8 / 13
竹尾安五郎
◯八
しおりを挟むシリル様にキスされている。
婚約者の立場の時でさえ適度な距離、挨拶などでも手の甲へのキスまでで頬へのキスさえなかったのに、今は唇へのキスだ。
思わず身体を仰反らそうとするが、後頭部をがっちり捕まえられていてそれもできない。
息苦しくなって彼の腕を叩く。するとそっとほんの少しだけ離してくれた。
息を吸うため口を開くとすぐ口を塞がれる。そして口の中には熱を持った何かが。
私の口内で暴れているのは彼の舌だ。
どうすれば、と考えていられたのも少しの間だけでだんだん思考が奪われていく。
満足した彼が唇を離したが、まだ私の息は整わない。
「ど…どう、して…」
それだけをやっと口にするが悪びれた感じもなく
「少し行き過ぎかもしれないが婚約者への愛情表現だよ。何もおかしいことはないよ。」
まだ、頭がぼうっとしてて上手く考えられない。婚約者?婚約解消するのに?シリル様はリュエル様と相思相愛のはず。私にキスするなんて何を考えているの?
「シリル様。私は元婚約者です。今は解消へ向けての話し合いの最中ですが……「解消はしない。だから君は今もこれからも俺の婚約者だよ。」
「ですが、シリル様にはリュエル様がいらっしゃるではないですか?」
「リュエル嬢?彼女に恋愛感情はないよ。彼女から聞く隣国の話には関心があるけれど。それだけで婚約者を交代なんてしないよ。」
「仕方ない。ここまでする気はなかったが。」
そう言うと私を抱き上げてスタスタと歩き始める。
ここは私の私室。今は前室にいるがシリル様が向かっているのは奥の寝室だ。
「えっ、や、ちょっ…」
シリル様の腕の中で暴れてみたがびくともしない。扉を開けて私をベッドにそっと下ろし、その上にのしかかってきた。
「シリルさ…」
唇を合わせてまた口内をシリル様の舌が暴れる。
唾液を送り込まれ息が出来なくて飲み込む。飲みきれないものは口の端から溢れている。
シリル様が唇を離し溢れた物を追いかけて首元まで舌を這わす。
すると背中がゾクゾクとする。思わず背を反らせると喉元にきつく吸いつかれる。
「いたっ、やっ、」
いくつも吸いつき、その上をなぞるように舌を這わされて声を抑えることが出来なくなる。シリル様の唇がどんどん下に下がってきた。今日はアザが薄くなったからと詰め襟ではなく少し胸元が開いている服を着ていた。だから開いていた鎖骨から胸元にかけて吸いつき跡を残す。
シリル様は少し顔を離してうっとりと
「綺麗に跡がついた。まるで紅い華が咲き誇っているようだ。」
つけた赤い華を指で一つ一つなぞる。その指使いにまた身体がビクビクと震える。
頭のどこかでこのままではいけないと思っていても、どうすれば良いのかわからない。
そんな時、コンコンとノックの音がしてドアの外から執事が声をかけてきた。
「お嬢様、シリル殿下。旦那様がお帰りになられお呼びです。開けてもよろしいでしょうか?」
「チッ」と舌打ちが聞こえてシリル様が私の上から退いて抱き起こしてくれた。
と、同時にドアが開けられ執事がメイドと入ってきた。
執事は私を見るとメイドに服と髪の乱れを直し、ショールをかけるように指示した。
「シリル殿下。旦那様がお待ちです。ご一緒に来ていただけますか?」
疑問形なのに何故か有無を言わせない物言いだ。シリル様も何も言わず執事について部屋を出る。
父の執務室ではグレイテス伯爵とシリルが向かい合ってソファーに座っていた。
男性使用人に抱き抱えられてオリビアが部屋に入るとシリルが立ち上がりオリビアを使用人から奪うように抱き抱えると座っていたソファーにおろし、すぐ横に自分も腰掛けた。
目の前から伯爵のため息が聞こえた。
「シリル殿下。今貴方と娘の婚約は解消へ向けての話し合いの最中です。それなのに急な訪問、侍女を部屋の外に出して部屋に2人で籠るなど、一体どういうおつもりか説明お願いできますか?」
「オリビアとの婚約解消はしない。今回の件は全て私が悪かった。それで今日は彼女に謝罪しに来訪した。
侍女を追い出したのは王族たる者がみだりに頭を下げるものではないと言われているので、見られないように出て行ってもらっただけだ。他に意図はない。部屋に2人きりなのも婚約者なんだから問題はないだろう?」
シリルはしきりにオリビアを婚約者として扱い、婚約解消はしないと断言している。
グレイテス伯爵は困り顔で
「婚約解消で話を進めております。なのでお戯れはお止めください。」
シリルはニヤリと笑い、横に座らせたオリビアのショールを抜き取った。
すると先程付けられた赤い華が散らばった胸元が晒された。
「オリビアとは仲直りをしている途中だったのだよ。無粋にも止められてしまったがね。私はオリビアを離す気はないよ。それでも婚約解消を強行する気か?」
おたおたと慌てるオリビアを嬉しげに目を細めて見ながら伯爵に言い切った。
グレイテス伯爵は諦めきった表情で
「わかりました。婚約解消は引き下げましょう。
ですが、婚姻まで手を出すのは控えていただきますよ。」
シリルは嬉しそうに微笑むと
