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あかり、完璧番長の秘密を知る
第4話 番長は弟くんを溺愛している①
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「ナツ!」
ワントーン高く、大きな声で、冬夜くんが呼んだ。
ナツ、と呼ばれた男の子は、こちらを見て、ぱっと顔をかがやかせる。
「にいちゃーん!」
走ってくる男の子に対して、冬夜くんが腕を広げる。
「ナツー‼」
公園のど真ん中で、あはは、うふふ、と抱き合ってグルグル回る小学生男子と中学生男子。
クールなイメージから、デレデレ……というには語弊があるけど、他に形容詞が見つからない。あまりの変わり具合に、私はあっけにとられた。
「今、誰かと話していたか?」
「うん。コッペパンから」
「ははは、お腹がすきそうな名前だな。もらったもの食べてないよな?」
ひたすらぐるぐる回って、冬夜くんはナツ、と呼んだ男の子を地面におろす。
「ナツ、この人は兄ちゃんのクラスメイトだ。小野、俺の弟の夏樹だ」
「ども!」
「あ、初めまして。小野あかりです」
情報量が多すぎて、どこから聞けばいいのかわからない。
とりあえず、昨日と今日の共通点を探して、私は夏樹くんに尋ねた。
「……ねえ、夏樹くん。君、視えるの?」
そう尋ねると、夏樹くんはきょとんした後、鼻息を荒くしながら目を輝かせた。
「え⁉ もしかしてあんたも視えるの⁉ じゃあコッペパン見える!?」
「う、うん。肉のかたまりが着物着てる」
そう答えると、さらに夏樹くんは目を輝かせ、跳び付いてきた。
体重がそのまま衝撃になって、みぞおちを襲う。
「すげー‼ 俺と同じ!? 初めて見た!」
「う、うん。……初めて?」
私は思わず、冬夜くんを見る。
冬夜くんは、右目を覆うように頬に触れた。
「ああ。――俺は、視えないんだ」
「……え」
意外な事実に、私は目を丸くした。
「そのことについては、後で説明させてくれ。ナツ、肉のかたまりの妖怪、もしかして『ぬっぺふほふ』と名乗ったんじゃないか?」
「あ、そんな名前だった」
「『ぬっぺふほふ』って……あ、『ぬっぺっぽう』!? 冬夜くん、そんなマイナーな妖怪のこと、よく知っているね!?」
そして『コッペパン』とは『ッペ』しか合ってないよ、夏樹くん‼ よく推測できたね冬夜くん!
「コッペパン、なんか困ってるみたいなんだ」
「困ってる?」
「うん。なんか話が長くて、俺にはわかんねーんだけど」
そのとたん、頭の中で何かが流れ込んでくる。
念話のたぐいだろうか。頭に直接話しかけてくるというより、膨大なデータが入り込んでくる感じ。
話を要約すると、この『ぬっぺふほふ』は、お腹がすいている――らしい。
「いや八文字で済むじゃん!」
思わず叫ぶと、ビクッと冬夜くんが驚いていた。
自分語りとか自分の好みとか最近の趣味とか、無駄な情報が流れて来て、頭パンクしちゃったよ。そりゃ夏樹くんもこの妖怪の名前を『コッペパン』だと勘違いするぐらいたくさんあったよ。
私は、鞄の中から名刺を取り出して、『ぬっぺふほふ』に渡す。『妖怪食堂』の名刺だ。
「このお店、最近できたから知らないと思うけど、妖怪や霊能力者を顧客にしたお店なの。よかったらどうぞ」
私がそう言うと、『ぬっぺふほふ』は指の無い両手でそれを受け取った。
そして、手の先から、ぬぷっと身体を溶かして、饅頭のようなものを渡す。
私がそれを受け取ると、そのまま『ぬっぺふほふ』はすばやく去っていった。
「……それは?」
冬夜くんが尋ねてきた。これは見えるんだ。
「『ぬっぺふほふ』の肉塊。お礼代わりにくれたみたい」
「ああ、やっぱり『封』と同一視されているんだな」
冬夜くん、本当に良く知ってるなあ。
――徳川家康の頃、城に肉塊と言おうか、肉人が現れた。
警戒態勢バツグンな城に侵入してきた不気味な生き物。当然、家康は追い払えと家臣たちに命じる。
しかし後日、その妖怪は『封』と呼ばれる妖怪で、その肉を食べればむっちゃすごい感じになる仙薬になったことを薬学者に説明されたという。
この『封』と『ぬっぺふほふ』は、同じ妖怪だとみなされている。
私はハンカチに包んで、風呂敷のような形にした。
「それで、話を聞かせてくれるかな。
夏樹くんには視えるけど、冬夜くんには視えてないの?」
「うん。兄ちゃんは視えない」
冬夜くんの代わりに、夏樹くんが答えた。
「昨日、初めて見たんだ。小野が倒した巨大なヘビを」
冬夜くんが答えた。そしてどこか、さみしそうな顔をして言う。
「俺も『視える』ようになったと思ったんだが、『ぬっぺふほふ』が視えなかったってことは、たまたまみたいだ」
そっか。
確かに、普段視えない人も、相手との相性や時間帯、土地の影響、自身の体調などによって、たまたま視えることがある。
そのたまたまが、昨日だったんだ。
「あんな大きなヘビを倒せるってことは、小野は退治屋か何かなのか?」
