことがない。安心していい、国の重鎮と言っても皆、信用できる人たちだ。それに、君が女の子だということは国王とその側近数名にしか知られていない」
「そうですか」

緊張しながらも、一応納得した様子の凪。サルージャ達に促され、その円の中心に向かった。

「今から召喚魔術を行う。全員離れてくれ」

静かに、しかし、存在感のある声でそう言うこの集団の中で一番偉そうな人。その人の言葉を聞き、全員が下がる。

「ナギ、血を垂らして祈れ」
「わかりました」

この召喚には詠唱がいらないらしいので、言われたとおりにする。

(もふもふ、もふもふ来て…)

目を瞑り、手を結びながら片膝を立て座った凪。そうすると、次の瞬間、魔法陣が眩い光を発した。その場にいた全員がそのあまりにも強い光に思わず目を瞑った次の瞬間、光が収まり、目を開けると陣の中にいた存在に目をむいた。
凪も目の前に何かいる存在を感じ、恐る恐る目を開け、その存在を目にして思わず一言、

「え、もふもふじゃない」

そう呟いた。辺りは静寂に包まれる。

『ははっ、すまぬな、期待に添えず』

とくに気分を害した様子もなく、そう言って笑う陣の中心にいる人物。漆黒の髪に紫の瞳、顔は大変整っており、タレ目からは大人なフェロモンがダダ漏れだ。しかし、人型。背中には羽が生えているようだが、どう考えても人だ。

「えっと、どなたですか?」

目の前の存在が只者ではない感がしたので質問する凪。

『そうじゃな、大昔には魔王と呼ばれておったな』

あっけらかんという、目の前の魔王。

(て、え?ラスボス来ちゃってるじゃん)

動揺する凪。しかし、それ以上に動揺したのが周りにいた人達だ。何人か気を失ったようだ。

「その、大昔ってことは、今は違うんですか?」
『あぁ、魔王は辞めた。魔界は別の奴が治めておる。今は名のないただの老いぼれじゃ。何やら気持ちのいい魔力に惹かれての、思わず出てきたのじゃ』

少し照れたように笑うイケメンなおじ様、いわゆるイケおじ。眼福だ。

「えっと、それで、私と契約って結んでもらえるんでしょうか?」
『もちろんじゃ。しかし、うぬはそれでいいのか?もふもふしたのが良かったのであろう?』
「それは…そのぅ……」

流石に、「はい、その通りです」とは言い出せない凪。しどろもどろな様子に笑った魔王はポンと煙に包まれ、次の瞬間には羽の生えた狼のような獣の姿になった。

『これならどうじゃ?』

凪よりも大きかったが、丸くて大きな目に、もふもふな毛、フサフサと触り心地が良さそうな尻尾を見て、すぐに、

「よろしくお願いします」

笑顔と一緒に契約を結んだのだった。
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