14 / 33
あかり、完璧ブラコン番長とデートする?
第13話 あかり、お昼ごはんを食べる
しおりを挟む少し早いけれど、本格的な時間になったら混むだろうと思って、お昼ご飯にすることにした。
「午前中はゲームセンターだけで終わってしまったな」
冬夜くんがしみじみ言った。
テーマパークって、こんなに時間とるものなんだな。もし閉園時間まで間に合わなかったら、私だけでも明日調査しよう。
それより、今はお昼ご飯だ。私はワクワクしながら、包みを広げる。
買ったのは、園内のショップで買ったハンバーガーだ。
「……楽しそうに食べるな」
冬夜くんが笑って言う。
そんなに顔に出ていただろうか、私。
「『妖怪食堂』の食事の方が、ずっとおいしいんじゃないか?」
何気ない問いが、なぜか私の心につっかえた。
「……『妖怪食堂』のごはんは確かにおいしいけど、でも、これもおいしいよ?」
ここのハンバーガーは、野菜が沢山入っているけど、私はチェーン店で食べる、パンと肉とトマトを挟んだハンバーガーが大好きだった。
――母はいつも、『ハンバーガーでいい?』と申し訳なさそうに聞いた。私は、喜んでうなずく。
どうして母が、あれだけ申し訳なさそうにしているのか、当時の私にはわからなかった。
「ごはんに対して『手抜き』と批判する人が、この世にいるみたいだけど、それは『工程がシンプル』であって、貶されていいものではないと思うの。
お寿司だって握って刺身を乗せるけど、『手抜き』なんて言えないでしょ?」
唐突に話し始めた私の言葉を、じっと冬夜くんは聞いていた。
「その時、食べられるものがなんなのか、材料や予算は勿論、食べる相手の体調だってある。どれだけ手が込んでいても、風邪ひいてる子に、フルコースを食べさせるわけにはいかないじゃない」
……私は、どうしてこんなことを冬夜くんに話しているんだろう。
冬夜くんは一言も『手抜き』だとは言っていないのに、私はそう受け止めてしまった。
冬夜くんは何も返さなかった。でも、無視もせず聞いていた。その目は、口にしない私の望みを見透かしているようで、それがなんだか居心地悪かった。
「ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
じわり、と何かが混み上がってきそうで、私は慌てて席を立った。
トイレの手洗い場で手を洗い、私は一呼吸つく。
鏡には、私を睨みつける私が映っていた。
混み上がったのは、涙じゃない。怒りだ。
昔のことを思い出すことはあった。でも、前は怒りなんて混み上がらなかったのに、どうして。
誰に対して怒っているのか、私自身にもわからなかった。
「せっかく楽しいと思えたのに」
私のひとりごとは、流水の音とともに消えていった。
落ち着いてから、私は冬夜くんの元へ戻る。
席に戻ると、冬夜くんは座っていなくて、テラス席に接した通路にいた。男の子と、何か話している。
その後、近くのアイスクリーム屋さんに行って、男の子に渡していた。すると男の子は、頭をぺこり、と下げて、そのまま去っていった。
……あの男の子。
男の子を見送っていた冬夜くんが、「落とさないようになー」と声をかけた。
「……冬夜くん。さっきの子」
「ああ、小野か。小野もアイスクリーム注文するか?」
「さっきの子、幽霊だよ」
私の言葉に、「えっ」と冬夜くんがかたまる。
今の冬夜くんは、眼鏡を外していた。……それなのに、あの子が視えていた。
「……マジで?」
「マジで。え、冬夜くん、あの子におごった?」
「いや、お金は持っていた。背が低くて、なかなか店員さんに気づいてもらえなかったみたいで、『代わりに注文して欲しい』って頼まれて……けどそうだよな、よく考えたら、あの年齢の子が保護者もいないでアイスクリームを買いに行くなんて、おかしいな」
うん、と冬夜くんはうなずいて、
「ひょっとして、幽霊だから、店員さんに視えなかったのか?」
「それだと、冬夜くんが眼鏡なしで視えているのが変」
大蛇のこともあるから、また『たまたま』視えた可能性もある。
でも、もう一つ、私にはある考えが浮かんでいた。
霊脈の影響を受けた『妖怪食堂』のように、幽霊が実体化している可能性だ。
「そう言えば、『グリーンワールド』の園内で、幽霊の子どもが現れる、って噂はあるの?」
「いや。俺は聞いたことがない」
ということはおそらく、幽霊が現れても、ここにいる人たちは幽霊だと気づいていない。
そして、さっきから気になっていたのは、入園する前は明らかに人の姿をしていない妖怪がいたのに、入ってからは全く見かけないということ。
……これ、ひょっとして、順序が逆だったのかもしれない。
「冬夜くん、予定変更して、先にお化け屋敷に行ってもいいかな?」
「え? 小野がいいなら、構わないが。じゃあ俺は……」
「あ、冬夜くんも来て大丈夫だと思う。……多分」
お化け屋敷は危険だろうから、私一人で行くね、と最初に言っていたので、冬夜くんは不思議そうな顔をする。
まだ確証はないけど、おそらくこれは、お化け屋敷に答えがある。
2
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
バスケットボールくすぐり受難
ねむり猫
大衆娯楽
今日は女子バスケットボール県大会の決勝戦。優勝候補である「桜ヶ丘中学」の前に決勝戦の相手として現れたのは、無名の学校「胡蝶栗女学園中学」であった。桜ヶ丘中学のメンバーは、胡蝶栗女学園の姑息な攻撃に調子を崩され…
ご飯中トイレに行ってはいけないと厳しく躾けられた中学生
こじらせた処女
BL
志之(しの)は小さい頃、同じ園の友達の家でお漏らしをしてしまった。その出来事をきっかけに元々神経質な母の教育が常軌を逸して厳しくなってしまった。
特に、トイレに関するルールの中に、「ご飯中はトイレに行ってはいけない」というものがあった。端から見るとその異常さにはすぐに気づくのだが、その教育を半ば洗脳のような形で受けていた志之は、その異常さには気づかないまま、中学生になってしまった。
そんなある日、母方の祖母が病気をしてしまい、母は介護に向かわなくてはならなくなってしまう。父は単身赴任でおらず、その間未成年1人にするのは良くない。そう思った母親は就活も済ませ、暇になった大学生の兄、志貴(しき)を下宿先から呼び戻し、一緒に同居させる運びとなった。
志貴は高校生の時から寮生活を送っていたため、志之と兄弟関係にありながらも、長く一緒には居ない。そのため、2人の間にはどこかよそよそしさがあった。
同居生活が始まった、とある夕食中、志之はトイレを済ませるのを忘れたことに気がついて…?
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
周りの女子に自分のおしっこを転送できる能力を得たので女子のお漏らしを堪能しようと思います
赤髪命
大衆娯楽
中学二年生の杉本 翔は、ある日突然、女神と名乗る女性から、女子に自分のおしっこを転送する能力を貰った。
「これで女子のお漏らし見放題じゃねーか!」
果たして上手くいくのだろうか。
※雑ですが許してください(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる