完璧ブラコン番長と町の謎

佐賀ロン

文字の大きさ
上 下
29 / 33
あかり、初めて喧嘩する

夏樹くんの秘密 3

しおりを挟む



 夏樹くんはその後、いろんな話をしてくれた。
 冬夜くんがゲームが得意なこと。冬夜くんが番長になった時のこと。たまに冬夜くんに喧嘩を売る人がいて、夏樹くんが狙われたこと。冬夜くんがことごとくやっつけて、助けに来てくれたこと。今日の給食の話。授業の話。先生の話。面白かった話。
 たまに別の子がやって来て、会話に加わったりした。夏樹くんの周りがそうなのか、それとも今どきの小学生はこうなのか。ほとんど知らない人にも、いろんな話をしてくれる。私が悪い人だったらどうするんだろ、と思うぐらい個人情報を話してくれるから、私はちょっと苦笑いを浮かべたりした。
 気づいたら時刻はそろそろ六時。小学校の門限が近づいてくる。

「そんじゃ、帰るかー」

 夏樹くんの言葉に、皆がいっせいに片づけ始めた。
 すごいなあ。夏樹くんは、この子たちのリーダーなんだ。
 夏樹くんが皆を守って、この子たちは自分の意思で夏樹くんの言うことに従っている。そこに恐怖や強制力はない。
 なんとなく、冬夜くんを思い出す。話を聞いたところ、冬夜くんも誰かに強制させることなく、皆をまとめているようだった。
 一人ずつ家まで送り届けて、ついに私と夏樹くんだけになる。

「夏樹くんも、皆に頼られているんだね」

 私の言葉に、夏樹くんがへへ、と笑った。

「俺、冬夜にーちゃんみたいになりたいんだ!」
「冬夜くん? 番長になりたいってこと?」
「んー、それもあるけど。色んな人に頼られたい」

 夏樹くんは大きく腕を振りながら歩く。

「俺もにーちゃんみたいに、父ちゃんにも母ちゃんにも、同級生にも、近所のおっちゃんやおばちゃんにも、先生にも――色んな人に頼られたいんだ」

 ……その言葉に、私は胸が詰まった。
 両親の代わりとして夏樹くんを守り、番長として暴れる生徒を抑え、先生に生徒たちの学習環境の進言をして。
 色んな人たちから頼りにされている冬夜くんを、誰が守ってあげるんだろう?
 だけど、それをキラキラした目で語る夏樹くんの姿を見ると、そういうことを言うのは水を差すようにも思えた。
 夏樹くんにとって、冬夜くんはヒーローなのだ。

「……もう十分、頼られていると思うよ」

 私がそう言うと、「まだまだだよ」と夏樹くんは言う。

「あかりねーちゃんも頼ってくれていいんだぜ?」
「もう十分、頼らせてもらったよ?」

 さっきの暗い昔話を聞いてくれた。十分甘えてしまっている。
 そう言うと、「全然そんなの大したことじゃねーよ!」と夏樹くんは言った。

「例えばさ、もし、あかりねーちゃんの母ちゃんが目の前にいたら――俺が思っていること全部言ってやる。守ってやる」

 私は、目を見開いた。
 夏樹くんは、私の指の先に、ほんの少し触れて握った。
 それは強引なものではなく、けれど力強いものだった。
 夏樹くんは私を見なかった。
 その視線は、どこにいるのかわからない私の母に向けられているのだろうか。睨むような、挑むような目に、私は泣きたくなった。

「……ありがとう」

 私の受けた痛みに、怒ってくれる。私の全面的な味方だと言ってくれる。私のために戦ってくれる。
 私より年下で、私より弱い存在が、こんなにも力強く「守る」と言ってくれる。
 ――私だけに差し出される、特別な何かを、もらった気がした。
 きっと夏樹くんは、他の子に対しても同じことをするだろう。だけどこの形は、私だけに作られたものなのだと、痛いぐらいにわかる。
 冬夜くんと夏樹くんを守りたい。
 誰にも守られない彼と、「私を守る」と言ってくれたこの子の日常を守りたい。
 



 
 あの時はそう思っていたのに。
 どうして、あんなことを言ってしまったんだろう?
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

氷のオオカミになった少年

まさつき
児童書・童話
遠い昔、まだ人と精霊が心を交わせていたころのお話です。 雪深い山奥で、母ひとり子ひとりで暮らす狩人の少年ルルゥがおりました。 病気がちの母のため、厳しい冬を越して春の季節を迎えるために、ルルゥはひとりで、危険な雪山へと鹿狩りにでかけました。 運よくルルゥは、見事な牝鹿を仕留めるのですが――

【総集編】日本昔話 パロディ短編集

Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。  今まで発表した 日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。 朝ドラの総集編のような物です笑 読みやすくなっているので、 ⭐️して、何度もお読み下さい。 読んだ方も、読んでない方も、 新しい発見があるはず! 是非お楽しみ下さい😄 ⭐︎登録、コメント待ってます。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

トースター島のひみつ

まさつき
児童書・童話
4歳の娘が描いた宝の地図を見て、パパは娘のリサちゃんと冒険に出ることにしました

ぐんかん島とすうちゃん

コユメ
児童書・童話
学校になじめなかった。すうちゃんがある日目を覚ましたら知らない所だった。そして住民はウサギやカメ、そしておしゃべりするキノコ不思議な事が起きるぐんかん島の物語です。

児童絵本館のオオカミ

火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

忠犬ハジッコ

SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。 「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。 ※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、  今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。  お楽しみいただければうれしいです。

処理中です...