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第二十二話 新たな疑問
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カーテン越しに爽やかな朝日が差し込んで、きらきらと輝く柱を作り出す。清々しいまでの完璧な目覚めに、林田は思わず笑みが溢れた。風が葉を揺らす影が窓の向こうに見えて、チュンチュンと小鳥の可愛らしいさえずりが聞こえてきそうだ。
「痛っ・・」
気分良く寝返りを打ち、現実に引き戻される。ゲホッゲホッと隣で眠る男が激しく咳き込み、林田はゆっくり身体を起こした。
その背を優しくさすり、ポンポンと叩く。男は落ち着くと、また寝息を立てる。自らも重く痛む腰に手をやり、またベッドに身体を沈めた。まだ下腹部に違和感を感じる。自分の中に入っていた男の存在を身体は生々しく覚えているようだった。
林田はぼんやりと鬼崎との会話を思い出す。なし崩し的に抱かれてしまったが、結局何も解決していない。一つ考え出すと、次から次に不安が湧いてくる。ここまでやって拒絶されたらもうお手上げだ。
「腰痛すぎて今日は自転車乗れないなぁ」
枕に顔を埋めて呟く。
「・・・今日何曜日だっけ」
しばらく考え込むが答えは出ない。
「仕事だったらまずいよな」
林田は背中を丸め横たわる男の身体を揺さぶった。
「鬼崎さん起きて、朝だよ」
「んっ・・ううん」
起き抜けの色っぽい声に、「なんかちょっと可愛いじゃん」と頬がぼわっと火照った。昨晩あんなにしたのに下半身がムズムズしてくる。
「ゴホッ・・ゴホッ・・おはよう蓮太郎」
おっと、そんな事を思ってる場合では無かった。鬼崎が苦しそうに、林田の方へ身体を向ける。酷い声、額に手を当てると、手のひらに異常な熱さを感じた。体調が悪化している。
「起こしてごめんなさい」
「いや、いいんだ。起こしてくれてありがとう」
鬼崎はベッドから立ち上がろうとして、よろけて頭を押さえた。林田は慌てて脇を支える。
「今日はさすがに休んだ方がいいよ、寝てて下さい」
不満げな顔を見せるも、鬼崎は大人しくベッドに腰掛けた。少し立ち上がっただけだが、額に汗が滲み、顔が真っ青だ。相当具合が悪いのだと伺える。
「そうだ、今日って何曜日?俺も最近倒れたばっかりだから日にちがあやふやなんだよね」
「金曜日だよ」
そう言い、鬼崎は力無く微笑んだ。
林田は「ありがとう」と風邪で弱っている可哀想な男の手を握った。何だか今日は色々としてあげたい気分になる。困惑する視線を無視して、チュッと頬にキスを落とした。
「鬼崎さん、俺は大学行って来るけど、何かあったらすぐ連絡してね。そのままバイトに行くから帰りは朝方になる・・・待ってないで、あったかくして寝てなきゃダメだよ」
子供に言い聞かせるような言い方をした。鬼崎は下を向き、肩を震わせる。怒らせてしまったかと、焦って謝った。
「怒ってないよ、ありがとう蓮太郎」
優しい眼差しを向けられて、林田はとろんとした目でじっと見つめた。久しぶりに、アレをして欲しい。
察しの良い男は一度首を傾げ、手のひらを林田の前に差し出した。
「これかな?」
林田は尻尾を振るように高らかに吠えた。
「ふふ、蓮太郎お手」
右手を軽く握って手のひらに乗せる。
「お代わり」
今度は左手を手のひらに乗せる。
「お利口さんだね、よしよし」
頭を撫でられるのは何週間ぶりだろうか、林田は心地よくて目を閉じた。このまま一日中、一緒に居たいと思ってしまう。
「さあ、行っておいで」
その声に林田はしぶしぶ立ち上がる。部屋を出る手前で「蓮太郎」と男の声がした。
「明日は休みだろう?バイトに行くまでの時間、俺のために開けてくれるかい?話したい事があるんだ」
ベッドの上の男は真っ直ぐに林田を見ていた。何だろう・・・と胸が騒めく。怪訝な表情を読み取ったのか、鬼崎はにこりと笑った。
「出て行けって話じゃないから、心配しなくて大丈夫だよ」
それ以外に何があるんだ?
