ラブドール

倉藤

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来たる日の再会

89 さっそくのハプニング

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 以前目にした時には血と爆弾の破片、死臭で覆われていたセボンアイランドは、当時とは違った顔を見せていた。
 セレモニー会場の設営を兼ねてアレグサンダーの息のかかった先鋒隊に住まわせていたようで、海岸に兵の野営テントのような布製の屋根がぽつぽつとある。
 地味な色合いだが、森に隠れやすく作られているテントの色が鼠色の岩場では目立つ。
 彼等の野営地のすぐ横には、目を見張るようなステージが完成されていた。
 中央の台座の周りに乳白色の天然石を削った柱が立ち、まるで古代の神殿だった。
 天井は吹き抜けて太陽の光が集まっている。
 ステージの前にはカラフルなフラッグラインが飾られ、両国の国旗が風にたなびいている様子が窺えた。
 セレモニーを終えた後は島に宿泊はせず、速やかに乗船し、記念パーティはレニーランドを目指しながら、夜通し軍艦テティスの艦内で行われる予定であった。
 事前に知らされている流れではだが。
 何が起こってもおかしくない。
 いっとき足りとも気を抜けない。
 譲達は艦を降りて行く賓客を甲板上にて見送り、自由行動となった。それぞれ持ち場に散って行くが、ナガトは動かない。視線を送ると、譲と一緒に動くと頷いた。
 その時、不意に参列客の中の一人が目に入る。タキシードを着用しているものの、着丈が微妙に合っていなく着慣れていないのが見て取れる。まだ子どもなのかもしれない。
 煌びやかさで言えば周囲の人間の方が何倍も派手だが、立ち居振る舞いが浮いており目についてしまう。
 彼は記者だった。譲は観察しているうちに気づいた。セレモニーの様子を国内に知らしめるためには発信してくれる人がいなければ意味がなく、互いの国で雇われた記者が複数名招待されていても不思議じゃない。彼だけじゃなく他にもいるだろう。
 しかし際立って目につくのは一人だけだ。

「何か不審なもんが見えるか?」

 立ちすくんだままでいた為、ナガトが訊いてくる。

「不審じゃないよ、記者が来てるんだなあって。ほら」
「ん、ほんとだ。まぁ、あれはな」

 ニィと笑ったナガトに、嫌な予感を感じ取る。

「まさか」
「面白いから見てな」

 記者の風貌の少年は懐から携帯式のアルミボトルを取り出す。同時に「ドンッ!」とドレスを纏った若い女性にぶつかった。
 途端、彼女のドレスが真っ赤に染まって行く。
 染み広がっているのはキャンティーンからこぼれたワインか、葡萄ジュースだろうか。譲は一部始終を目撃していたのでわかったが、だが少年の手元を見ていなかった人々は悲鳴を上げ、被害者の彼女がふらっと気を失った。会場にドリンクサービスはない為に想像もつかないのだろう。
 状況を理解できていない群集に混ざり、犯人の少年は運ぶ手伝いをするよう見せかけ、ぐったりと動かなくなった女性に肩を貸していた。

「ぶつかられた方はべコック政府参謀官の娘、一丁あがりだ」
「殺したのか?」
「いいや。娘を盾にして脅すんだ。彼女の父親はこれから始まるセレモニーの司会進行を担当している一人。奴にステージ上で悪事を暴露させ、本物の記者どもに戦争の真相を聞かせる」

 的確で素早い。
 ぎりぎりにコトを起こし、相手に悩む時間を与えないあたりも考えられている。
 事件が起こった会場の片隅は騒ぎになりかけていたが、誰かが血ではなかったと気がついたらしく、とうに掃除夫がモップ拭きに取りかかっていた。
 単独でここまでスイスイと成し遂げられるものだろうか。   
 多分、先程のあの中に協力者がいる。

「着々とキャプテンが描いた革命の完成図に近づいているな?」
「そう・・・だな」
「俺らも続くぞ。負けていられない」
「うん、そうだな・・・・・・」

 譲は声に出して返事をしたが、心は別のところにあった。

(公爵、俺はどう動いたらいい? どうするのが正解?)

 国に大金で雇われている記者は真相を聞かされても公にはできない。やむを得ずか、喜んでか、記者としての信念は様々だと思う。しかし間違いなく揉み消す。
 アレグサンダーがそんな無駄なことをするはずない。
 後に起こる革命の狼煙を直に目にした時、考えを変える可能性は大いにある。アレクサンダーは彼等を生きて帰し、彼等の発信力を使って国内中に革命の火を広めるつもりだ。
 転がり出してしまった車輪はもう止まらない。

(・・・・・・いや落ち着け、革命を止めることが俺の目的じゃない)

 譲は深呼吸をして頭を整理する。
 今一度、ヴィクトルを見張らなければ。この先何が起きようと彼を守ることが先決。
 彼はキリルと並んで主賓席にいる。

「ナガトは俺についてきていいの?」
「俺はセレモニーの時間はフリーで動ける」
「じゃあ、行こう」
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