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最終章 ハッピーエンドとは、ただひとりに捧げるために作られた悲喜劇だ
94 休息
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譲は食堂で落ち着きなく義足をつけた脚をゆする。
食事をする顔ぶれはガラリと変わった。
しかし結果的に良かったのだ。
ナガトは亡国の王子だった、じきにべコック国王の玉座に座る。一気に階級に隔たりができてしまったが、これまで通りに友達でいると言ってくれた。
ヴィクトルにとっても最高に素晴らしい誤算だったようで、上機嫌にナガトと話し込んでいる。
「閣下、本土の部下と無線連絡が取れました。イェスプーンの制圧は完了したそうです」
「了解だ、よくやった」
ヴィクトルが立ち上がる。
「私は操縦室を見てくるよ、譲とナガト王子は休んでいなさい」
譲は懸命に肩の震えを抑えていたが、ヴィクトルの姿が食堂から出て行くと、堪えきれずに笑ってしまった。
「ぷ」
勿論ヴィクトルに対してじゃない。
「笑ってんじゃねー!」
ナガトが自身も赤面しながら言い返してくる。
「ははっ、ごめん。だって王子って面じゃないし」
「んなこと俺もわかってんだよ。アゴール公爵の方がよっぽど王子様だ」
「同感」
笑っていた譲はふと真面目な顔をする。そういえばナガトに確認しておかなければいけないことがあった。
ナガトが最上デッキを色々調べていたのは長年恨み続けていた相手を探す目的であったことは知れたが、人のターゲットまで狙おうとしたのは何故だろう。
今後も信じていく為に疑念はここで全て払拭しておきたい。
「あー、ごほんっ、なぁナガト、お前はなんで俺の身辺を調べてた? 人の部屋に勝手に入るなんて怪しんで下さいって言ってるもんだ」
ナガトは気まずそうに額を掻いた。
「すまなかったよ。こいつの件があったからさっさと譲のターゲットを始末して俺の方に向かいたかったんだ。元べコック国王夫妻が島に上陸してないってことは明確だったから、必ずテティスの何処かに居るはずだって考えてた」
こいつと指で摘まれた首のコインを見て、譲は目を伏せる。
「ナガトはなんでソレが爆発するって知ってたんだ?」
「トーマスさ」
「ああ」
成程。納得した。譲もトーマスと厨房で話した際に忠告を受けている。あの謎の言動は危険を仄めかしてくれていたのだ。
アレグサンダーの近くで行動していれば当たり前に知っていておかしくない。
「少し休んだら爆発解除の方法を見つけないとな」
「うん、だな。このままじゃ恐ろしくて生活できないもんな」
譲はナガトの提案に頷いて肩をすくめる。
しかしトーマスは何処に行ったのだろうか。
会話に名前が出てきたことで気になってしまった。
乱戦の最中で人知れず命を落としてしまったのだろうか。
(不思議な人だったけど善人だったぽいし、悲しいな)
助かって欲しかったと胸を痛める。
それにトーマスなら、解除方法もアレグサンダーから教えられているかもしれないのだ。
あとは頼れるとするならと考えハッとする。
「そういやエルマーさんは?」
ナガトも今思い出したようだ。見るからに青褪めて頭を抱える。
仕方がない。自身の生死も危うかった時に、譲だって他人の心配まではできなかった。
「テティスに乗ってないってことは・・・そういうことなんだろうな」
ナガトの声が暗くなる。
「俺は崖を登っている途中でセレモニーの会場にいたのを見かけた。巻き込まれて殺されたのかもしれない」
「くそ、悔しいな。でもエルマーさんのことだから、案外孤島の何処かに隠れて生き延びてたりして」
「・・・・・・あの人ならあり得るかもな。しぶといし」
「うん、信じよう。きっと突然ひょこっと帰ってくるよ」
ナガトの無理をしたような口調に、譲はなんとも言えず胸が絞られた・・・。
「けど、譲は良かったな。アゴール公爵を殺さずに済みそうなんだろう?」
「うん、お陰様で」
最後までナガトが勘違いをしてくれていなかったら、撃たれて倒れたのはキリル王太子ではなくヴィクトルだった。その情景を思い浮かべると手が震える。
「本当に悪かったな。譲と閣下の関係には目で見えているもの以外に何かあると思ったが、しかし、ボスも酷いことをするよ」
「もういいさ、終わったことだ。今さら言っても過去は変わらない。それにナガトが公爵にとって有利な切り札になりそうだし」
「ああ、多分、俺がいることでべコックに対しては強く出られるはずだ。きっと深いお考えがあるのだろうな。俺はできる限り協力するよ」
「ありがとう。頼りにしてるぜ、相棒!」
譲はナガトの真似をしてニィっと笑って礼を言う。気づいたナガトがふっと歯を見せて笑う。
ヴィクトルが取引したという相手がべコック上層部ならナガトの存在は百人力だ。
