幕末博徒伝

雨川 海(旧 つくね)

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竹尾安五郎

十三

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 甲斐の博徒と駿河の博徒は、富士川を挟んで対峙した。主だった親分衆が集まったが、前田栄五郎と祐天善之助は参加しなかった。竹尾安五郎たち甲州勢は五百人、仲と寿郎長が集めた駿河勢が三百人で、数の上では甲州勢が勝っていた。正午前、それぞれの対岸から掛け声が掛かると、両勢力が激突した。川の浅瀬を渡り、戦いが始まる。

 寿郎長一家は、真っ先に斬り込む。一家の内でも競争が始まる。森市松は、急ぐあまりに敵陣を突き抜け、大将の前まで出てしまう。つまり、竹尾安五郎の前まで走り抜けた。敵味方、市松の突き抜けたバカぶりに呆れる。

「この野郎、子分と戦ってから来やがれ!」
 安五郎が怒鳴る。それと同時に、安五郎の子分が四方八方から市松に襲い掛かる。その時、二匹の犬が駆け寄り、市松の敵に咬みついた。
「わっワンちゃん、恩にきるぜぇ」
 市松も刀を振り回し、敵の囲みを破る。
「待ちやがれドサンピン!」
 市松を追う子分の顔が砕けた。法院大五郎が鉄数珠を喰らわせたからだ。
「これは、『難舞打』と言う技だぁ、成仏したって」
 痙攣する相手に説明する。
 その他、寿郎長一家の、足が速い順に到着する。
 坂東綱太郎は、腰刀を使って戦うが、更に強力なのは、犬による攻撃だった。紅と白は、敵の背後から手足を咬む。綱太郎は、留めを刺すだけでいい。
 追分参五郎は、敵の刃に合羽を搦めて無力化し、脇差で突きを入れる。
 桶屋中吉は、槍で次々と敵を仕留める。
 出刃政は、敵の急所に出刃を当てる。
 江沢大熊は、敵を豪快に吹き飛ばす。
 そして、寿郎長はやる事が無かった。殺到する敵は、仲が全て始末した。

 仲の得物は鉄砲だった。しかも、六連発の拳銃だった。撃鉄を起こし、狙いをつけ、引金を引く。これで死体の山を築く。ただし、六発撃ったら弾の再装填が必要になる。ところが、銃はもう一丁有った。しかも、玉次郎と言う、弾込めだけする子分が居て、再装填が異様に早い。

 さて、甲州勢は四半刻も待たずに崩壊した。後に残ったのは、竹尾安五郎だけだった。

「くそ、寿郎長、勝負しやがれ!」
 安五郎が叫ぶ。
「望むところだ」
 両者は、刀で勝負する。金属音が響き、刃がぶつかり合う。火花散る激闘。刃毀れ同士が噛み合い、刀を固定する。寿郎長の顔と安五郎の顔が間近に迫った。力で押し合う。
 刃と刃が噛み合った場合、刀の角度を変える事で外れ、再び刀が動かせる。その瞬間が勝負の分かれ目だった。両者の刀が自由になる。
 寿郎長は、安五郎の刀を脇に流し、そのまま首を狙った。刃がざっくり入った。
 安五郎も寿郎長の太腿を斬るが、傷は浅い。
 勝負は、安五郎が息絶え、寿郎長が勝利した。

 富士川に勝ち鬨が響く。
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