完璧ブラコン番長と町の謎

佐賀ロン

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冬弥視点 秘密の話

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 誰かに、呼ばれている気がする。
 中学に入ってから、ずっとそうだ。昼は眠くて、だるくて、気持ち悪い。まるで水の中を必死にかき分けて歩いているような、そんな重さともどかしさを感じている。
 誰か助けてほしい。弱気な自分が、そう叫びそうになる。
 でも、しっかりしなくては。
 俺がしっかりしないと、ナツはどうなる。

 今日も深夜の街に出る。
 夜になると、意識がはっきりと、けれどどこか夢心地のように感じる。
 昼間は目をあけるだけで苦しいのに、夜になるとどこまでも行けそうな気分になる。

 誰かに呼ばれている。
 誰だろう。
 ずっと探しているのに、見つからない。
 その誰かが見つかれば、きっと俺は楽になれる。
 
 そう思った時。
 夜を切り裂くような斬撃が見えた。

 その途端、何もなかったはずの夜道に、目の前に大きな蛇の姿が現れる。
 鋭い牙に、細長く赤い舌。こちらを見下ろす金色の目。うねる大きな体。
 それが少し間を置いて、綺麗に真ん中から裂ける。
 真っ二つに分かれたその身体に、俺は腰を抜かした。
 
 勇ましく舞う短い髪の下に、丁寧に編まれた三つ編みが蛇のように躍る。
 白い衣がきらきらと光って、大きな袖が弧を描くように回転した。
 とん、とアスファルトの上につま先から降りたその子が、俺を見る。
 
 あの日のことを、俺は一生忘れることはないだろう。
 その日は、月がとても綺麗だった。


 ■

「すまないね。付き合ってもらってさ」

 音子さんの言葉に、いえ、と俺は言う。
「買い出し付き合ってくれるかい?」と音子さんに頼まれ、近くのショッピングモールから帰ってきたところだった。今の音子さんは人間の姿に変化しているが、化け猫状態の彼女と雰囲気は変わらない。

「ある程度デジタルには慣れてきたつもりなんだけどさ。近頃のレジはちょっと行かないだけで、やり方がコロコロ変わるから、一人じゃ自信がなくてね。コンビニとかセルフレジに変わってしまって、わからなくなってるし」

 それは俺も感じている事だった。コンビニに行くと、戸惑っているご老人をよく見るので、たまに助けている。長いこと生きている妖怪なら、更に目まぐるしく見えることだろう。
 
「いやしかし、すごいね。台に置いただけで自動的に服の値段がわかるって。あれどうなってるんだい?」
「えっと……」

 ポケットに入れたスマホを取り出し、検索をかける。
 
「無線自動識別の技術を用いたICタグ、だそうです」
「ごめん何もわからないよ」

 ですよね。俺も全くわかりません。

「しかし、人間はよくわからないものを恐れるくせに、それを利用できるんだからすごいさね」

 それは皮肉なのか、感心しているのか、俺にはよくわからなかった。
 妖怪と言うのは、人間の恐怖、よくわからないもののの擬人化だと言われている。俺たちは正体を知る前に「こうだ」と押し付け、時には遠ざけ、時にはご利益があるものとして受け入れ、納得してきた。今は科学でさまざまなことが解明されているが、結局その理屈はよくわかっていないまま過ごし、リスクもわからないまま日常に取り入れている。
『グリーンワールド』のお化け屋敷も、恐れられるはずの心霊スポットであるはずなのに、多くの人たちが集まっていた。怖いもの、わからないものをよくわからないで利用する人間が、一番怖いのかもしれない。
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