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仲神舜一の場合
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既に伝説となっていた村人大量殺人事件。その残虐な犯行の犠牲者は、一晩で三十人にも及んだ。
その実行犯、澤地豊雄が、僕たちを見下ろすように立っていた。
犯人の豊雄は、五十年前の人間だし、犯行直後に自殺している。だから、目の前にあるのは本人では無い。リアルな蝋人形だった。
蝋人形は、犯行当時の装束のままで、そこに生きているかのように立っていた。頭に手ぬぐいでハチマキをし、そこに懐中電灯を二本、左右に固定していた。体は、詰め襟の学生服の上から帯を巻き、日本刀を差している。足には地下足袋を履き、ズボンの裾が邪魔にならないように布を巻いていた。かなり異様な格好で、妖魔や百鬼夜行の世界を思わせる。
色白で青ざめた顔、つり上がった目、神経質そうな表情、眉間に寄った皺、息が上がっているかのような、半開きになった真っ赤な唇など、まるで犯行時の豊雄を生き写しにしたようだった。
そして、手拭いで固定したライトの無機質さと、鋭い眼光の有機質の奇妙な融合の先には、獲物がある。つまり、僕たちだ。
蝋人形の視線が突き刺さり、心臓を鷲掴みにされたような感覚を味わう。時が止まり、観衆のざわめきが遮断される。僕は、喉の渇きを覚えた。
僕の手を、綾香が強く握る。
僕は、彼女の手を握り返し、力強くアピールする。
「大丈夫、僕が守るから」
綾香は落ち着きを取り戻したようだった。繋いだ手から緊張が消えた。
僕らは、蝋人形の前を無事に通り過ぎ、杉川町の文献が保管されたブースへ移動する。
そこは、図書館の様に大きな資料棚があり、机と椅子も用意されているので、落ち着いて調べ物ができる。
僕と綾香は、それぞれで澤地豊雄に関する資料を集める事にした。
僕は、杉川村事件に関する分厚い本を探し出し、読み始めた。
その実行犯、澤地豊雄が、僕たちを見下ろすように立っていた。
犯人の豊雄は、五十年前の人間だし、犯行直後に自殺している。だから、目の前にあるのは本人では無い。リアルな蝋人形だった。
蝋人形は、犯行当時の装束のままで、そこに生きているかのように立っていた。頭に手ぬぐいでハチマキをし、そこに懐中電灯を二本、左右に固定していた。体は、詰め襟の学生服の上から帯を巻き、日本刀を差している。足には地下足袋を履き、ズボンの裾が邪魔にならないように布を巻いていた。かなり異様な格好で、妖魔や百鬼夜行の世界を思わせる。
色白で青ざめた顔、つり上がった目、神経質そうな表情、眉間に寄った皺、息が上がっているかのような、半開きになった真っ赤な唇など、まるで犯行時の豊雄を生き写しにしたようだった。
そして、手拭いで固定したライトの無機質さと、鋭い眼光の有機質の奇妙な融合の先には、獲物がある。つまり、僕たちだ。
蝋人形の視線が突き刺さり、心臓を鷲掴みにされたような感覚を味わう。時が止まり、観衆のざわめきが遮断される。僕は、喉の渇きを覚えた。
僕の手を、綾香が強く握る。
僕は、彼女の手を握り返し、力強くアピールする。
「大丈夫、僕が守るから」
綾香は落ち着きを取り戻したようだった。繋いだ手から緊張が消えた。
僕らは、蝋人形の前を無事に通り過ぎ、杉川町の文献が保管されたブースへ移動する。
そこは、図書館の様に大きな資料棚があり、机と椅子も用意されているので、落ち着いて調べ物ができる。
僕と綾香は、それぞれで澤地豊雄に関する資料を集める事にした。
僕は、杉川村事件に関する分厚い本を探し出し、読み始めた。
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