その時、話題の渦中にいたヴィクトルが食堂に戻ってきたので、譲とナガトは会話を中断させた。
食事をする顔ぶれはガラリと変わった。
しかし結果的に良かったのだ。
ナガトは亡国の王子だった、じきにべコック国王の玉座に座る。一気に階級に隔たりができてしまったが、これまで通りに友達でいると言ってくれた。
ヴィクトルにとっても最高に素晴らしい誤算だったようで、上機嫌にナガトと話し込んでいる。
「閣下、本土の部下と無線連絡が取れました。イェスプーンの制圧は完了したそうです」
「了解だ、よくやった」
ヴィクトルが立ち上がる。
「私は操縦室を見てくるよ、譲とナガト王子は休んでいなさい」
譲は懸命に肩の震えを抑えていたが、ヴィクトルの姿が食堂から出て行くと、堪えきれずに笑ってしまった。
「ぷ」
勿論ヴィクトルに対してじゃない。
「笑ってんじゃねー!」
ナガトが自身も赤面しながら言い返してくる。
「ははっ、ごめん。だって王子って面じゃないし」
「んなこと俺もわかってんだよ。アゴール公爵の方がよっぽど王子様だ」
「同感」
笑っていた譲はふと真面目な顔をする。そういえばナガトに確認しておかなければいけないことがあった。
ナガトが最上デッキを色々調べていたのは長年恨み続けていた相手を探す目的であったことは知れたが、人のターゲットまで狙おうとしたのは何故だろう。
今後も信じていく為に疑念はここで全て払拭しておきたい。
「あー、ごほんっ、なぁナガト、お前はなんで俺の身辺を調べてた? 人の部屋に勝手に入るなんて怪しんで下さいって言ってるもんだ」
ナガトは気まずそうに額を掻いた。
「すまなかったよ。こいつの件があったからさっさと譲のターゲットを始末して俺の方に向かいたかったんだ。元べコック国王夫妻が島に上陸してないってことは明確だったから、必ずテティスの何処かに居るはずだって考えてた」
こいつと指で摘まれた首のコインを見て、譲は目を伏せる。
「ナガトはなんでソレが爆発するって知ってたんだ?」
「トーマスさ」
「ああ」
成程。納得した。譲もトーマスと厨房で話した際に忠告を受けている。あの謎の言動は危険を仄めかしてくれていたのだ。
アレグサンダーの近くで行動していれば当たり前に知っていておかしくない。
「少し休んだら爆発解除の方法を見つけないとな」
「うん、だな。このままじゃ恐ろしくて生活できないもんな」
譲はナガトの提案に頷いて肩をすくめる。
しかしトーマスは何処に行ったのだろうか。
会話に名前が出てきたことで気になってしまった。
乱戦の最中で人知れず命を落としてしまったのだろうか。
(不思議な人だったけど善人だったぽいし、悲しいな)
助かって欲しかったと胸を痛める。
それにトーマスなら、解除方法もアレグサンダーから教えられているかもしれないのだ。
あとは頼れるとするならと考えハッとする。
「そういやエルマーさんは?」
ナガトも今思い出したようだ。見るからに青褪めて頭を抱える。
仕方がない。自身の生死も危うかった時に、譲だって他人の心配まではできなかった。
「テティスに乗ってないってことは・・・そういうことなんだろうな」
ナガトの声が暗くなる。
「俺は崖を登っている途中でセレモニーの会場にいたのを見かけた。巻き込まれて殺されたのかもしれない」
「くそ、悔しいな。でもエルマーさんのことだから、案外孤島の何処かに隠れて生き延びてたりして」
「・・・・・・あの人ならあり得るかもな。しぶといし」
「うん、信じよう。きっと突然ひょこっと帰ってくるよ」
ナガトの無理をしたような口調に、譲はなんとも言えず胸が絞られた・・・。
「けど、譲は良かったな。アゴール公爵を殺さずに済みそうなんだろう?」
「うん、お陰様で」
最後までナガトが勘違いをしてくれていなかったら、撃たれて倒れたのはキリル王太子ではなくヴィクトルだった。その情景を思い浮かべると手が震える。
「本当に悪かったな。譲と閣下の関係には目で見えているもの以外に何かあると思ったが、しかし、ボスも酷いことをするよ」
「もういいさ、終わったことだ。今さら言っても過去は変わらない。それにナガトが公爵にとって有利な切り札になりそうだし」
「ああ、多分、俺がいることでべコックに対しては強く出られるはずだ。きっと深いお考えがあるのだろうな。俺はできる限り協力するよ」
「ありがとう。頼りにしてるぜ、相棒!」
譲はナガトの真似をしてニィっと笑って礼を言う。気づいたナガトがふっと歯を見せて笑う。
ヴィクトルが取引したという相手がべコック上層部ならナガトの存在は百人力だ。
その時、話題の渦中にいたヴィクトルが食堂に戻ってきたので、譲とナガトは会話を中断させた。
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