荒くれ竜が言うことを聞かない

遠間千早

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飛竜と海竜は啀み合う

第六話 竜の本能 後*

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※ 後半R18なのでご注意ください。






 連れ込まれた。
 近くの宿の一室に。
 明かりも付けず、広さのある部屋の真ん中に置かれた大きな寝台に引き倒された。頭の中では本気でまずいと思っているが、身体がいうことをきかない。

「あんた、陰の日っていつもこうなのか」

 リアンを押し倒したヴァルハルトが微かに眉間に皺を寄せて聞いてくる。

「ちがう」
「飛竜は陰の日は部屋から出ないって聞いたことがあるが、なるほどこういうことか。あんたなんでこんな日に地上をふらふら出歩いてんだよ」
「……たまたま、外せない用事があったからだ」

 聞きながらヴァルハルトはリアンの外套と上着を脱がせにかかってくる。こいつ本気か、と顔を引きつらせて、なんとか逃走を図ろうと震える身体を捻ってうつ伏せになった。力が入らない腕で上体を起こそうとしたら、肩を掴まれてベッドに押さえつけられた。逃げ出さないように後ろから足の上に乗られる。

「う」
「逃げんな。そんな状態でどこ行くつもりだ。他の竜に会ったらどうする」
「……少なくとも、貴様よりはまし」
「あ?」

 小さな声で呟いた声を拾ったヴァルハルトが苛立ったうなり声を上げた。

「っ、やめろ、それ」

 竜印のプレッシャーがかかってシーツについた指先から力が抜ける。

 どうやら本気で自分を犯そうとしている相手に驚愕と共に呆れた気持ちが湧く。
 こいつが海竜にふさわしく快楽に奔放なたちだったとして、そんなことはわかりきったことだから今更だが、自分にまでその矛先を向けてくるなんて気が狂ったのかと思わずにはいられない。いや、普段から気は狂っているのか。荒くれた竜の嗜好など知りたいとも思わないが、本当に天敵である自分を襲うつもりなのか。節操がなさ過ぎる。
 海竜は竜と寝るときは慎重になるんじゃなかったのか。ヒースレイの嘘つき野郎め。

「……クソ」

 陰の日に他の竜に会うだけでこんな状態になると知っていれば、絶対に地上には下りて来なかった。なぜよりによってこの蛇蝎のごとく嫌っている男に押し倒されることになるのか。
 不思議なことに、今は竜の本能が勝っているからか、嫌悪感よりも強い竜に触れている陶酔を強く感じる。脳みそが酒に浸かったようにふわふわと酩酊した気分だが、後から冷静になったら絶対に憤死する。
 飛竜はもともと精力が旺盛な方ではないし、周りに竜の雌がいなかったこともあってリアンは今まで誰かと性交渉したことがない。人間の女性に欲をあおられたこともないから、こんなふうに全身から熱が湧きたつような衝動を感じたことがなかった。
 明らかに欲情している自分に困惑しながら、自分を押さえつける男から放たれる圧倒的な雄の威圧と強い竜に囲い込まれる甘美な陶酔に抗えない。これはただの性衝動ではない。竜の生存本能の根源から発する渇欲に近い何かだ。抵抗したくてもできない。
 このままではまずい。雄同士なのに抱かれる。
 この最悪な状況をどうやったら打開できるのか、頭がふわふわして何も思いつかない自分に絶望した。

「お前……今自分が組み敷いているのは私だぞ。わかっているのか」
「何を今更」
「目を覚ませ。私は飛竜だ。そして雄だ。お前は男色ではないだろう」

 張りのない声でそう説得しようとしたら、少し間があってからヴァルハルトが不思議そうな声で答えた。

「ああ。そのはずなんだけどな。でも俺もダメだ。竜のさがにびりびりきてる。今の弱ったあんたを見てると、ぐちゃぐちゃに泣かせてよがらせないと気が収まらない。なんなんだその色気、あんたヤバいな。気をつけた方がいい」
「なら襲うな!!」

 言っていることが矛盾しているし、気をつけろと注意しながら服を脱がせてくるのもおかしいと思うが、それを順番に指摘するだけの理性が残っていなかった。こんな日に出歩くのではなかった、とそれだけが繰り返し頭の中でループした。

