上 下
30 / 30

第三十話(最終話)首輪を付けて

しおりを挟む
 気づけば夏なんてあっとゆうまに終わっていた。桜の木の葉っぱもいつの間にやら鮮やかに色付いている。改めて見れば、満開の花にも負けないくらい綺麗だよなと、自転車に乗りながら林田は思った。
 秋の訪れを告げる冷たい風が林田の頬を撫でる。身を切るようなそれも、今はくすぐったいくらいにしか感じない。
 林田の心は満ち足りていた。大学の駐輪場に自転車を停め、のんびりとした足取りで一コマ目の講義に向かう。
 大講義室の中の人はまだまばらだった。始まるまではあと十五分ほどある。お決まりの定位置に腰掛け、ぼんやりと教科書を眺めていた。開始時刻の五分前になると、楠木がニンマリと笑って隣に座った。

「おはよ、今日も余裕だな」

「まぁな」

「あー、いいよなぁ、俺の事も養ってくれないかなぁ」

 本気なのか冗談なのか、楠木は夢見ごこちな表情をする。

「お前には絶対無理だ」

「なんでだよ!」

 適当に笑って返したところで、講義が開始された。マイクを通して喋っているのは、めちゃくちゃ早口で有名な名物講師。講義内容を血眼になって書き写している楠木の横で、林田は頬杖をついて教科書に視線を落とす。
 もう何度も読み込んでいる内容だ。今更、必死に聞かなきゃいけないような話ではない。今の自分の方が現実離れした環境にいるくせに、数ヶ月前までの齷齪アクセクした日々がまるで幻だったかのように感じる。それくらいに今は落ち着いた日々だった。
 その理由は言うまでもない。
 夕方、林田は最終講義を終えると、真っ直ぐに家路に着く。今日は早く帰ると言っていたから、きっともう家で待っている。自然とペダルを漕ぐスピードが上がった。
 公園の中を突っ切り、家の前までノンストップで駆け抜ける。やっぱり、家の明かりはすでに付いている。

「わん!」

 林田はドアを開けて、ご主人様が迎えてくれるのをじっと待った。

「ああ、おかえり蓮太郎」

 すぐにリビングから優しい声が聞こえた。穏やかな面持ちで鬼崎は玄関まで歩いてくる。
 寒かっただろうと大きな手のひらで林田の頬を包んだ。男の手のひらはとても温かい。ホットコーヒーを入れたマグカップでも持っていたのだろうか。

「ふふ、そうだよ、あとで蓮太郎にも温かい飲み物を用意してあげるからね」

 考えていたことを当てられて、かあっと顔が赤くなる。男は「可愛い」と微笑み、林田の額にキスを落とした。

「でも、その前に首輪を付けて、身体を綺麗にしようね」
 
 林田は付けやすいように顎を上げた。チラリと玄関の姿見に視線をやる。男の手によって林田の首に嵌められる『深い緑色の首輪』。今は見慣れた異様な光景。
 鬼崎は首輪をつけ終えると、今度は林田の服を上から順に脱がしていく。林田は着せ替え人形のごとく、されるがままに男にやらせていた。だが玄関で素っ裸にされるのは、季節的にそろそろ肌寒く感じる。林田はぶるっと身体を震わせた。

「寒いかい?ごめんね、これからは玄関にもヒーターを置いておくよ」

 優しい主人の頬をぺろりと舐める。

「ははは、さぁ、おいで」

 この家にいる間は俺はペット。もちろん自分で望んで始めた事じゃない。目の前で俺の手を引くこの男、鬼崎亮平がこの家にタダで住まわせる代わりに提示した条件。
 でも今は、それを自ら受け入れ、身の回りのこと一切をご主人様である鬼崎に委ねている。それが俺の喜びであり、さらにこの男の喜びでもあるからだ。
 林田は身体の全てを清められて、柔らかいタオルに包まれた。

「蓮太郎、お尻を向けて」

 林田は命じられた通りの姿勢を取り、一度だけ深呼吸をした。それを見計らったように、尻にぐぅっと尻尾が埋め込まれる。

「・・・・んんぅ」

 これを入れられる瞬間の圧迫感だけは未だに慣れない。しばらく息を整えるために、ふぅーふぅーと呼吸を繰り返す。とても苦しいけれど、「いい子だね」と頭を撫でられるたびに、ぎゅっと中を締め付けてしまう。
 林田はビクンと下半身が反応したのを蹲って隠した。その動きを「どうしたんだ」と厳しい口調で咎められ、涙目で男を見上げた。

「はうっ!」

 手のひらが臀部に触れた直後に、突き抜けるような鋭い痛みが襲った。叩かれた箇所がヒリヒリと痺れて熱をもつ。

「隠さないで見せなさい」
 
 命じる口調は優しい。林田はのろのろと身体を起こし、四つん這いの体勢に戻った。林田のパンパンに膨らんだ陰茎をつまみ上げ、男は冷ややかに笑う。

「蓮太郎は本当にどうしようもない犬だね」

 耳元で囁かれると熱い息がかかる。腰に男の高ぶりが擦り付けられ、林田も「あぅん」と甘えた声を出した。洗面所の鏡に、後ろから組み敷かれ乳首を弄られている姿が映る。

「・・・ああっ」

 強くつねあげられ、痛みに涙を流す己の痴態に、林田はどうしようもなく興奮した。そしてそれは後ろの男も同じ。ずりんと一気に玩具が抜かれ、太くて硬い男のモノが押し入ってくる。

「ひぃぃっ・・あん・・あっ・・ああっ!」

 上半身を立たせた状態で突き上げられる。射精しそうになると意地悪く動きを止め、絶頂を禁じられる。イきたいと泣いて縋れば縋るだけ、男のそれはズクンと激しさを増した。
 林田が耐えられなくなると、今度はペニスの根元に紐を結ばれた。強制的に堰き止められた欲が溜まりに溜まって、凄まじい生き地獄に悶えて苦しむ。唇を噛んで、歯を噛み締めて、涙を流しながら。
 嬌声を上げ続けた喉は掠れて、空気のような声しか出ない。朦朧とする意識の中で、ガクガクと腰が揺さぶられる。
 突然、腹の奥で熱が弾けた感覚がした。

「っ・・・蓮太郎、出さないで達したのか?」

 腹から全身へと駆け巡る快感に、身をのけ反らせピクピクと痙攣する。男のモノが抜かれても、それは一向に収まる気配がない。

「・・・・は・・・あ・・あ・・」

「蓮太郎は本当にどうしようもなくて、可愛いね」

 男のペニスはまた大きくなった。物欲しげにひくつく林田の窄まりにそれは押し当てられ、グチュんと音を立てて奥まで突き刺さる。
 林田の目はうっとりと虚ろだった。そして思う。ああ、俺は確かに幸せだと。

 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

男子大学生達の愉快なルームシェア

十時(如月皐)
BL
男子大学生たちのほのぼの? ルームシェア話(時々となりの先輩がやってくるよ) 十時の短編です! 若干BL

目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて── ※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。 ※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。 ※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

処理中です...