雨の日に再会した歳下わんこ若頭と恋に落ちるマゾヒズム

倉藤

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第二章

調査

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 鍛えられたマッチョな体型も、脳天を撃ち抜かれてしまえば役に立たないまま即死だ。
 波瀬は見せしめのように矢戸組の事務所前に放置されていた。
 そばに捨てられていた拳銃はよく使われている種類の型。恐らくは波瀬本人が所持していた拳銃だった。
 本堂は知らせを聞いて若頭保佐の夜見平司よみ へいじに電話をかけた。
 以前は前若頭である竜善清景の補佐に就いていた男だが、本堂が若頭に任命された際に役職継続で鞍替えをした。誰に対しても一線を引いており、賢く、自身にとって有益な立ち位置を正確に理解している。
 本堂が信頼しているのはその点だ。
 さらには個人的に刑事と繋がっているようで使える男だった。

「夜見、調べて欲しいことがある。殺された波瀬さんは新入りの若い子を連れていたかもしれない。彼の行方を探してくれないか」
「調べるのは構いませんが、探し出してどうすれば?」
「何もしないでいい。無事を確認したら報告をくれ」

 夜見は黙り込む。言いたいことは伝わってくる。
 用心深い男なら当然の疑問だ。

「丹野や組に入ったばかりの俺自身に重なって心配なんだ」

 本堂が誤魔化すと、夜見は納得したようだった。
 波瀬が消された今は慎重に動くべきだろう。
 夜見のことを若頭補佐として信頼はしているが、人として信用はしていない。
 電話を切ると探偵事務所からメールが入った。
 こちらは別件。組に隠れて約十年探し続けている伊津向葵に関する定期連絡。
 前回と変わりなく、空振りだったという意味合いが丁寧に記されている。
 長々と綴られたメールを、本堂は溜息と共に消去した。
 前髪をくしゃりとかき混ぜ、頭を動かす。
 今は伊津のことは頭から追い出そう。
 考えるべきは、あの少年。無事でいれば良し。だが波瀬を始末した奴にとって不都合な情報を流した、その報復で追われているか攫われたか。もしくは、少年がクロだった。怯えた様相は演技だった。
 どちらにせよ最悪の展開になる。

「永木ってやつを、探ってみるか」

 本堂の周りは敵だらけだ。
 やるにしても人に任せられない。舎弟が巻き込まれる可能性があった。


 ◇◆


 夜見の報告は一時間後に来た。

「名前は高野誠也たかの せいや。昨夜から行方不明らしいです」

 悪い予感は当たった。
 あとは、果たしてどちらの線か。

「了解だ。いやいい、もう調べなくていい。無駄な仕事を増やして悪かったな」

 本堂は調査を切り上げさせて電話を切った。
 煙草を一本吸って事務所に戻ると、丁度いい顔がいた。

「丹野、ちょっとバイク出せ」

 別の組員と組員が指している将棋を見学していた丹野は、目を輝かせて顔を上げる。

「若頭! もちろんっす」
「ありがとうな」

 丹野のバイクの後ろに乗せてもらい、本堂はある場所に向かった。
 目的地の前で本堂は丹野に耳打ちをした。

「十分程度で戻るから、お前は外で待っていろ」
「了解っす」

 本堂は丹野をガードレールに待機させ、自分は階段を降りた。
 地下一階に店を構えるBARの店主は情報屋だ。
 金で情報を売っている。

「いらっしゃい、本堂の坊主」
「その呼び方やめて下さい」
「親しみ込めてんだよ」
「あの時だってもう大人でしたよ」

 本堂がBARに来たのは、竜善組長に連れてこられたのが最初だった。
 若頭に襲名される前のことだったが、特別に目をかけてもらっていた。
 あの頃は野心の塊で、本堂自身も組長に気に入られるために必死になっていた。

「で、今日はどうした?」
「永木という竜善組の男を探して貰いたい」
「永木? 竜善組の男なら、自分とこの舎弟に調べさせればいいんじゃないか」
「そうしたくないから頼んでいるんですよ。それともこの件も受付不可か?」
「伊津向葵の件は勘弁してよ。丈太郎さんには弱みを握られちゃってるからね」

 店主はすでに磨いてあるグラスを、意味もなく磨き続ける。

「ヤバそうだと思ったらそこまででいい。情報が得られなくても報酬は払います」

 組の一構成員と異なり、常に第三者的な立場である情報屋はいきなりは殺されにくい。始末される前に、最初は警告があるはずだ。
 情報屋の彼がどこまで踏み込めるかを知りたかった。

「わかったよ。けど受ける条件は報酬の前払いだ」
「ああ、構わない」

 本堂はあらかじめ用意してあった札束をカウンターに置く。

「頼みましたよ」
「確かに」

 万札を数える店主を確認してから、本堂はBARを出た。
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