改まって話すなんて余程のことだ、林田はおずおずと頷いた。
帰路に着いたのは朝方六時、重い瞼を擦りながら首輪を嵌める。玄関まで何やら良い匂いが漂っていた。その香りにつられ、リビングのドアを開ける。
「おかえり蓮太郎」
鬼崎の掠れた声がキッチンから聞こえた。まだ本調子じゃ無さそうな声、病み上がりなのに起きて平気なのかと様子を見に行と、フライパンに生地を流し込んでいるところだった。顔色は随分と良くなったように見える。
「朝から甘いのは好きじゃないかな?」
問いかけられて、首を横に振った。
「良かった、蓮太郎は座ってて」
林田はソワソワと、座ったり立ったりを繰り返した。靴を脱いだときは眠かったのに、男の顔を見たら眠気はどこかに消え去ってしまった。甘い香りとコーヒーの芳ばしい香りが湯気に乗ってテーブルに運ばれて来て、キッチンをチラリと覗く。楽しげな男の手元が視界に入り、「うわぁ」と感嘆の声を上げた。
女子受けの良さそうな、丸くふわふわのパンケーキが三層に重なり、生クリームとチョコソースで洒落たデコレーションがしてある。割と甘党なのは知ってたけど、ここまでとは思わなかった。
まじまじと眺めているうちに、ある事に気付き「あれ?」とつぶやく。この飾りつけ、どこかで見覚えがある。
林田はスマートフォンの写真フォルダをスクロールする。一ヶ月前くらいまで遡り、探していた写真を見つけた。
「鬼崎さんって何者なの?」
思わず口を付いて出た。知らなかった男の一面がまた一つ浮かび上がる。林田は心臓を高鳴らせて、男を見上げた。
「痛っ・・」
気分良く寝返りを打ち、現実に引き戻される。ゲホッゲホッと隣で眠る男が激しく咳き込み、林田はゆっくり身体を起こした。
その背を優しくさすり、ポンポンと叩く。男は落ち着くと、また寝息を立てる。自らも重く痛む腰に手をやり、またベッドに身体を沈めた。まだ下腹部に違和感を感じる。自分の中に入っていた男の存在を身体は生々しく覚えているようだった。
林田はぼんやりと鬼崎との会話を思い出す。なし崩し的に抱かれてしまったが、結局何も解決していない。一つ考え出すと、次から次に不安が湧いてくる。ここまでやって拒絶されたらもうお手上げだ。
「腰痛すぎて今日は自転車乗れないなぁ」
枕に顔を埋めて呟く。
「・・・今日何曜日だっけ」
しばらく考え込むが答えは出ない。
「仕事だったらまずいよな」
林田は背中を丸め横たわる男の身体を揺さぶった。
「鬼崎さん起きて、朝だよ」
「んっ・・ううん」
起き抜けの色っぽい声に、「なんかちょっと可愛いじゃん」と頬がぼわっと火照った。昨晩あんなにしたのに下半身がムズムズしてくる。
「ゴホッ・・ゴホッ・・おはよう蓮太郎」
おっと、そんな事を思ってる場合では無かった。鬼崎が苦しそうに、林田の方へ身体を向ける。酷い声、額に手を当てると、手のひらに異常な熱さを感じた。体調が悪化している。
「起こしてごめんなさい」
「いや、いいんだ。起こしてくれてありがとう」
鬼崎はベッドから立ち上がろうとして、よろけて頭を押さえた。林田は慌てて脇を支える。
「今日はさすがに休んだ方がいいよ、寝てて下さい」
不満げな顔を見せるも、鬼崎は大人しくベッドに腰掛けた。少し立ち上がっただけだが、額に汗が滲み、顔が真っ青だ。相当具合が悪いのだと伺える。
「そうだ、今日って何曜日?俺も最近倒れたばっかりだから日にちがあやふやなんだよね」