「仕方ない。今後は婚約者としての軽い愛情表現に留め、後は結婚後の楽しみにしておこうか。婚約者が愛らしすぎて早く結婚してしまわないといつ限界が訪れるかわからないけどね。」
そしてオリビアの耳元で、「これからもよろしく。婚約者殿。」と囁くとチュッと頬へキスをした。
真っ赤になるオリビアを蕩けるような目で見ながら抱きしめる。
わたしは悪役ではなくまだシリル様の婚約者でいても良いらしい。
婚約者の立場の時でさえ適度な距離、挨拶などでも手の甲へのキスまでで頬へのキスさえなかったのに、今は唇へのキスだ。
思わず身体を仰反らそうとするが、後頭部をがっちり捕まえられていてそれもできない。
息苦しくなって彼の腕を叩く。するとそっとほんの少しだけ離してくれた。
息を吸うため口を開くとすぐ口を塞がれる。そして口の中には熱を持った何かが。
私の口内で暴れているのは彼の舌だ。
どうすれば、と考えていられたのも少しの間だけでだんだん思考が奪われていく。
満足した彼が唇を離したが、まだ私の息は整わない。
「ど…どう、して…」
それだけをやっと口にするが悪びれた感じもなく
「少し行き過ぎかもしれないが婚約者への愛情表現だよ。何もおかしいことはないよ。」
まだ、頭がぼうっとしてて上手く考えられない。婚約者?婚約解消するのに?シリル様はリュエル様と相思相愛のはず。私にキスするなんて何を考えているの?
「シリル様。私は元婚約者です。今は解消へ向けての話し合いの最中ですが……「解消はしない。だから君は今もこれからも俺の婚約者だよ。」
「ですが、シリル様にはリュエル様がいらっしゃるではないですか?」
「リュエル嬢?彼女に恋愛感情はないよ。彼女から聞く隣国の話には関心があるけれど。それだけで婚約者を交代なんてしないよ。」
「仕方ない。ここまでする気はなかったが。」
そう言うと私を抱き上げてスタスタと歩き始める。
ここは私の私室。今は前室にいるがシリル様が向かっているのは奥の寝室だ。
「えっ、や、ちょっ…」
シリル様の腕の中で暴れてみたがびくともしない。扉を開けて私をベッドにそっと下ろし、その上にのしかかってきた。
「シリルさ…」
唇を合わせてまた口内をシリル様の舌が暴れる。
唾液を送り込まれ息が出来なくて飲み込む。飲みきれないものは口の端から溢れている。
シリル様が唇を離し溢れた物を追いかけて首元まで舌を這わす。
すると背中がゾクゾクとする。思わず背を反らせると喉元にきつく吸いつかれる。
「いたっ、やっ、」
いくつも吸いつき、その上をなぞるように舌を這わされて声を抑えることが出来なくなる。シリル様の唇がどんどん下に下がってきた。今日はアザが薄くなったからと詰め襟ではなく少し胸元が開いている服を着ていた。だから開いていた鎖骨から胸元にかけて吸いつき跡を残す。
シリル様は少し顔を離してうっとりと
「綺麗に跡がついた。まるで紅い華が咲き誇っているようだ。」
つけた赤い華を指で一つ一つなぞる。その指使いにまた身体がビクビクと震える。
頭のどこかでこのままではいけないと思っていても、どうすれば良いのかわからない。
そんな時、コンコンとノックの音がしてドアの外から執事が声をかけてきた。
「お嬢様、シリル殿下。旦那様がお帰りになられお呼びです。開けてもよろしいでしょうか?」
「チッ」と舌打ちが聞こえてシリル様が私の上から退いて抱き起こしてくれた。
と、同時にドアが開けられ執事がメイドと入ってきた。
執事は私を見るとメイドに服と髪の乱れを直し、ショールをかけるように指示した。
「シリル殿下。旦那様がお待ちです。ご一緒に来ていただけますか?」
疑問形なのに何故か有無を言わせない物言いだ。シリル様も何も言わず執事について部屋を出る。
父の執務室ではグレイテス伯爵とシリルが向かい合ってソファーに座っていた。
男性使用人に抱き抱えられてオリビアが部屋に入るとシリルが立ち上がりオリビアを使用人から奪うように抱き抱えると座っていたソファーにおろし、すぐ横に自分も腰掛けた。
目の前から伯爵のため息が聞こえた。
「シリル殿下。今貴方と娘の婚約は解消へ向けての話し合いの最中です。それなのに急な訪問、侍女を部屋の外に出して部屋に2人で籠るなど、一体どういうおつもりか説明お願いできますか?」
「オリビアとの婚約解消はしない。今回の件は全て私が悪かった。それで今日は彼女に謝罪しに来訪した。
侍女を追い出したのは王族たる者がみだりに頭を下げるものではないと言われているので、見られないように出て行ってもらっただけだ。他に意図はない。部屋に2人きりなのも婚約者なんだから問題はないだろう?」
シリルはしきりにオリビアを婚約者として扱い、婚約解消はしないと断言している。
グレイテス伯爵は困り顔で
「婚約解消で話を進めております。なのでお戯れはお止めください。」
シリルはニヤリと笑い、横に座らせたオリビアのショールを抜き取った。
すると先程付けられた赤い華が散らばった胸元が晒された。
「オリビアとは仲直りをしている途中だったのだよ。無粋にも止められてしまったがね。私はオリビアを離す気はないよ。それでも婚約解消を強行する気か?」
おたおたと慌てるオリビアを嬉しげに目を細めて見ながら伯爵に言い切った。
