小童、宮本武蔵

雨川 海(旧 つくね)

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○ハ

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 その時、お通は肩を震わせ始めた。弁助は、まさかと思って提灯の灯りでお通の顔を照らす。頬を伝う玉の様な涙が映った。
 うっ、うっ、うっ。
 お通が、肩を上下に動かす。もう、やばい予感しかしなかった。

 うわぁ~ん、わんわんわん、うわぁ~ん、わんわんわん。

 しゃがみ込み、ついに大音量で泣き出す。
 弁助は、困り果ててしまう。背中を摩り、なだめようとする。
「お通、こんな所で泣いたら駄目じゃ。おいが泣かせたと知ったら、喜兵衛と仕合をする前に善右衛門に殺される」
 お通は、泣きながら叫んだ。
「わては弁助が心配で父様に頼んだんじゃ。喜兵衛が弁助を痛めつけない様に言うぅてくれと頼んだんじゃ。それでもわては心配なんじゃ」
 弁助は、自分は相手を殺す気だったのに、「喜兵衛はやっぱりおいを痛めつける気じゃったか」などと思っていた。
「お通、心配すな。おいは喜兵衛如きにどうこうされん。お前の蹴りで鍛えられとるからのう」
 お通は、弁助の軽口に和んだのか、それとも泣くだけ泣いて気が済んだのか、なんとか持ち直した。そして、弁助はお通を無事に送り届け、帰路に着いた。

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