34 / 46
2章
34.勝手口
しおりを挟む
「どうした?」
「何が?」
流し台に両手をついて俯いていた怜は、悠太の声に頭をもたげて、そう言った。
「具合でも悪い? さっきからどっか行っちゃってるからさ、目が」
「何それ。どこにも行ってないよ」
怜は意味が分からないという風に、笑いながら答える。
「今朝のこと考えてるの?」
「そうかもしれない」
「そうかもしれないって…」
「ただ呆けているだけなんだ。何も、考えちゃいない」
怜はそう言うと、後ろの窓を開けた。雨は小降りになっていてはいるが、まだ止みそうになかった。怜は窓枠にもたれて、しばらくその風景を眺めていた。店の裏には、屋根付きのゴミ置き場と、乗用車3台分の駐車スペースが設けられている。
「タバコ吸うか?」
「タバコ?」
怜がタバコを吸っていたなんて、初耳だった。
「タバコなんか吸ってたっけ?」
「いや、吸ってない。でも、持ってる」
悠太は意味が分からなかった。
「何それ」
「吸わないけど、持ってるってこと?」
「そう」
「いつから」
「分からない」
「そう…」
「それで? 吸うか」
「いや、俺はいい」
「じゃあ、ちょっと行ってくるから」
「うん」
怜は事務室に入り、バッグからタバコとライターを取り出してきた。それから勝手口から出て、屋根の下で火をつける。
「ゴホン!ゴホン!ゴホン!」
とむせて、すぐにでも咳き込む音が聞こえて来るだろうと、悠太は踏んでいたのだが、怜は慣れているかのように、何の音も立てることなく、静かに煙を出し入れしていた。
聞こえて来るのは雨の音だけ。まだ12時もなってない時刻であったが、曇っていて、暗かった。霧に扮した煙が、立ち上っている。
悠太はテーブルから見えるところに座って、読みかけの文庫本を出して、読み始めた。後10数ページで終わりだったので、彼女たちに呼ばれる前に、読めそうに思えたのだ。
しかし、怜のことが頭から離れなかった。だから読書に集中することが出来なかった。
そこから怜の姿は見えなかったのだが、一つの絵のように、タバコを吸っている怜の姿が、外の風景に完全に溶け込んでいた。雨と駐車場。そしてタバコ。怜。そんなイメージたちを、頭の中で組み合わせていた。
「悠太、いる?」
テレパシーでも通じたんだろうか。
「いるよ」
「やっぱり一緒に吸おう」
「いいけど、俺吸ったことない」
「俺もだよ」
「今吸ったでしょう」
「いや、まだ吸ってない」
「何吸ってないって…煙出てたよ」
「火つけただけ」
それを聞いて、悠太は思わず吹き出してしまう。
「さっきから何? わざとなの?」
「可愛いけど、そんなキャラじゃないでしょう」
「いいから、来て」
悠太は少し迷った。タバコを吸おうなんて、今まっだ考えたこともなかったのだ。
(何でタバコなんか…)
しかし、だからといって、特に吸わない理由があるわけでもなかった。
「悠太君~会計お願い」
その時、ホールから読み出しのベルが鳴った。そして3人は、大声で悠太の名前を呼んだ。帰るのがいつもより早かった。
「はい。今行きます」
「怜、ちょっと言ってくる」
結局、本は1ページも進んでいなかった。
「何が?」
流し台に両手をついて俯いていた怜は、悠太の声に頭をもたげて、そう言った。
「具合でも悪い? さっきからどっか行っちゃってるからさ、目が」
「何それ。どこにも行ってないよ」
怜は意味が分からないという風に、笑いながら答える。
「今朝のこと考えてるの?」
「そうかもしれない」
「そうかもしれないって…」
「ただ呆けているだけなんだ。何も、考えちゃいない」
怜はそう言うと、後ろの窓を開けた。雨は小降りになっていてはいるが、まだ止みそうになかった。怜は窓枠にもたれて、しばらくその風景を眺めていた。店の裏には、屋根付きのゴミ置き場と、乗用車3台分の駐車スペースが設けられている。
「タバコ吸うか?」
「タバコ?」
怜がタバコを吸っていたなんて、初耳だった。
「タバコなんか吸ってたっけ?」
「いや、吸ってない。でも、持ってる」
悠太は意味が分からなかった。
「何それ」
「吸わないけど、持ってるってこと?」
「そう」
「いつから」
「分からない」
「そう…」
「それで? 吸うか」
「いや、俺はいい」
「じゃあ、ちょっと行ってくるから」
「うん」
怜は事務室に入り、バッグからタバコとライターを取り出してきた。それから勝手口から出て、屋根の下で火をつける。
「ゴホン!ゴホン!ゴホン!」
とむせて、すぐにでも咳き込む音が聞こえて来るだろうと、悠太は踏んでいたのだが、怜は慣れているかのように、何の音も立てることなく、静かに煙を出し入れしていた。
聞こえて来るのは雨の音だけ。まだ12時もなってない時刻であったが、曇っていて、暗かった。霧に扮した煙が、立ち上っている。
悠太はテーブルから見えるところに座って、読みかけの文庫本を出して、読み始めた。後10数ページで終わりだったので、彼女たちに呼ばれる前に、読めそうに思えたのだ。
しかし、怜のことが頭から離れなかった。だから読書に集中することが出来なかった。
そこから怜の姿は見えなかったのだが、一つの絵のように、タバコを吸っている怜の姿が、外の風景に完全に溶け込んでいた。雨と駐車場。そしてタバコ。怜。そんなイメージたちを、頭の中で組み合わせていた。
「悠太、いる?」
テレパシーでも通じたんだろうか。
「いるよ」
「やっぱり一緒に吸おう」
「いいけど、俺吸ったことない」
「俺もだよ」
「今吸ったでしょう」
「いや、まだ吸ってない」
「何吸ってないって…煙出てたよ」
「火つけただけ」
それを聞いて、悠太は思わず吹き出してしまう。
「さっきから何? わざとなの?」
「可愛いけど、そんなキャラじゃないでしょう」
「いいから、来て」
悠太は少し迷った。タバコを吸おうなんて、今まっだ考えたこともなかったのだ。
(何でタバコなんか…)
しかし、だからといって、特に吸わない理由があるわけでもなかった。
「悠太君~会計お願い」
その時、ホールから読み出しのベルが鳴った。そして3人は、大声で悠太の名前を呼んだ。帰るのがいつもより早かった。
「はい。今行きます」
「怜、ちょっと言ってくる」
結局、本は1ページも進んでいなかった。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる