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2章

41.コーヒー

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 「ああ、食った食った」

 「でも、今日はなんかいつもより量が少ない気がするな」

 「いや、いつもと同じ量だよ」

 「ちょっとしゃべりすぎたせいじゃないか?」

 「そうかもしれない」

 二人は重い腰を上げて、食器を片付け始める。

 「後は任せるから」

 「うん」

 怜は食器を流しに貯めておいた水につけてから、二人分のコーヒーを入れる。カプセル式で、ボタン一つで済むような方式のものだ。
 
 悠太はゴムの手袋をつけて、食器を洗い始める。そろそろ洗剤を補充しなきゃ、とスポンジに洗剤液をつけながら思った。

 「これから何するの?」

 「分からん」

 怜はコーヒーの入っているマグカップに角砂糖を二つつまんで入れる。
 
 「今日はちょっとのんびりしたい気分だから、寝ちゃうかも」

 怜はベッドに横になってスマホをいじりながら答える。

 「俺はちょっと出かけようかなって」

 「どこに?」 

 「今日天気もいいし、どこでもいから歩きたい気分だよ」

 「こんなあついのに? 俺は無理だな」

 「急に暑くなったよな」

 「昨日まではそこまであつくなかったのに」

 「でもまた来週から寒くなるんだって」

 「10度までさがるらしい」

 「まじで?」

 「最近いつもこんな感じなんだよね。例年とはずいぶん違う」
 
 「地球温暖化の影響なんじゃないの」

 「どうだろうね」

 「最近あんまりその言葉聞かないなと思ったら、また聞こえてきたな。そういえば」

 「言われてみればそうかも」

 「異常気象ってよく言うんだけどさ、これがずっと続いて普通になってしまえば、その時点ではもう異常ではないんだよな」

 「そうだろうね」

 「異常が、異常でなくなるって…ちょっとおかしいと思わない?」

 「おかしい?」

 「なんか、勝手だなって」

 「ただいつもより寒いとか、暑いとか、雨が多く降ったりさ、それだけなのに、異常呼ばわりされてるわけだから」

 「普通ではない、という意味で合ってるだろう?」

 「表面的にはそんな意味でいいんだけど、実際はそうじゃないんだから」

 「「今日、なんでこんな暑いの? おかしい」って、みんな言うでしょう」

 「違うだけなんだからさ、実際は」

 「そうかもしれない」

 「でもそんなに深く考えなくてもいいと思うよ」

 「みんなも別に考えて言ってるわけじゃないから」

 「それが問題なんだよ」

 「何が?」

 「考えてもないのに、そんなことが言えるっていうのが」

 「別に彼らを非難しているわけではない。俺もそういう風に思ってるし、同じなんだよ」

 「ただ、ちょっと考えてみるべきじゃないかって」

 「それってさ、天気だけじゃなくて、すべてにおいて同じく言えることなんだよ」

 「俺たちもそう」

 「普通と違うから、おかしいと思われるでしょう?」

 「違うってだけで、おかしいことなんだからさ」

 「天気みたいに」

 悠太がそう言いながらゴムの手袋を脱いで、振り返ると、怜はコーヒーの入っているマグカップを渡す。まだ熱気が残っていて、温かかった。

 「悠太のは砂糖いれてないよ」

 「うん。ありがとう」

 「おいしい」

 「そう?」

 「やっぱり怜が入れてくれたコーヒーはおいしいな」

 「同じだよ。ボタン押しただけだから」

 「でも違う。俺には分かる」

 「ありがとう」 
 
 二人の向かい合って、手に持ったコーヒーをすする。

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