首輪をつけたら俺たちは

倉藤

文字の大きさ
上 下
4 / 27
I 首輪をつけたら俺たちは(蓮太郎)

story.4 戯れの時間

しおりを挟む
大学の先輩とは言っても世話になった覚えはなく、正直、今日初めて会った人だった。
「つまり、先輩の御実家のある商店街を盛り上げるためのヒーロースーツをタダで作れと」
「すまん。ムシがいいのは分かってる。だが、うちの商店街、爺さん婆さんばかりで、そんなに予算がないんだ、最初は、商店街のマスコットキャラクターの着ぐるみでも作ろうかとも考えたんだが、それでも、人が入る着ぐるみ一着、数十万はくだらない、ちゃんとしたデザイナーに頼めば、もっとかかる。で、思い出したんだ、うちの大学に趣味でヒーロースーツを作ってるやつがいるって。で、それを着た動画をたくさんあげて、再生数を稼いで、開発費に回してるやつがいるって」「いえ、ヒーロースーツではなく、どちらかというと運動補助のパワードスーツです。近未来の戦争を想定した、核の放射能、細菌兵器などによる空気汚染下の劣悪な環境下でも活動できる完全防護戦闘服の研究です。動画を撮影してネットで公開しているのは、そのスーツの性能をアピールして世界中から開発資金を集めるためです」
「つまり、ヒーロースーツではなく、兵器だと」
「ええ、そうです、趣味ではなく、現実的な兵器開発です。ま。見てもらった方が早いでしょう」
俺は、先輩を、俺の工房の奥に案内した。
「まず、この一番下に着る、全身タイツみたいな黒いアンダーウェアですが、人工筋肉が織り込まれています」
「人工筋肉?」
「通常の人間の動きを補佐する収縮素材の総称です。例えば、相手を殴るとき、その腕の動きに合わせて、これが収縮して、その腕の動きを加速させます」
「??」
「ま、皮膚の上にもう一枚筋肉の層ができる感じです。あくまで動作の補佐ですから超人的な怪力になるわけではありません。で、これには防弾や耐熱衝撃吸収等の機能もありますから、これ一枚だけでも、結構な戦闘服だとは思います」
「ほぉ」
分かったのか分からないのかはっきりしない、曖昧な相槌を先輩はした。
「で、この上にさらにこっちのアーマーを装着することで、強度を高めた簡易パワードスーツになるというわけです。本当は兵器オプション付きの様々なアーマーを開発したいのですが、重武装の兵装開発となると、資金面や国内の法律等で、現状は、このアンダーウェアとこのアメフトのプロテクターに毛が生えたようなものしか作れてません」
「このアメフトもどきのプロテクターも十分かっこいいじゃないか」
「かっこいいだけじゃなくて、実用性がないと」
「とりあえず、このままでいいから、こいつを俺にヒーロースーツとして貸し出してくれないか」
「そんなに、こいつをヒーロースーツとして使ってみたいですか?」
「ああ、気に入った。ちょっと商店街のマークとか入れさせてもらうけど、基本は、このままで十分だ。貸してくれ」
「先輩が着ますか」
「いや、俺なんか来ても人気なんか出ない。俺の現役女子高生の妹にヒロインをやらせるつもりだ。現役女子高生ヒロイン、うけると思うだろ?」
「さ、こちらとしては、貸し出す条件として、アクションシーンでのデータをいただきたいですね。今まで、俺が着たデータだけなんで、他の人が着た場合のデータがないので」
「おい、現役女子高生が着ると聞いて、変なデータを取るつもりじゃないだろうな」
「そんなことはしませんよ、俺は純粋に技術バカなんで、十代の女子が身に付けたとき、どの程度の筋力アップ効果が出るか知りたいだけです」
そうして、俺のパワードスーツ開発は、地方の商店街活性化プロジェクトの一部に組み込まれたが、現役女子高生がスタントマンなしで、派手なアクションをこなすご当地ヒーローが誕生し、そんな俺のスーツの噂を聞きつけたハリウッドの連中が、スタントマンの怪我を減らせるとして俺のスーツを億単位で求めるようになり、近未来戦争を想定して作ったそれは、各国警察の特殊部隊に採用されたり、特殊災害救助隊の装備に採用されたりと、俺の予想とは外れて意外に軍事以外に多く使われるようになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

うちの前に落ちてたかわいい男の子を拾ってみました。 【完結】

まつも☆きらら
BL
ある日、弟の海斗とマンションの前にダンボールに入れられ放置されていた傷だらけの美少年『瑞希』を拾った優斗。『1ヵ月だけ置いて』と言われ一緒に暮らし始めるが、どこか危うい雰囲気を漂わせた瑞希に翻弄される海斗と優斗。自分のことは何も聞かないでと言われるが、瑞希のことが気になって仕方ない2人は休みの日に瑞希の後を尾けることに。そこで見たのは、中年の男から金を受け取る瑞希の姿だった・・・・。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

処理中です...