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Four-leaf Cross〔Ogata〕

◆第六十一話◆

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「さっきからずっと考え事してるね」

 後ろから包まれるように抱かれ、不意に耳元で囁かれた。中にあった河南のものがグリッと角度を変える。

「あっ・・んん、もう駄目って言った」

「んー、でもまだ出来そう」

 甘えた声を出す彼につい許してしまいそうになるが、心を鬼にして「駄目」とイサめた。河南は不満げにしばらく緒方の首筋に鼻を擦り付けた後、諦めてずるりと自身を引き抜いた。興奮状態の河南のペニスを長時間咥え込んでいた尻は痺れて感覚が無く、腰も力が入らないせいで、立ち上がったまでは良かったけれど、一歩が踏み出せない。

「ほらぁ、こうなるから嫌だったのに! 俺は君と違ってもうおじさんなんだから、ちょっとは加減して!」

「ふはは、抱っこしてあげようか?」

 河南は涼しい顔でベッドに寝転びながら肘をつき、四十一歳の小鹿を鑑賞している。

「うるさいよ! 

 途端に河南の顔が耳まで真っ赤になった。初めて名前呼びをしてから何ヵ月も経つのに、彼は未だに初々しい反応を返してくれる。とても可愛い。可愛くて勿体ないので、たまにしか名前では呼ばない。

「ふふ、ごめん今のは意地悪だったね。やっぱり抱っこしてくれる? 河南くん」

「うん」

 河南は立ち上がり、ふわりと緒方を抱き上げた。

「さっき何考えてたの?」

 河南からの質問にどきりとする。素直に答えようか迷っていたら、「教えて」と髪を撫でられる。

「・・祥太のこと」

 躊躇いがちに白状すると、河南は「ああ」と目を伏せた。言わない方が良かったか・・、セックス中に考え事をする自体が最低な上に、考えてた事が最悪すぎる。「ごめんね」と謝ろうとして、彼の喋り出しと衝突した。

「あ、ごめんね、なんて言おうとしたの?」

「うん、どんな事を考えてたのかなって」

 どうやら怒ってはなさそうだ。ここまで言ったら隠す必要もないので、緒方は素直に口を開く。

「祥太の住んでいる場所が分かった・・かもしれない」

 河南の喉仏がごくりと動いた。

「それで? 会いに行きたいの?」

「・・・・いや」

「正直に言って」

 河南の優しい声に押され、コクンと頷く。

「でもね、会ってどうしたいのかはなんとも言えなくて。普通に生活してる祥太を見て、ただ自分が安心したいだけなのかもしれないし・・」

 曖昧な答えに河南はふぅとため息をついた。

「まだ裕臣さんの事が好きでボロボロになってたらどうする?」

 何も言えない。緒方は目を泳がせ、小さな声で「分からない」と呟いた。

「そんなの最低だよね・・ごめんなさい」

 抱き締める河南の腕に力が込もったと思ったら、もにゅっと尻を鷲掴みにされる。

「ひっ」

「謝りすぎ、いつかそう言ってくる日が来るんじゃないかってずっと思ってたんだ。いいよ、俺の気持ちはあんたに告白した時と変わってないから、好きにやんなよ」

「河南くんっ、俺は」

 不意にシャワーのお湯が肌に広がり、緒方はびくりと身体を震わせた。夢中で話していて、浴室に入ったのにも気が付かなかった。

「あ、びっくりした? 寝る前に綺麗にするでしょ?」

「うん」

 辛い辛いと言いながらも、自分は幸せを手に入れた。自分だけが幸せになった。温かく包まれる身体に古傷がチクンと疼く。それはまるで「忘れないで」と自分に訴えているように思えてならなかった。
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