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2章
37.デフォルト
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「休みだからさ」
「注文しといたんだ。コスチュームを」
「コスチューム?」
「設定は、どうしよっかと迷ったんだけど」
「とりあえず、男性看護師と患者のを買ってみた」
「看護師?」
それを聞いて悠太は思わず吹き出してしまった。くわえていたタバコが、その勢いで前方に飛ばされていく。
「ハハハ、そんな趣味だっけ」
悠太の笑いは止まらない。
「笑うなよ。笑わないって約束したろう?」
「色々試してみるだけなんだから」
怜は恥ずかしいのか、顔を赤らめながらそう言う。
「それとさ、台本を書いてみたんだ」
「台本?」
悠太は信じられないというふうに、怜にもたれていた体を起こす。
「書いたって、自分で書いたのかよ」
怜の目はいつになく真剣だった。
「ずいぶん本格的になんだな」
「知らなかった」
「そんな大したものではない」
「ただ、俺は本気なんだ」
「だから悠太も協力してほしい」
怜は悠太の目を真っ直ぐ見てそう言う。
「そんなこと言わなくても分かってるよ」
「俺も…真剣に考えてたんだ」
「怜だけが、必死だったわけじゃない」
「やってやろうじゃないか」
「まずはそれを覚えなきゃな」
「そうと決まったら、今日は特訓だな」
「帰ってからね」
「今渡しとくよ。お客さん来るまで目通しといて」
怜はいつから持っていたのか、A5サイズに印刷され、綴じられている台本を雄太に渡す。
「そう言えば、最近夜中までなんかやってたのって、これだったんだね」
「日記でもつけているのかと思ってた」
「日記ね…そんなもんは小学校ん時やめたよ」
「まあ、できるだけやってみる」
「覚えるのは苦手だけど」
「覚える必要はない。別に映画を撮ろうとしてるわけじゃないから」
「ただ役になり切るんだ。フィーリングでいい」
「この二人の人物を理解するんだ」
「状況を理解するんだよ」
「共感して、自分という人間と重ね合わせて、まるで最初から一体であったかのように、演じてみるんだ」
「口で言うほど簡単なことではないと思う」
「でも、俺たちはさ、いつ、どんな時でも演じていなければならなかったんだ。だから素質はきっとあるはずなんだよ」
「演じなかったことの方が少ないんだよ」
「俺は、俺のままでいようとしたことがない。最初から俺のままではいられなかった」
「悠太を犯す時だけが、俺は俺のままだったんだ」
「でも演じないというのが、必ずしも正しいとは限らない」
「演じるなんてさ、当たり前なんだよ」
「分かるだろう?」
「それがデフォルトなんだよ」
「演じないというのはさ、初期設定というものをいじるようなもんなんだ」
「だから俺たちは演じられるんだよ」
「きっと大丈夫」
そう言って、怜は悠太を抱きしめる。
「俺を信じて。悠太」
「大好き」
怜は抱いていた悠太の体を離して、キスをする。悠太は目を閉じた。二人の舌が絡み合って、温かい唾液が、互いの口の中で混じり合う。二人は互いの体を強く抱き合う。
「大好き」
悠太は怜の唇を含んだまま、そう呟く。
「注文しといたんだ。コスチュームを」
「コスチューム?」
「設定は、どうしよっかと迷ったんだけど」
「とりあえず、男性看護師と患者のを買ってみた」
「看護師?」
それを聞いて悠太は思わず吹き出してしまった。くわえていたタバコが、その勢いで前方に飛ばされていく。
「ハハハ、そんな趣味だっけ」
悠太の笑いは止まらない。
「笑うなよ。笑わないって約束したろう?」
「色々試してみるだけなんだから」
怜は恥ずかしいのか、顔を赤らめながらそう言う。
「それとさ、台本を書いてみたんだ」
「台本?」
悠太は信じられないというふうに、怜にもたれていた体を起こす。
「書いたって、自分で書いたのかよ」
怜の目はいつになく真剣だった。
「ずいぶん本格的になんだな」
「知らなかった」
「そんな大したものではない」
「ただ、俺は本気なんだ」
「だから悠太も協力してほしい」
怜は悠太の目を真っ直ぐ見てそう言う。
「そんなこと言わなくても分かってるよ」
「俺も…真剣に考えてたんだ」
「怜だけが、必死だったわけじゃない」
「やってやろうじゃないか」
「まずはそれを覚えなきゃな」
「そうと決まったら、今日は特訓だな」
「帰ってからね」
「今渡しとくよ。お客さん来るまで目通しといて」
怜はいつから持っていたのか、A5サイズに印刷され、綴じられている台本を雄太に渡す。
「そう言えば、最近夜中までなんかやってたのって、これだったんだね」
「日記でもつけているのかと思ってた」
「日記ね…そんなもんは小学校ん時やめたよ」
「まあ、できるだけやってみる」
「覚えるのは苦手だけど」
「覚える必要はない。別に映画を撮ろうとしてるわけじゃないから」
「ただ役になり切るんだ。フィーリングでいい」
「この二人の人物を理解するんだ」
「状況を理解するんだよ」
「共感して、自分という人間と重ね合わせて、まるで最初から一体であったかのように、演じてみるんだ」
「口で言うほど簡単なことではないと思う」
「でも、俺たちはさ、いつ、どんな時でも演じていなければならなかったんだ。だから素質はきっとあるはずなんだよ」
「演じなかったことの方が少ないんだよ」
「俺は、俺のままでいようとしたことがない。最初から俺のままではいられなかった」
「悠太を犯す時だけが、俺は俺のままだったんだ」
「でも演じないというのが、必ずしも正しいとは限らない」
「演じるなんてさ、当たり前なんだよ」
「分かるだろう?」
「それがデフォルトなんだよ」
「演じないというのはさ、初期設定というものをいじるようなもんなんだ」
「だから俺たちは演じられるんだよ」
「きっと大丈夫」
そう言って、怜は悠太を抱きしめる。
「俺を信じて。悠太」
「大好き」
怜は抱いていた悠太の体を離して、キスをする。悠太は目を閉じた。二人の舌が絡み合って、温かい唾液が、互いの口の中で混じり合う。二人は互いの体を強く抱き合う。
「大好き」
悠太は怜の唇を含んだまま、そう呟く。
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