勇者アーサーの物語〜『勇者』であることを疑われていますが、正真正銘予言されし『勇者』兼学生ですがなにか?〜

ひのと

文字の大きさ
上 下
11 / 21

第10話 ゲス顔の『勇者』はアリか?

しおりを挟む


(んー……何だか温かい)

 とても、優しい温もりに私の身体が包まれている───幸せ!

(これが……本当の幸せ)

 ───ずっとずっと私の心はどこか満たされないままだった。
 お母さんの顔色と機嫌だけを窺って生きていたあの頃。
 伯爵家に引き取られてからは「使えない」「ダメな子」「役立たず」散々、罵られた。
 少しでも褒めて貰えるようにと頑張ったけど、なかなか思うようにはいかなかった。

 全ての記憶が繋がってから、私にとっての幸せだった時を思い出そうとすると、そこにはあの男の子───カイザルがいる。

(初めてのお友達……)

 愛とか恋とかはよく分からなかった。
 それでも、私はカイザルと会っていたあの短い日々が楽しくて大好きだった。

(ありがとう、カイザル───)

「……眩し…………朝?」

 そんな幸せな気持ちで私は目を開ける。
 陽の光がかなり眩しい。
 もしかしてこれは結構いい時間なのでは?
  
(今、何時かしら?  どうして誰も起こしてくれな───)

「ん?」

 そこで自分の身体に巻きついている腕が目に入った。

「ひっ!  腕……人間の腕、よね?」

 最初に私は自分の腕の確認をした。間違いなく私の腕──はここにある。

「これは…………ハッ!」

 そこで、ようやく昨夜のことを思い出した。
 初夜が延期になったはずなのに、カイザルは部屋に戻らず私をベッドに押し倒して──

(たくさんキスをされた気がする!  それで、私……頭の中がトロンとして……)

「え……まさかの寝落ち?」

 そうとしか思えなかった。だってそこから先の記憶が無い。
 そうなるとこの腕、それとこの温もりは───

(一晩中、抱きしめてくれていたのかしら?)

 私を包むカイザルの温もりが、とにかく“私のことを大好き”と言ってくれているみたいで幸せな気持ちになれた。

「うっ……ん…………」
「は!  カイザルもお目覚めかしら?」

 私は慌てて後ろを振り向きカイザルの顔を見ようとした。

「…………コ、レット…………シェイ、ラ……」
「…………」

 すごいわ。ベッドの上で私を抱きしめながら、二人の女性の名前を寝言で呼んでいる。
 とっても不誠実な発言のはずなのに、ただの一途になっているという……

 私はそっとカイザルの頬に手を触れる。
 そしてそこに自分の顔を近づけてチュッと彼の頬にキスをした。

「カイザル───ありがとう」

 シェイラを強く想ってくれて。
 そして、コレットを見つけてくれて───


 ────


「……ん?  コレット?」
「───おはよう、カイザル」

 どうやらカイザルの目も覚めたらしい。
 だけど、少し寝ぼけているのかどこか焦点の合わない目で私をじっと見る。

「可愛い可愛い俺のコレットがいる……」
「カイザル?」
「夢の中でもコレットが俺の腕の中にいたのに、目が覚めてもコレット……」
「……コレットです」

 私がそう答えると、カイザルがへにゃっと笑った。

「──!?」

 これまで見たことのないその笑顔?  に私は大きく戸惑った。

(……もう!  本当にカイザルがわけ分からないわ!)

 小説では、愛してもいない私を娶りお飾りの妻として冷遇するはずのカイザル……
 今はこんなにヘニャヘニャの笑顔を見せている。
 小説と現実は違うのだと、すでにたくさん実感させられてきたけれど……

(……あの妙に無口な日々はなんだったの?)

