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第二章
本堂八雲の狙い
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本堂八雲は伊津を見送った後、暇を持て余して溜息をついた。
外出前の伊津から違和感を感じることはなかった。本堂といえど伊津の心の中を覗くのは不可能である。
丹野の名前を出されたのは予想外だったが、バレていたことは承知している。気付くよう仕掛けたのは本堂だ。目立つ丹野をうろちょろさせていたのには、本堂なりの考えがあっての行動なのだ。
元組員の伊津は一般人に比べてヤのつく人間に対して鼻が効く。
下手に頭の回るやつを配置するより、裏表のない丹野を使う方が得策だと言え、その点で伊津に気に入られている。駆け引きが苦手なぶん、信用も出来た。
上手くやったと思う一方で、本堂の胸にはジェラシーが湧く。今でもかなり抑えているのだ。長年抱き続けている想いが爆発すれば若頭として晒したくない醜態を見せることになるだろう。しかし丹野の人懐こさは折り紙付き。未だに壁を作られている本堂は思い詰めてしまう。
丹野に連絡をしておくか。報告を聞き、場合によっては自分もこっそり伊津のボディガードに加わろうか。
プライベートな用事に表立ってついて行くのは厚かましいし、伊津の目の前で自由に外出できる状況じゃないのが辛い。
本堂が脳内で作戦を講じている最中、玄関で呼び鈴が鳴った。
伊津が留守中に来客。命を狙われて匿われている居候の身ならやり過ごすのが正解だが、本堂は玄関に出た。
命を狙われたのは一瞬、あの日は油断してしまった。
「どちらさんですか? あいにく家の主人は留守で」
本堂は言いながら玄関の戸を開け、神妙な顔つきの谷渕と出くわす。
「谷渕さんどうも、今は伊津さんは出かけていていないですよ」
「そうか、んじゃ勝手に上がらせてもらう」
我が家であるかのごとく当たり前に靴を脱ぐ谷渕を黙って通し、本堂も続いて居間に戻った。
谷渕はコタツに座らずに、壁に背を向けて立っている。
顔色が良くない。考え込んでいるようで、見慣れているはずの家具上の雑貨類を眺めている。
「ちょうどいいや」
谷渕は喋り始める。
「向葵に伝える前に本堂くんに確認しようと思ってたんだよね」
「・・・・・・何でしょう?」
慎重に問いかけた。しかし視線は、谷渕の腰に据えてあった。わずかに肘を曲げた不自然なポーズ。本堂の目は彼の手がズボンの尻ポケットに潜り込もうとしているのを確認した。
本堂は俊敏に対応する。大胆に近寄り、谷渕の腕を掴んだ。
「谷渕さん」
手を持ち上げさせると、医療用のメスが握られていた。ハンカチに包んで忍ばせてきたらしい。
「お喋りをするのに、これは必要ないですよね?」
「っ、う、本堂くん・・・・・・っ、すまなかったよ痛い」
本堂はメスを奪ってから、谷渕の手首を放す。
「俺を脅すつもりだったんですか?」
「護身のためだよ。っつーか、何だよ本堂くん、きちんと歳上に敬語が使えるじゃん。向葵ちゃんには馴れ馴れしい口調なのに」
「それは・・・、伊津さんの反応が可愛いから。それに、威厳とか色々・・・・・・こっちの方が、若頭だし」
「はっ、ははは、急にしどろもどろ」
谷渕は参ったと白旗を掲げて笑った。
「しかし訳がわからなくなった」
お手上げなのは素手で負かされたのもあるが、別の案件があったのだ。
「うん? 何があったのか話してください」
本堂が問うと、警戒を解いた谷渕はコタツに腰を下ろし、おどけたような笑みを見せる。
「本堂くんのとこの組長さんって、死にそうって嘘でしょ。後継者争いで本堂くんが狙われてるわりには敵さん方が静かだ」
本堂は息を呑んだ。
「向葵ちゃんを見張ってるのは本堂くんの子飼いでしょ。それで怪しいと思って別ルートで調べてみたら、ピンピンしてるって聞かされたからおじさんびっくり仰天だよ。誤報だった、って感じではなさそうだしな?」