「なんでだろうな。なんでこんなにあんたに惹きつけられるんだろう。すげぇ美味そうに見えてたまんねぇ」

 熱っぽい声を出して覆い被さってきたヴァルハルトに解かれた髪の隙間からうなじを舐められたら、びりっと腰骨がしびれた。

「んっ」

 ひくっと反った背中を押さえつけられて、そのまま奴の熱い吐息が首にかかる。首の後ろにがぶっと噛みつかれた。

「あっ」

 ぞくっと全身が震え、かろうじて残っていたはずの冷静な意識まで、その瞬間陶然とした渇望の中に落ちた。



 荒くれた海賊みたいな奴だと思っていたが、本当に野蛮だった。

「あっ、あっ、……ンッ」

 意外にもヴァルハルトは最初こそ慎重さを見せ、リアンが初めてだとわかっているのか丁寧に慣らして傷つかないようにじっくり身体を開いたが、そのうち遠慮がなくなった。胸に膝がつくほど身体を折り曲げられて上から深くえぐられるとギシッと音を立ててベッドが軋む。
 もはや手加減を忘れた男に昂ぶった剛直を執拗に突き入れられて、そのたびに腰が跳ねた。

「んっ、う、……あっ、ぁあっ」

 男を呑み込まされてからどれくらいたったのかも、もうわからなかった。
 身体を征服されることに自分の中の竜が喜んでいる。自分の身体の奥にこねられて快感を覚える所があるなんて知りたくもなかったが、力強く揺さぶってくるこの海の竜のせいで初めてなのに嫌でもその場所を覚え込まされた。

「ここがいいみたいだな」

 獰猛な眼をしたヴァルハルトが情欲にギラついた双眸でリアンを見下ろしてくる。その青い瞳に凝視されるだけで腰の奥がビリビリしびれた。

「や、あっ……」

 ぐりっと角度をつけて突き込まれて、たまらず首を横に振った。
 快感の波に呑まれている頭ではもうまともに考えることがかなわなかったが、その答えが気に入らなかったのかさらにきつく身体を折り曲げられた。結合が深くなってとんでもなく奥まで凶悪な塊が押し入ってくる。

「うあっ、やっ……ふか、あっ」

 体重をかけて突き入れられてがくがく震えた。抽挿の度に繋がった場所から湿った音が聞こえてくる。すでに痛みよりも快感を覚えこまされている身体が充溢した雄を深く感じて跳ね、腹の底にたぎったものを解放しようと膨らんでいる。

「あっ、い……っ」

 達しそうになって顎を上げてあえぐと、覆い被さってきた男の口にかぶりつくように唇を奪われた。開いた口の中に遠慮なく入り込んできた熱い舌が口内をまさぐって喉の奥まで入ってくる。

 なんでキス。

 朦朧とした頭でそう疑問に思ったが、そんなことを考える余裕はすぐに消えてなくなった。

「んっ……う、んんっ」

 激しく突き入れてくる男の固い腹筋で擦れて、限界まで張り詰めた熱がもう爆ぜそうだった。達したいと身をよじったリアンに気づいたヴァルハルトが掠れた声で囁いてくる。

「掴まってろ」

 そう言われたが、すがりつくように手を伸ばすのは自分から求めているようで受け入れがたい。伸ばした手はシーツを掴んだままで、眉を寄せて目の前の青い瞳を睨んだ。
 リアンを見下ろして、ヴァルハルトは獰猛な顔で笑い、口端を上げる。

「後悔すんなよ」

 その言葉を合図にめちゃくちゃに揺さぶられて中を掻き回された。荒々しく突かれて背中がシーツから浮き上がる。身体がずり上がるほど凶暴な雄に深く犯されて、思わず高い声が口から漏れた。

「あっ……あぁっ……ぅんっ」

 シーツを掴んだ手にぎゅっと力が入る。

「いっ……あ、ダメ……あぁあッ」

 ひときわ強く打ち込まれた瞬間、全身が激しく痙攣して、達した。リアンががくがく震えているのもおかまいなしに強く突き入れ、何度か抽挿してからヴァルハルトが押しかかってきて動きを止める。奥が濡れたような感覚がして、中に出されたのがわかった。目を閉じて荒く息を吐きながら、自分にのしかかっている男の体温を感じて身体が弛緩する。なぜそこで緩むんだ、と自分の反応に困惑するが、沈思する前にその異常に気がついた。
 すでに復活している。中で。奴の凶器が。

「おい、まさか」

 目を開いてやめろ、と言おうとした口を唇で塞がれた。深く舌を絡め取りながら、欲情してギラつく青い竜の眼がリアンの抵抗を封じる。
 上体を起こしたヴァルハルトが荒っぽく髪をかき上げて、まだ自分と繋がったままのリアンの汗ばんだ腰を両手で鷲掴んだ。

「まだまだ収まらねぇな」

 舌なめずりしながら眼を細めて言い放った男を見上げて、顔が引きつる。今日王宮の中庭で海竜は絶倫の好色家、とアドルに言ったのは自分だ。

 ただそれを自らの身体で思い知ることになるなんて、昼間の自分はさすがに想定していなかった。
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