冬夜くんの質問に、私はううん、と否定する。
「私は、『包丁師』だよ」
ワントーン高く、大きな声で、冬夜くんが呼んだ。
ナツ、と呼ばれた男の子は、こちらを見て、ぱっと顔をかがやかせる。
「にいちゃーん!」
走ってくる男の子に対して、冬夜くんが腕を広げる。
「ナツー‼」
公園のど真ん中で、あはは、うふふ、と抱き合ってグルグル回る小学生男子と中学生男子。
クールなイメージから、デレデレ……というには語弊があるけど、他に形容詞が見つからない。あまりの変わり具合に、私はあっけにとられた。
「今、誰かと話していたか?」
「うん。コッペパンから」
「ははは、お腹がすきそうな名前だな。もらったもの食べてないよな?」
ひたすらぐるぐる回って、冬夜くんはナツ、と呼んだ男の子を地面におろす。
「ナツ、この人は兄ちゃんのクラスメイトだ。小野、俺の弟の夏樹だ」
「ども!」
「あ、初めまして。小野あかりです」
情報量が多すぎて、どこから聞けばいいのかわからない。
とりあえず、昨日と今日の共通点を探して、私は夏樹くんに尋ねた。
「……ねえ、夏樹くん。君、視えるの?」
そう尋ねると、夏樹くんはきょとんした後、鼻息を荒くしながら目を輝かせた。
「え⁉ もしかしてあんたも視えるの⁉ じゃあコッペパン見える!?」
「う、うん。肉のかたまりが着物着てる」
そう答えると、さらに夏樹くんは目を輝かせ、跳び付いてきた。
体重がそのまま衝撃になって、みぞおちを襲う。
「すげー‼ 俺と同じ!? 初めて見た!」
「う、うん。……初めて?」
私は思わず、冬夜くんを見る。
冬夜くんは、右目を覆うように頬に触れた。
「ああ。――俺は、視えないんだ」
「……え」
意外な事実に、私は目を丸くした。
「そのことについては、後で説明させてくれ。ナツ、肉のかたまりの妖怪、もしかして『ぬっぺふほふ』と名乗ったんじゃないか?」
「あ、そんな名前だった」
「『ぬっぺふほふ』って……あ、『ぬっぺっぽう』!? 冬夜くん、そんなマイナーな妖怪のこと、よく知っているね!?」
そして『コッペパン』とは『ッペ』しか合ってないよ、夏樹くん‼ よく推測できたね冬夜くん!
「コッペパン、なんか困ってるみたいなんだ」
「困ってる?」
「うん。なんか話が長くて、俺にはわかんねーんだけど」
そのとたん、頭の中で何かが流れ込んでくる。
念話のたぐいだろうか。頭に直接話しかけてくるというより、膨大なデータが入り込んでくる感じ。
話を要約すると、この『ぬっぺふほふ』は、お腹がすいている――らしい。
「いや八文字で済むじゃん!」
思わず叫ぶと、ビクッと冬夜くんが驚いていた。
自分語りとか自分の好みとか最近の趣味とか、無駄な情報が流れて来て、頭パンクしちゃったよ。そりゃ夏樹くんもこの妖怪の名前を『コッペパン』だと勘違いするぐらいたくさんあったよ。
私は、鞄の中から名刺を取り出して、『ぬっぺふほふ』に渡す。『妖怪食堂』の名刺だ。
「このお店、最近できたから知らないと思うけど、妖怪や霊能力者を顧客にしたお店なの。よかったらどうぞ」
私がそう言うと、『ぬっぺふほふ』は指の無い両手でそれを受け取った。
そして、手の先から、ぬぷっと身体を溶かして、饅頭のようなものを渡す。
私がそれを受け取ると、そのまま『ぬっぺふほふ』はすばやく去っていった。
「……それは?」
冬夜くんが尋ねてきた。これは見えるんだ。
「『ぬっぺふほふ』の肉塊。お礼代わりにくれたみたい」
「ああ、やっぱり『封』と同一視されているんだな」
冬夜くん、本当に良く知ってるなあ。
――徳川家康の頃、城に肉塊と言おうか、肉人が現れた。
警戒態勢バツグンな城に侵入してきた不気味な生き物。当然、家康は追い払えと家臣たちに命じる。
しかし後日、その妖怪は『封』と呼ばれる妖怪で、その肉を食べればむっちゃすごい感じになる仙薬になったことを薬学者に説明されたという。
この『封』と『ぬっぺふほふ』は、同じ妖怪だとみなされている。
私はハンカチに包んで、風呂敷のような形にした。
「それで、話を聞かせてくれるかな。
夏樹くんには視えるけど、冬夜くんには視えてないの?」
「うん。兄ちゃんは視えない」
冬夜くんの代わりに、夏樹くんが答えた。
「昨日、初めて見たんだ。小野が倒した巨大なヘビを」
冬夜くんが答えた。そしてどこか、さみしそうな顔をして言う。
「俺も『視える』ようになったと思ったんだが、『ぬっぺふほふ』が視えなかったってことは、たまたまみたいだ」
そっか。
確かに、普段視えない人も、相手との相性や時間帯、土地の影響、自身の体調などによって、たまたま視えることがある。
そのたまたまが、昨日だったんだ。
「あんな大きなヘビを倒せるってことは、小野は退治屋か何かなのか?」
冬夜くんの質問に、私はううん、と否定する。
「私は、『包丁師』だよ」
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