外出前の伊津から違和感を感じることはなかった。本堂といえど伊津の心の中を覗くのは不可能である。
丹野の名前を出されたのは予想外だったが、バレていたことは承知している。気付くよう仕掛けたのは本堂だ。目立つ丹野をうろちょろさせていたのには、本堂なりの考えがあっての行動なのだ。
元組員の伊津は一般人に比べてヤのつく人間に対して鼻が効く。
下手に頭の回るやつを配置するより、裏表のない丹野を使う方が得策だと言え、その点で伊津に気に入られている。駆け引きが苦手なぶん、信用も出来た。
上手くやったと思う一方で、本堂の胸にはジェラシーが湧く。今でもかなり抑えているのだ。長年抱き続けている想いが爆発すれば若頭として晒したくない醜態を見せることになるだろう。しかし丹野の人懐こさは折り紙付き。未だに壁を作られている本堂は思い詰めてしまう。
丹野に連絡をしておくか。報告を聞き、場合によっては自分もこっそり伊津のボディガードに加わろうか。
プライベートな用事に表立ってついて行くのは厚かましいし、伊津の目の前で自由に外出できる状況じゃないのが辛い。
本堂が脳内で作戦を講じている最中、玄関で呼び鈴が鳴った。
伊津が留守中に来客。命を狙われて匿われている居候の身ならやり過ごすのが正解だが、本堂は玄関に出た。
命を狙われたのは一瞬、あの日は油断してしまった。
「どちらさんですか? あいにく家の主人は留守で」
本堂は言いながら玄関の戸を開け、神妙な顔つきの谷渕と出くわす。
「谷渕さんどうも、今は伊津さんは出かけていていないですよ」
「そうか、んじゃ勝手に上がらせてもらう」
我が家であるかのごとく当たり前に靴を脱ぐ谷渕を黙って通し、本堂も続いて居間に戻った。
谷渕はコタツに座らずに、壁に背を向けて立っている。
顔色が良くない。考え込んでいるようで、見慣れているはずの家具上の雑貨類を眺めている。
「ちょうどいいや」
谷渕は喋り始める。
「向葵に伝える前に本堂くんに確認しようと思ってたんだよね」
「・・・・・・何でしょう?」
慎重に問いかけた。しかし視線は、谷渕の腰に据えてあった。わずかに肘を曲げた不自然なポーズ。本堂の目は彼の手がズボンの尻ポケットに潜り込もうとしているのを確認した。
本堂は俊敏に対応する。大胆に近寄り、谷渕の腕を掴んだ。
「谷渕さん」
手を持ち上げさせると、医療用のメスが握られていた。ハンカチに包んで忍ばせてきたらしい。
「お喋りをするのに、これは必要ないですよね?」
「っ、う、本堂くん・・・・・・っ、すまなかったよ痛い」
本堂はメスを奪ってから、谷渕の手首を放す。
「俺を脅すつもりだったんですか?」
「護身のためだよ。っつーか、何だよ本堂くん、きちんと歳上に敬語が使えるじゃん。向葵ちゃんには馴れ馴れしい口調なのに」
「それは・・・、伊津さんの反応が可愛いから。それに、威厳とか色々・・・・・・こっちの方が、若頭だし」
「はっ、ははは、急にしどろもどろ」
谷渕は参ったと白旗を掲げて笑った。
「しかし訳がわからなくなった」
お手上げなのは素手で負かされたのもあるが、別の案件があったのだ。
「うん? 何があったのか話してください」
本堂が問うと、警戒を解いた谷渕はコタツに腰を下ろし、おどけたような笑みを見せる。
「本堂くんのとこの組長さんって、死にそうって嘘でしょ。後継者争いで本堂くんが狙われてるわりには敵さん方が静かだ」
本堂は息を呑んだ。
「向葵ちゃんを見張ってるのは本堂くんの子飼いでしょ。それで怪しいと思って別ルートで調べてみたら、ピンピンしてるって聞かされたからおじさんびっくり仰天だよ。誤報だった、って感じではなさそうだしな?」
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