英国からやってきた運命の番に愛され導かれてΩは幸せになる

倉藤

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運命の匂い1

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 エリオットはイギリスで侯爵位を与えられているサテンスキー家の嫡男で、彼の父が経営する貿易会社オリバー商会の御曹司だ。
 日本の小さな子爵家の会社と比べるべくもないが、とんでもなく高貴なお方である。

「まるで違う世界の人だ・・・・・・」

 そんな人が何故、十松家に。
 父の経営手腕が相当巧みなのか、何か別の思惑があるのか、しかし会社の事情は成彦の知らぬところ。
 それよりも、一向に止まらない動悸はどうすれば良いだろう。ゾクゾクと疼くのが胸のうちではなく、身体の奥底のよからぬ場所のような気がして、落ち着かない気分に陥いる。

 ———嫌だ。なんだか、怖い。恐ろしい。

 成彦は強烈なエリオットの魅力に惹きつけられながらも、本能的に怖気を感じていた。
 商談を終える時刻に常田が呼びに来てくれるはずだから、その時までは自室で楽にしていなさいと指示されている。
 きっと蒼白な自分の顔を見られていた。
 薬をたくさん飲んだのに、この異様な症状はヒートのせい?
 成彦は不安に思い、汗が滴る頬を拭った。
 そして横になっているうちに眠ってしまったのか、昼の腹の虫が鳴り目が覚めた。
 サッと青ざめて飛び起き使用人に尋ねたが、商談に使っている部屋のドアは一度も開いていないという。ほっとしたのも束の間、今は何時ですかと訊ねると、短い針はとっくに十二を過ぎ三の位置を差していた。
 泥のように眠ってしまったのは抑制薬の副作用のせい。不可抗力だとしても情けない。
 成彦が商談部屋まで行くと、内側からドアが開く。

「ああ、坊ちゃま。ちょうど呼びに参ろうかと思っておりました」
「常田、あっ」

 使用人頭の肩越しにエリオットの聡明な顔が見え、成彦は咄嗟に髪の毛を撫でつけた。

「旦那様、成彦様がお見えになっています」

 常田は身体をずらし、部屋の中へ成彦を通した。エリオットとちらりと目が合ったものの、席を立った満善に視界が遮られる。

「これからエリオット殿を連れて食事に行く。お前も来なさい」
「はい」

 その陰で再び秀彦が難しい顔をした。
 満善とエリオットが通訳を伴って先に部屋を出て、秀彦は弟の耳元で声を潜める。

「成彦、ちょっといいか」
「どうしたの兄さん? すぐに行かないと」
「わかってる。一分で終わる」
「なに?」

 首を傾げると、秀彦は辛辣な表情を浮かべる。

「何があっても逆らうな。これはお前のための助言だからな」
「逆らうなって・・・誰に? 何に?」
「いいから、俺は忠告したぞ」

 全く訳が理解できないが、話は終わりだと言わんばかりに背を向けられてしまった。

「ほら行くぞ」
「う、うん」

 すたすたと歩いて行ってしまう兄を、慌てて追いかける。
 門には、とうに迎えの馬車が待機していた。兄の忠告が耳に残る。成彦は乗り込む前にふと思い立ち、自分の部屋から抑制薬の瓶を持ってくるよう常田に頼んだ。

「しかし坊ちゃま、すでにお飲みになっているのでは?」

 医師ではないものの、使用人業務の一環として医学に精通している常田は、副作用の強さをよく理解している。

「うん、でもお願い。絶対失敗できないから」
「承知しました・・・。ですが、ご無理をなさらないように」
「わかってるよ」
「では只今持ってまいります。二台目の馬車の中でお待ち下さい」
「ありがとう」

 狭い密室になることを懸念されてだろう、成彦用に馬車は別に用意されていた。
 乗り込んで待っていると、常田に指示された使用人が薬を手渡してくれ、手早く数粒を手のひらに出して飲むこむ。
 薬を元の場所に戻しておくように頼むと、使用人は頷き、扉が閉められた。
 恐らくエリオットが乗ったであろう馬車から幾分か遅れて、成彦の馬車が動く。向かった先は花街だった。
 男で、外国から来たお客を愉しませるならまず間違いない。
 前を走る馬車と距離を取って時間差で到着し、降りると最高格のお座敷に案内された。
 下女に襖を開けるよう言い、成彦は微笑みを貼り付けた。
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