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2113年 ハジメの場合

☆ジャイアントエッグA-4☆

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 さなぎは、孵化する前なら脅威ではないので無視した。とにかく、コイツらを産んでいる大元を倒さないといけない。やはり、問題は根本から正さないときりがない。
 その時、顎に白い物をくわえて運ぶ働き蟻を見た。と言うより、目の前を通る。

 働き蟻は、僕が乗る鋼殻体ポッドを完全にスルーした。どうやら、関心が無いらしい。
 蟻は、壁のカプセルに白い蛹を収めると、再び移動する。やっぱり、鋼殻体は無視している。
 どうやら、蟻たちは、与えられた仕事以外には興味が無いらしい。その姿を見て、工場で働いていた当時の自分を思い出す。

「あの時の俺は、蟻だったんだ……」

 知らないうちに、そう呟いていた。

「なん? 蟻がどうしたん?」

 圭介から通信がきて、恥ずかしい思いをする。どうやら、呟きを聴かれたらしい。

「いや、蟻がプログラム通りに働く姿が、社畜のような暮らしをしていた自分と重なったからさ……」

 自虐的な言葉に、圭介は軽く応えた。

「蟻とは違うやん。心が無ければ、他人の為にはよう戦わん。佐之助の知能は蟻並みやけど?」

 本人が居ないと言いたい放題の圭介に、苦笑すると同時に、自分に対する心遣いも感じた。サンキュー圭介。


 さて、ジャイアントエッグの上層部分に達すると、四角形の部屋を発見した。だいたい、十㍍四方の立方体だった。

「ここに女王が?」

 てっきり、バカでかい物を想像していたから、何だか拍子抜けしてしまう。
 立方体の建物は、樹木の皮のような外壁で覆われていた。表面には、ヌメヌメと粘液が着いている。
 建物を、鋼殻戦闘隊が取り囲む。包囲が成立すると、デビッド中尉の命令が下る。

「斎藤軍曹、女王の息の根を止めるのは、あなたです」

 いきなり振られてビックリした。しかも、単独で入るらしい。だが、軍隊では、上官の命令は絶対で、上官が、「猫の名前はポチに限る」と言ったなら、飼い猫にタマと付けられない。僕は、腹の底から声を出す。

「斎藤 一軍曹、ご命令をうけたまわりました!」


 ジャイアントの女王の部屋の外壁に、銃剣を刺し、そのまま縦に裂け目を入れる。突き崩し、中に侵入する。

 湿度が高いのか? モニターが曇るが、部屋の中央に何かを発見した。それは、茶褐色のジャイアントで、どうやら、これが女王らしい。僕は、女王に近付いた。

 ジャイアントの女王は、あまり大きく無い。はっきり言って、チビだった。もちろん、人間よりは大きいが、働き蟻より小さい……って、腹部が無いからだ!

 僕は、女王が変な事に気が付いた。頭部、胸部の下が無く、腹部は床に埋まっていた。
 メインカメラをズームアップし、詳しく映像を見ると、胸部と床は癒着していて、接合部分に違和感が無い。
 ここで、ある考えが浮かぶ。もしかして、ジャイアントエッグ自体が、女王の腹部なのか?

「デカッ! 超デカッ!」

 思わず叫んでいた。

 ジャイアントと言う種族は、女王自体が方舟になって宇宙を渡り、他の惑星に攻め込んでいる。
 養成所の授業で、そんな話を聞いた気がしたが、忘れていた。たぶん、「テストに出ますよぉ」と言われなかったからだろう。または、連呼されなかったのかも知れない。

 さて、目の前。
 ジャイアントの女王は、その部屋のオブジェのように、中央から移動もできないようだった。ただ、胸部に付いた六本の脚を動かし、何かを訴えかけている。僕には、それが命乞いに思えた。

 僕の性格からすると、かなり嫌な展開だった。抵抗してもらえれば、すんなり戦える。だが、動けない相手に一方的に危害を加えるのは趣味じゃない。

 女王は、キーキーと鳴き声を上げ、さらに同情を求める。今まで戦った蟻は、全く感情を表さないで、機械的に襲って来る存在だから、倒すのに抵抗が無かった。
 だけど、女王を倒すのには、躊躇ためらいがある。
 このタイミングで、デビッド中尉から通信が入った。

「軍曹、何か問題がありますか?」

「大丈夫です。中尉」

「『手柄を独り占めにするのが心苦しい』とか、気にしないで。ジャイアントエッグへの通路を見つけたのは、軍曹なんだから」

 中尉は、見当ハズレに気配りして来る。まったく、善意から来るお節介ほど、困るものはない。まさか、「女王蟻が可哀想で殺せません」なんて言えるはずもなく、僕は覚悟を決めた。

 どうせ、誰かが奪う事が決定している命なので「せめて、死を悼む者が送ってあげよう」と。

「すぐに済ませます、中尉」

「そうですか、楽しみたいのは解りますが、急いでください。蛹を処分したり、残ったジャイアントの掃討など、まだやることが山ほどありますから」

「楽しみたい」って、ずいぶんとサディスティックなお言葉に思え、「デビッド中尉は隠れSだな」などと思う。

 上官に対する単純な印象を抱きつつ、僕は女王の前へ。
 苦しませず一瞬であの世に送るには、『兜割り』しかない。

 ライフルからブレードに持ち換える。ブレードを右肩の辺りに構え、剣先を天に向ける。鋼殻体の左足を一歩踏み出し、地固め。
 そこまで斬撃の準備をしてから、気が付いた。

「あっ! 俺、兜割りができないや……」

 兜割りは、切れ味が良いブレードの先の部分を、高速で振り下ろして、ジャイアントの硬い頭部を割る技だった。ジャイアントの頭部は、鋼鉄のような毛に覆われ、刃を弾こうとするから、微妙な力加減で刃を垂直に当て続ける事が必要だった。鋼殻体の人工筋肉は、操縦棹を通して、パイロットの微妙な力加減を再現できる。

 さて、微妙な力加減ができない僕は、再びライフルに持ち換える。上官たちの豪快な兜割りを見て、自分もできる気になったようだ。恥ずかしい……。

 気を取り直して、ライフルを構え、狙いを付ける。一発では貫通しないのは解っているので、頭部に連射した。ジャイアントの女王は、動きを止めた。

 さて、僕の所属する部隊は、さなぎを破壊したり、残ったジャイアントを追い詰めたりと、店仕舞いで忙しい。
 僕は、ススムが守った火炎放射器で蛹を焼く。強力な焔に炙られ、蛹の入ったカプセルは破裂する。

「隊長、初陣で女王を倒すなんて、凄い事ですね」

 圭介が通信して来た。

「いや、女王は抵抗できない存在だから、凄くないよ……」

「でも、女王を倒す栄誉を与えられるのは、功績があった者のみですから、トロフィー授与みたいなもんです」

「トロフィー授与ね……。僕は、地球が守れれば、それでいいのさ」

 自分で言ってて恥ずかしくなるが、本心からそう思っている。それに、連邦軍の誰もが、同じ気持ちな筈だと思っていた。





 その後、僕らは月での激戦を経て、火星も取り戻す。
 
 そして、月日が流れた。
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