【中華BL】明天《めいてん》の恋文〜ぼくはもう一度『旦那さま』に恋をする

倉藤

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第4章 ユリン編・弐

54 師弟の作戦①

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 調子に乗っていた。安易にダオに近づきすぎたのは、愚かな行為だった。その場で捕らえられずに逃げ帰れただけでも、御の字ではあった・・・・・・のだが。
 愴然そうぜんとする感情が抜けない。ぼんやりしたまま王宮の甲の殿こうのでんに帰宅していたユリンは、弟子であるシャオルに普段どおり迎えられた。

「よう! おかえりユリン! って大丈夫かよ、すげぇ顔だぜ?」
「・・・・・・最悪なことになった。ダオと、リュウホンに俺のことがバレてしまった」

 ユリンがぐしゃりと顔を歪めると、シャオルは眉根を寄せて難しい表情を作り、首を傾げる。

「おいっ、それで死んだみてぇな面なのか?」

 なにも理解していない顔。見た感じ、彼はユリンほどに衝撃を受けていない。あの場の会話の内容を話してきかせても同じ顔をするだろうと、ユリンにはわかっていた。
(シャオルはダオの眼に起こった悲劇を知らない・・・・・・)
 ユリンがシャオルの人生のすべてを把握していないように、シャオルもユリンの生き様を知る由もない。もちろん修行に必要なことは、惜しげなく伝えているつもりだけれど、そうでないところは意識して教えていないのだ。
 無意識のうちにダオを慕っているシャオルが、なにを思うか・・・・・・、想像するたびに頭が痛い気分だった。

「ま、さ、か、ぜんぶ投げて終わりにするなんて言わないよな? ダオを見捨てて田舎の村に帰るなんて言ったら、ぶん殴るぞっっ」

 小さなダオの親衛隊長は腑抜けたユリンを一喝する。

「俺たちのやってきたことはどうなる? 無駄になるのかよ・・・・・・」

 勢いよく口を開いたものの、しおしおと声がか細くなっていく。ユリンはかわいそうに項垂れたシャオルを見て、落ち込んでいられないと気を取り直した。

「無駄にはならない、させない」

 シャオルの頭を撫でると、未だに疑わしそうな目線を上げてくるが、「信じろ」とうなずいてやれば、シャオルは調子を取り戻した。
 
「ランライのおっさん、今日は後援者が増えそうだって喜んでたぜ。ま、半分はあんたに化けて上手くやってる俺のおかげだけどなっ!」

 そう言い胸を張って、にししっと笑う。

「ああ、シャオルには感謝してる。これからもよろしく頼む」
「任せろ! でも明日からどう動けばいいんだよ。バレちまったのなら、もうリュウホンの屋敷には行けないんじゃねぇの?」
「そうなってしまうな。・・・・・・うん、今後の動きは起きたら考えるよ。悪いが少し休ませてくれ」

 ユリンは弱々しく微笑み、寝台がある奥の間に向かう。倒れるように寝転んだときには、魔導力の使い過ぎで目が霞んでいた。
(ダオ・・・・・・)
 微睡みながら目を閉じていても、ユリンの瞼の裏では、恐怖するダオの姿が焼きついて離れなかった。


 ◇


 甲の殿の厩舎きゅうしゃで思いがけない出逢いを果たしたユリンとシャオルは、リュウホンの魔の手からダオを救いだすという共通の目的をもって師弟となった。
 導術師の才にあふれたシャオルはありがたい助っ人。
 まじない術のなかでも、とくに自己流で取得した変化へんげの術に関しては、磨けば磨くほど使い勝手のよい優秀な武器になる。ランライの目を盗んでシャオルを部屋に匿い、共に修行を重ね、彼のまじない術はみるみる上達した。
 そして、年越しを終えたあの日。王宮で雪花見の会が開催された真冬の晴れた日に、ユリンとシャオルは行動を開始した。
 大々的な宴にリュウホンが伴侶となる男を同行させる予定だと聞いたのは、当日の数日前で、ようやくという形で計画は遂行されようとしていた。
 心もちで言えば、じゅうぶんに時間はあったのだが、そちらの方は久しぶりにダオを目にできるとあって、そわそわとしたまま落ち着けなかった。
 計画は念密に密やかに、数ヶ月間かけて練り上げたもの。
 ユリンは探索隊のねずみと、シャオルの証言により、リュウホンの屋敷の場所を割り出していた。屋敷と言いつつも、そこは宿。かつてランライに連れられて物の怪祓いに立ち寄った『銀餡亭』だった。
 最初からきな臭いとは思っていたが、ねずみの調査は王都全体に行き渡っており、奇跡か偶然か、あの一匹が迷い込めていなければ判明しなかったことだろう。
 銀餡亭を包む巨大な目くらまし術のせいで敷地内は出口のない迷路のようになっている。案内用の馬車のみが目的の屋敷にたどり着けるため、屋敷への侵入はほぼ不可能と言える。
 ではなぜ、シャオルとねずみは入り込めたのか。
 答えは簡単だった。
 このような術は基本的に人間にしか作用しないのだ。物の怪も元は人間であるのでこれに含まれる。
 抜群に再現されたシャオルの鳩と、紛れもなく動物であるねずみ。彼らの目には目くらまし術が効かず、好き勝手に動き回ることができた。
 さらに、人間の場合にはもうひとつ、目的の屋敷を発見するための条件が必要らしい。
 鍵になるのは、———そこに在ると知っていること。
 そこにリュウホンの屋敷が存在すると明確に念じることで、導かれるように屋敷が現れるのだそうだ。
 しかしながら、別の対策を用いて侵入者を排除しているだろうリュウホンの屋敷の内部にまで入り込めたのはやはり奇跡的。
 よくできた仕掛けであり、そこで問題ができた。ユリンが頭を悩ませたのは、おそらく動物への変化で侵入ができるのはシャオルくらいなものだということ。
 シャオルの変化の術は、まことに並外れていたのだった。
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