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5、衝撃の連続

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「こっちだ」
「いえいえ、こっちでしょう」
「こっちがええわなぁ」
「…こっち」
「……もうどれでもいいですよ」

目の前に並べられた洋服を遠い目で見つめる凪。着替えも生活用品も一切持っていなかった凪はサルージャ達と一緒に買い物に連れていかれた。強制的に。

(もうどうせさ、全部男物なんだからどれでもいいよ)

派手なもの、可愛いもの、カッコイイもの、シンプルなものいろんな種類がある。が、繰り返し言うが男物だ。

「これはどうだ?」

 サルージャが持ってきたのは猫耳フードつきの黒いポンチョ。持ってきた人が持ってきた人なので思わず二度見してしまった。

「そうか…、駄目か…すまない」
「いっ、いえ…可愛いです。嬉しいです」

 しゅんと見えない耳が垂れる幻覚を見た。慌てて言葉をつむぐ凪。

「そうか…!」

 途端にパァァッと花が咲くように笑うサルージャ。誰もが思った。誰だこれは、と。

「うわぁ、何あれ」
「なんか、ある意味ずるいなぁ」
「あざといですね」
「…誰」

 サルージャの変わりように全員が目をむく。

「あ、あの、でも私、お金持ってないんですけど…」

 そう、手ぶらでこの世界に来た凪はお金を持っていない。仕事にはつけたが給料が出ないと買い物もできないのだ。

「気にしないでいい。女性へのプレゼントは男にとってステータスだ」
「……」
(そうですか)

 あえて何も言わない。突っ込んだらいけないのだろう。

「ありがとうございます。男の人からの贈り物も初めてだけど、着替えとか何ひとつ持ってないので嬉しいです」

 凪のその一言で凍りつく周り。

「変なこと言いましたか?」

 キョトンとした顔で首を傾げる凪。とんでもないことを言った自覚がない。サルージャを含めた男性陣はごにょごにょと陰で集まって話を始めた。

「どうする?」
「どうするって、なぁ?」
「そうですね。もうどうするかは決まっていると思いますよ?」
「…その通り」
「じゃあ、各自目的のものを持ってくるように」
「何分後にここに来ればええん?」
「だいたいの物は決まってるだろう?」
「では、三十分が妥当でしょうか?」
「…うん、それなら充分」

(何するんだろう?)

 お店が空いていたせいで筒抜け状態の会話。まったく内緒話になっていなかった。

「ナギ、俺たちはこれから30分ちょっと外に出てくるがここで待ってられるか?」
「…子ども扱いして欲しくないんですが」

 凪はいちおう十三歳の女の子だ。

「何言ってんだ。十三歳っていやぁまだまだガキだろう?」
「成人は三十歳ですしね」

(えっ!?)

「あ、あの…成人って三十歳なんですか?」
「…そうだよ」
「ちなみに、平均寿命は?」
「魔力量によるけど大体は百五十から二百歳だな」
「エッ?」

 聞き間違いだろうかと自分の耳を疑う凪。なんと、この世界は人間は百五十~二百歳が平均寿命らしい。日本の2倍近くあるだろうか。見た目もそれだけ老けるのかと思われたが、二十歳くらいで見た目が歳をとるのを止めるらく、百歳をすぎてから緩やかに再び歳をとり始めるらしい。なんとも不思議な世界だと凪は思った。

「その、失礼じゃなかったら教えて欲しいんですけど…全員何歳なんですか?」

 こういう話をするということは、全員三十歳を超えたのではと考えた凪は思い切って聞いてみた。その答えはと言うと…

「え?ワイは二十歳やなぁ」
「俺は十八歳だ」
「私は十九歳ですね」
「俺も十九歳だ」
「…オレ、二十二歳」

 全然成人していなかった。というよりも気になったことがあった。

(なんで青い髪の人、一番年下そうなのに一番年上なの!?しかも、ヴィルムさんが十八歳とか嘘でしょ!?一番年上そうじゃん)

 実年齢と見た目は釣り合わないのだと理解出来た瞬間だった。凪が軽いショックを受けている間に、男性陣はさっさと店を出ていく。

「ほな、行ってくるわぁ」
「三十分後にな」
「また後で」
「…行ってくる」
「この店の中を好きに見てていい。欲しいものがあったらそこのカゴに入れておけ」
「えっ、えっ?…ちょ、ちょっと…」

 凪が気づいた時にはもう全員出て行ったあとだった。仕方なしにやることもないので店内を見て回る。フリフリのかわいい服やフードにネコやウサギの顔が可愛く描かれて後ろには尻尾までついている着ぐるみパジャマ。女心をくすぐるのもがいっぱいあった。

「誰もいないし、試着しても見られないよね…!」

 自分の欲に負けた凪はそう言って色々な服を試着してみた。

「これもいいな、あ、これも。これはちょっとカッコイイ」

 色々な服を手に取りルンルン気分でいろんな服を試す。そうしていると、もちろん時間はあっという間に経つわけで…。

「うわー、この着ぐるみパジャマのうさぎ可愛い。ちょっと無気力な顔してるけどそこも可愛い」
「そうやなぁ、ワイとしてはこっちのドレスを着てほしいんやけど」
「いや、ドレスなんて…」
「じゃあ、この髪飾りとかどうだ?」
「そうですね。日常的には使えそうです」
「筆記用具も必要ですよね?」
「確かに、仕事には必要ですね」
「…お菓子」
「私、甘いもの大好きなんです!…って、え!?」

 何気なしに会話をしていたが、全員が戻ってきていることにやっと気づいた。ウキウキしている様子を見られていたことに顔を真っ赤にする凪。サルージャ達はニヤニヤしている。

「戻ってきたなら、声をかけてくださいよ」

口を尖らせて抗議をする。

「何言ってるんだ。声はかけただろう」
「いや、確かに声はかけていましたがそういう事じゃなくてですね…というか、その皆さんが持っている大量の紙袋や箱はなんですか?」

戻ってきた全員の手や足元にはたくさんの荷物があった。

「「「「「…何って、プレゼント?」」」」」
「誰にあげるんですか?」
「お前だよ」
「君に決まっとるやろ?」
「あなたしかいませんね」
「…嫌、だった?」
「返品してこようか?」
「い、いえいえ。返品しなくてもいいんですが、なんでそこまで…」
「何も持ってないんだろう?」
「え、はい」
「じゃあ黙って受け取れ」
「え?」
「抗議するなら今すぐこの場で全部燃やしてやるぞ?」
「いえ、貰います!ありがたく使わせていただきます!」

もはやプレゼントと言うには渡し方が脅迫じみていた。ヴィルムの目が本気だと物語っていたため、すぐに返事をする凪。

「じゃあ、戻ろうか」
「あの、」
「何だ?」
「これだけの荷物、持つの大変じゃないんですか?」

プレゼントの山を見て聞いてみる凪。それに全員がニヤリと笑う。

「「「「「宮廷魔術士団長を舐めるなよ?」」」」」

口を揃えて言ったその言葉にポカーンと口を開ける凪だった。未成年なのに団長とかこの国大丈夫なのかと心配になったことは秘密だ。
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