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仲神舜一の場合

☆13

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「その文献は、何処の誰が出しているの?」

 僕は、綾香との会話では解決を見いだせないと判断し、作者に質問してみる事にした。

「出版社は曙出版で、杉川町に存在しているよ。それから、作者は五十嵐亮太と言う人だね」

 僕は、綾香が口にした名前に聞き覚えが有った。記憶を辿ると、成政さんの葬式までさかのぼる。喪服を着て畏まる色黒で角刈りの強面が思い浮かんだ。

「曙出版は、他にどんな本を出している?」

「え~とね、カラー図鑑 刺青の世界、怖い人が教えたくない秘密の交渉術、裏社会で出世する人の黄金習慣、残念な人々、とかだね」

 綾香は、怖そうなラインナップを並べ立てた。

「たぶん、その人は成政さんの知り合いで、お葬式の時に会ったよ。直で話を聞きに行こうか?」 

 僕の提案に綾香が頷き、次の行動が決まる。
 ただ、その前に綾香が天現寺に挨拶しに行きたいと言い出す。

 澤地豊雄が最期を迎えた寺は、彼女が懇意にしている場所でもあった。


 天現寺は、立派な門構えの寺だった。場所は、郷土資料館から近く、少し歩くだけで着いた。

 綾香は、慣れた様子で境内を通り、本堂の前を通り過ぎ、寺務所(寺の事務所)へ向かう。

 僕は、途中で駐車場に目を止めた。此所は来客用ではなく、内部の職員向けだと思われる。
 その中の一台がイタリア製の小型車のフィアットで、お洒落な外観が興味を引いた。でも、ツードアの四人乗りってどうなんだろう?

 僕は、オレンジ色の車の車内を覗き込み、幾つかのフィギアが飾ってあるのを確認した。

「お洒落な車でしょ?」

 綾香が、自分の物であるかのように自慢する。

「誰のか知っているの?」

 僕の問いに、綾香が答えた。

「お寺の事務を担当している村井さんだよ」

「フルネームは解る?」

「村井武人さん」

「ふ~ん」

「どうかしたの?」

 僕は、綾香の質問には答えずに、質問で返した。

「この原付、鍵が付けっぱなしだね」

 フィアットの近くにスーパーカブがあり、キーが差したままだった。

「私が見ると何時も差してあるのよね。差しっぱなしかも?」

 僕は、綾香の興味を簡単に逸らせた。

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