「金曜日だよ」
そう言い、鬼崎は力無く微笑んだ。
林田は「ありがとう」と風邪で弱っている可哀想な男の手を握った。何だか今日は色々としてあげたい気分になる。困惑する視線を無視して、チュッと頬にキスを落とした。
「鬼崎さん、俺は大学行って来るけど、何かあったらすぐ連絡してね。そのままバイトに行くから帰りは朝方になる・・・待ってないで、あったかくして寝てなきゃダメだよ」
子供に言い聞かせるような言い方をした。鬼崎は下を向き、肩を震わせる。怒らせてしまったかと、焦って謝った。
「怒ってないよ、ありがとう蓮太郎」
優しい眼差しを向けられて、林田はとろんとした目でじっと見つめた。久しぶりに、アレをして欲しい。
察しの良い男は一度首を傾げ、手のひらを林田の前に差し出した。
「これかな?」
林田は尻尾を振るように高らかに吠えた。
「ふふ、蓮太郎お手」
右手を軽く握って手のひらに乗せる。
「お代わり」
今度は左手を手のひらに乗せる。
「お利口さんだね、よしよし」
頭を撫でられるのは何週間ぶりだろうか、林田は心地よくて目を閉じた。このまま一日中、一緒に居たいと思ってしまう。
「さあ、行っておいで」
その声に林田はしぶしぶ立ち上がる。部屋を出る手前で「蓮太郎」と男の声がした。
「明日は休みだろう?バイトに行くまでの時間、俺のために開けてくれるかい?話したい事があるんだ」
ベッドの上の男は真っ直ぐに林田を見ていた。何だろう・・・と胸が騒めく。怪訝な表情を読み取ったのか、鬼崎はにこりと笑った。
「出て行けって話じゃないから、心配しなくて大丈夫だよ」
それ以外に何があるんだ?
改まって話すなんて余程のことだ、林田はおずおずと頷いた。
帰路に着いたのは朝方六時、重い瞼を擦りながら首輪を嵌める。玄関まで何やら良い匂いが漂っていた。その香りにつられ、リビングのドアを開ける。
「おかえり蓮太郎」
鬼崎の掠れた声がキッチンから聞こえた。まだ本調子じゃ無さそうな声、病み上がりなのに起きて平気なのかと様子を見に行と、フライパンに生地を流し込んでいるところだった。顔色は随分と良くなったように見える。
「朝から甘いのは好きじゃないかな?」
問いかけられて、首を横に振った。
「良かった、蓮太郎は座ってて」
林田はソワソワと、座ったり立ったりを繰り返した。靴を脱いだときは眠かったのに、男の顔を見たら眠気はどこかに消え去ってしまった。甘い香りとコーヒーの芳ばしい香りが湯気に乗ってテーブルに運ばれて来て、キッチンをチラリと覗く。楽しげな男の手元が視界に入り、「うわぁ」と感嘆の声を上げた。
女子受けの良さそうな、丸くふわふわのパンケーキが三層に重なり、生クリームとチョコソースで洒落たデコレーションがしてある。割と甘党なのは知ってたけど、ここまでとは思わなかった。
まじまじと眺めているうちに、ある事に気付き「あれ?」とつぶやく。この飾りつけ、どこかで見覚えがある。
林田はスマートフォンの写真フォルダをスクロールする。一ヶ月前くらいまで遡り、探していた写真を見つけた。
「鬼崎さんって何者なの?」
思わず口を付いて出た。知らなかった男の一面がまた一つ浮かび上がる。林田は心臓を高鳴らせて、男を見上げた。
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