 そのことも聞きたいと思っていたのに、まだ聞けていなかったことを思い出した。

「ねぇ、カイザル!」
「ん~?  コレット?」
「……っ」

 カイザルがへにゃっとした笑顔のまま私の名前を呼ぶ。
 ちょっと今聞いても大丈夫かな?  と思ったけれどやはり忘れないうちに聞いておこうと思った。

「……どうしてあなたずっと無愛想で無口だったの?」
「……無口?」
「私の記憶の中のカイザルも、それに昨夜のあなたもよく喋る人だったわ」
「……よく喋る?」
「なのに、結婚してから……いいえ、顔合わせの時もね?  あなたはびっくりするくらい無口だった。どうして!?」

 私が勢いよく訊ねると、カイザルはしばらく考え込んでから、ボンっと顔を赤くした。

「え……」

 何故ここで顔が赤くなる?

「そ、そ、そそそれは……」
「それは?」

 躊躇うカイザルに私はグイッと迫る。

「……」
「カイザル!」
「う!  ………………から」

 ようやくカイザルは観念したのか、ポソッと言った。

「シェイラが……」
「シェイラ?  どうして私?」
「────シェイラが言ったじゃないか!」
「ん?」

 私は首を傾げてカイザルの次の言葉を待った。

「しつこい男や口うるさい人は嫌われる……」
「え!」
「男の人は少し無口でミステリアスな人がカッコイイと!」
「…………あ!」

 そう言われてカイザルとの会話を思い出した。
 あの頃は“ミステリアス”がよく分からなかったけど確かにその話をしていた。

 ───よく分からないが、男は無口な方がカッコイイ……というわけか
 ───そうみたい
 ───ふーん……

(も、もしかして、あの時のカイザルの「ふーん……」は……興味のないふーんではなく……)

「え!  そ、それで……?」 
「……」

 私がびっくりしてカイザルの顔を見たら茹でダコになったカイザルが頷く。
 そして必死な顔で私に言った。

「───す、好きな人にはカッコイイと思って貰いたいじゃないか!」
「!」
「シェイラ……いや、コレットに少しでも俺をカッコイイと思って、それで俺を好きになってもらいたかったんだ!!!!」

(────やだ、可愛い!)

 そんなカイザルの言葉に私の胸が盛大にキュンとした。
 カイザルが望んだカッコイイではなく可愛い……でだけれど。

「それであんな態度を?」
「…………ミステリアスだっただろ?」
「……」

 いや、ただのコミュ障だったわよ……とは言えない。
 だけど、なんて不器用な人なの……そんな無理しなくても私は───

「……カイザルのことが好き」
「え?」
「無口だろうとお喋りだろうと関係ないわ?  私はあなたが好きよ」
「コレット……」

 カイザルの目が大きく見開かれる。

「シェイラも…………あなたが好きだったわ、カイザル」
「シェイラ……も?」
「ええ!  毎日毎日あなたに会えるのが楽しみだったわ───」

 と、そこまで言ったらカイザルがギュッと私を抱きしめ、あっという間に唇が塞がれた。

「んっ……」

(カイザルは可愛いけれど、手が早い……)

 なんて思った。


───


 そんな熱いキスをこれでもかとたくさん贈られた後にカイザルは私の耳元で言った。

「いいか、コレット。医者の許可がおりたら覚悟しておいてくれ。俺を煽ったのは君だ!」

 ────と。
 今度は私が茹でダコになって頷く番だった。そして───


「ちょっ……カイザル……擽ったい」
「だめ?」
「んん……ダメじゃない、けどぉ……!」

 何故かとっくに朝のはずなのに誰も部屋に起こしに来ない。
 なので、カイザルからのキス攻撃が止まらない。
 お互いの気持ちを確認しあえたことから、カイザルの中に遠慮という物が無くなった気がする。

(は、話を変えるのよ……)  

 イチャイチャな雰囲気じゃない話に!  そうすれば……
 と、そこで私はもう一つ浮かんだ疑問を訊ねることにした。

「そ、そうよ!  カイザル」
「んー……?」
「あ、あなたがシェイラにくれようとしていた、た、誕生日プレゼントって何!?」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

処理中です...