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守るために

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 しばらく二人は離れがたく、沈黙したまま身を寄せ合った。
 不意にドアが叩かれる。
 成彦がドミニクだろうかと首を傾げると、やむなくエリオットが返答した。

「なんだ。後にしてくれないか」
「急ぎお伝えすべきことかと。満義様から電報が届きました」

 報告を聞き、エリオットが蹴りやぶる勢いでドアを開ける。

「こちらに」
「ああ、すまん」

 電報に目を通すと、声を失って瞠目する。

「・・・・・・エリオット様?」

 中身が気になり、成彦が訊ねかけると思いだしたようにかぶりを振った。それから再び、電報に目を落とす。

「なんてことだ。やられたな」

 エリオットの呟きにドミニクが「ええ」と頷いた。

「さすが、双子の弟だというべきか。成彦とよく似ている。外見だけでなく、現実に抗おうとするところも、転んでもただで起きないようなところも。そして困ったことに成彦より大胆だった」

 成彦はごくりと喉を上下させる。

「弟がどうしたのでしょうか」
「君の弟は満義氏に味方すると決めたようだ。ひと足遅かった」
「よくわからないのですが・・・?」
「つまり私たちは切り札を失ったのだ。譲の身代わり仕立てて、内密に入れ替えてしまおうと計画していたわけだが、その身代わりに成彦の弟が自ら手を挙げてくれたらしい。瓜二つの弟を手に入れたのだから、満義氏が成彦にこだわる理由はなくなった。私共々、法を破った罪人として政府に処分させるつもりなのだろう」

「弟も脅されてやむを得なかったのかもしれません」

 成彦はどうしようもなく頭を抱える。

「わからないぞ」

 エリオットの溜息に、不安に駆られた。

「なぜ違うと思うのですか?」
「箱入りの成彦の世界からは隠されていることだが、華族の名前に守られていないオメガの扱いはさらに人間以下さ。運命の番の両親から生まれたのなら尚さらだ、戸籍に登録されない。学校にも通えず、日の当たる場所で生きることが叶わない人生、これまでずっと過酷な汚泥の中で暮らしを余儀なくされていたのだとしたら」

 成彦にもエリオットの言わんとしていることが見えてくる。
 理解が及ばなかった自分がやるせなくて唇を噛んだ。

「公爵家に嫁ぐことが決まった子爵家の養子になれるなら、喜んで自分を差し出す。苦しくひもじい暮らしが一気に塗り替えられるのだからね。人生を一発逆転させるチャンスでもある」

 では打つ手なしか。双子の弟が望んで成彦の替わりを務めるのなら何も言えない。突ける弱みになればと思ったが。
 成彦はだらりと腕を弛緩させ、エリオットの胸に頭を預けてみた。

「エリオット様、良い方に考えてみませんか?」
「良い方?」
「僕らは用済みになったのだから、誠意を込めてお願いすれば、父は許して逃してくれるかもしれない。一度は母を運命の番のところに行かせたんですから、父も根っから悪い人ではないんです」

 これは完全な強がりだ。でもこうするしかエリオットが助かる方法はないのだ。

「父のもとへは僕一人で行ってきます」
「成彦!」
「わかってます。エリオット様とお別れをするわけじゃないです。でもエリオット様が行くのは危険。父を刺激してしまう可能性もあります。僕が話をつけてくるまで隠れていてください」

 言い終えるとすぐにエリオットが腰に手を当てて反論しようとする。
 それを止めたのはあろうことかドミニクだった。

「私も成彦様に従うのがよろしいかと」
「ドミニクは黙っていろ」

 エリオットは低い声で命じる。

「いいえ、できません。貴方をお守りせよと一族より仰せつかっておりますので、いざとなれば無理やり船に乗せる所存でございます」
「僕も、ドミニクさんの言うとおりだと思う」

 ドミニクの援護は想定外だが、成彦だけで説得するのは難しかったので助かった。ドミニクは十分に身分を弁えている腰の低い性格だが、いるからこそ、エリオットが納得するまで梃子でも動かないと構える。
 二人の信頼関係や力関係は成彦に計れることではなく、エリオットの反応は未知数だ。けれど、頑固なドミニクの姿勢を見て、エリオットは根負けしたようにベッドに腰掛け足を組む。
 ただし豪快に舌打ちをした。

「ドミニクが成彦について行け。どうせ移動手段が必要だろう。屋敷内にまで入らなくても良いが、外で待機しろ。少しでも異変があれば報告を」
「御意に」

 成彦はホッと胸を撫で下ろす。
 本番の闘いはここからだが、最終的に出た結論は成彦の望んだ形に収まった。
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