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1 プロローグ

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  グランバッハ帝国とトリトニー公国が戦争の真っ只中、グランバッハ帝国にあるワーズナー公爵邸で女の子が生まれた。

  漆黒の髪に赤褐色の瞳をしたその子は、ディージェ・ワーズナーと名ずけられ………たのは一ヶ月後で、生まれてすぐに屋敷で全く使われることのなかった地下室で過ごすこととなる。

  定期的に掃除はしてあるものの、ホコリっぽさが常に残り誰も気味悪がって近寄ろうとしない地下室。

  なぜ、生まれてすぐの赤子がそんな所で生活することになったのか。

  それは、誰にもわからなかった。

  ……。

  ………………。

  ………………っわけ、ないでしょ!

  誰も近寄らない地下室?
  常にホコリっぽさが残ってる?

  そんな所に赤ちゃんを放置するとかなに考えてんの?アホなんちゃうん!?

  しかも、名前つけんのに一ヶ月って…どんだけ悩んだのかなー?もしかして、大事すぎて安全そうな地下室で世話させてるとか?
  わー、それだったら幸せだねっ!

  ……なんで、思うわけないよ!

  はぁ、まったく。

  コホン、冒頭の物々しさから一変。突然、誰だかわからない人間が文句を言い始めて戸惑っていることでしょう。
  勘の鋭い人は私の正体がわかるかも知れませんが、一応自己紹介をしておきます。

  私の名前はディージェ・ワーズナーと申します。
  お察しの通り、生まれてすぐ地下室行きとなった赤ちゃん本人です。

  いや、無理があるだろ!っと思う方もいると思います。いや、もしかしたら思わない人の方が多いのかな?

  私は所謂イレギュラーという存在でして、前世の記憶を持ったまま生まれてきてしまった人間のよう。
  前世の名前は捨ててしまいたいので、これから名乗ることは一切ありません。
  ただ、一つだけ教えることができるのは、前世の私の両親は私に対して無関心で冷めきった家庭だったことと、ブラックな会社で働いていたということくらいです。ちなみに、死因は過労死です。
  あの会社、体面だけは良かったからなぁ。
  完っ全に!労働基準法無視してたけど。

  何はともあれ、新しく生を受けたわけですが今世もろくな親に恵まれなかったろうです。

  冒頭での説明のとおり、私の属するグランバッハ帝国とその隣国であるトリトニー公国が戦争中で今世の父親は兵士の一人としてその戦争に駆り出されています。
  戦争が始まって約一年、今は停戦状態ですがいつ戦が始まってもおかしくない状態と侍女が話しているのを聞きました。

  ぶっちゃけ、和平を結ぼうよ。

  何が原因で戦争になったのか、私の世話をする侍女達の会話から情報は得られないけど、それはしかたない。一年も戦争して馬鹿じゃないの?国民のこと考えようよ。

  それよりも今重要なのは、どうして私は地下室にいるのかということ。

  はっきり言いましょう。
  私、ディージェ・ワーズナーは今世の母親であるワーズナー公爵夫人が一夜の過ちを犯した相手との間に生まれた子どもです。
  何が言いたいかわかりますよね?
  私、ワーズナー公爵家の厄介者なんです。

  どうして母がそんなことをしたのか、それは戦争に駆り出された父がこの一年一度も家に帰ることが出来ていないのが原因。
  勿論、父に問題があったわけではありません。
  父がいないことをいいことに戦争に参加していない若い男を取っかえ引っ変えしていた母が悪いのです。

  不倫、ダメ、絶対。

  私の存在は母にとっては自分の地位が揺らぐ最悪な存在。
  しかし、だからといって生まれてすぐの赤子を殺したなんて情報が漏れでもしたら大変なことになる。それも、の子供を殺したとあっては。
  幸いなことに私の容姿は母にも母が不倫した男達の誰にも似ていなかった。
  つまり、血縁だとバレる可能性は低いのだ。
 
  殺さずにひっそりと生かしているということは、いつか政治的に利用される可能性があるということ。

  いやはや、今世では自由に生きたいものです。
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