グレイテス伯爵は諦めきった表情で
「わかりました。婚約解消は引き下げましょう。
ですが、婚姻まで手を出すのは控えていただきますよ。」
シリルは嬉しそうに微笑むと
「仕方ない。今後は婚約者としての軽い愛情表現に留め、後は結婚後の楽しみにしておこうか。婚約者が愛らしすぎて早く結婚してしまわないといつ限界が訪れるかわからないけどね。」
そしてオリビアの耳元で、「これからもよろしく。婚約者殿。」と囁くとチュッと頬へキスをした。
真っ赤になるオリビアを蕩けるような目で見ながら抱きしめる。
わたしは悪役ではなくまだシリル様の婚約者でいても良いらしい。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
蘭癖高家
八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。
独裁者・武田信玄
いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます!
平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。
『事実は小説よりも奇なり』
この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに……
歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。
過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。
【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い
【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形
【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人
【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある
【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である
この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。
(前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
梅すだれ
木花薫
歴史・時代
江戸時代の女の子、お千代の一生の物語。恋に仕事に頑張るお千代は悲しいことも多いけど充実した女の人生を生き抜きます。が、現在お千代の物語から逸れて、九州の隠れキリシタンの話になっています。島原の乱の前後、農民たちがどのように生きていたのか、仏教やキリスト教の世界観も組み込んで書いています。
登場人物の繋がりで主人公がバトンタッチして物語が次々と移っていきます隠れキリシタンの次は戦国時代の姉妹のストーリーとなっていきます。
時代背景は戦国時代から江戸時代初期の歴史とリンクさせてあります。長編時代小説。長々と続きます。
獅子の末裔
卯花月影
歴史・時代
未だ戦乱続く近江の国に生まれた蒲生氏郷。主家・六角氏を揺るがした六角家騒動がようやく落ち着いてきたころ、目の前に現れたのは天下を狙う織田信長だった。
和歌をこよなく愛する温厚で無力な少年は、信長にその非凡な才を見いだされ、戦国武将として成長し、開花していく。
前作「滝川家の人びと」の続編です。途中、エピソードの被りがありますが、蒲生氏郷視点で描かれます。
剣客居酒屋 草間の陰
松 勇
歴史・時代
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
狩野岑信 元禄二刀流絵巻
仁獅寺永雪
歴史・時代
狩野岑信は、江戸中期の幕府御用絵師である。竹川町狩野家の次男に生まれながら、特に分家を許された上、父や兄を差し置いて江戸画壇の頂点となる狩野派総上席の地位を与えられた。さらに、狩野派最初の奥絵師ともなった。
特筆すべき代表作もないことから、従来、時の将軍に気に入られて出世しただけの男と見られてきた。
しかし、彼は、主君が将軍になったその年に死んでいるのである。これはどういうことなのか。
彼の特異な点は、「松本友盛」という主君から賜った別名(むしろ本名)があったことだ。この名前で、土圭之間詰め番士という武官職をも務めていた。
舞台は、赤穂事件のあった元禄時代、生類憐れみの令に支配された江戸の町。主人公は、様々な歴史上の事件や人物とも関りながら成長して行く。
これは、絵師と武士、二つの名前と二つの役職を持ち、張り巡らされた陰謀から主君を守り、遂に六代将軍に押し上げた謎の男・狩野岑信の一生を読み解く物語である。
投稿二作目、最後までお楽しみいただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる