幕末博徒伝

雨川 海(旧 つくね)

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竹尾安五郎

◯安五郎 五

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 参五郎は、三方からの攻撃に上手く立ち回った。普通なら、三対一の場合、かなり一の方が部が悪い。誰か一人と斬り結べば、他の二人に無防備な部分を晒す事になる。それでも、敵の息が合っていない場合なら、対応する事ができる。どうしても、最初に斬り込むのは度胸が要るし、また、誰かが斬り込んだ後、二の太刀三の太刀で波状攻撃するにも、お互いに阿吽の呼吸が要る。
 さて、三人の悪党だが、立ち位置、呼吸、共に合っていた。参五郎は、複数の太刀筋を躱す事になる。そこで使うのが、合羽になる。左手の合羽を振り回し、敵の刃を防いだ。そして、脇差で斬りつける。参五郎が長脇差ではなく、脇差を使っているのは、片手で扱いやすいからだった。
 参五郎は、攻撃を躱しつつ反撃する。相手の手足を斬って出血させ、後は逃げ回る。それで、悪党たちは自滅した。失血で動けなくなる。
「ふん、三人揃ってその程度かい」
 参五郎は、内心で冷や汗をかきながら、捨て台詞を決めた。
「さぁ、娘さん方、安心だよ」
 参五郎は、女衒一行に声をかける。だが、すでに姿がなく、峠の向こうに四つの影が移動していた。どうやら、参五郎と悪党の戦いが始まった直後から、逃げていたようだ。まぁ、参五郎が負けた場合、被害を受ける可能性が高いから、逃げるのも無理はない。参五郎は、走って追った。



「お~い、お待ちなせぇ」
 息を切らし、女衒たちを追いかける。娘たちはケラケラ笑う。妙に人懐っこい笑顔だった。
「何か用かい?」
 女衒が素っ気なく言う。参五郎は、抗議した。
「おいおい、命の恩人にそれはないだろう」
 女衒は、面倒臭そうな顔をして、懐から財布を出す。
「いや、そんなんじゃねぇだろ。人として、お礼が先だろう」
「なんだ、口だけで良いのか?」
「いや、口だけって」
 娘たちは、参五郎と女衒の間が収集がつかないのを見越して、気を利かせた。
「親切なお兄さん、助けてくれてありがとう」
 三人娘が声を揃えて言う。大人二人は、毒気を抜かれた。

「まぁ、良いってことよ」
 参五郎は、途端に気を良くした。女衒の方も、素直になる。
「参五郎さんだっけ、いやぁ、世の中には悪い奴が多いからさ、必要以上に用心しちまってさ。勘弁してくれよ」
 女衒一行と参五郎は、道中を共にする。そのまま、一緒に上州に入り、前田栄五郎一家を訪ねる。参五郎は、渡世の仁義を切った。

「手前、生国を発しますは信州にござんす。信州追分の参五郎という駈け出し者でござんす。上州前田の栄五郎親分には、いごお見知り置きくださいまし」
 
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