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第3章 ダオ編・弐
48 ふたたびの地獄——訪問客③
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「ダオ、出てきなさい」
まるで檻から出される動物のようです。リュウホンさまのやけに優しい声色で、ひとりではないのだとわかりました。
「どうだ。お主の見解を話してみよ」
扉をくぐってすぐの場所にぼくを立たせ、リュウホンさまは肩に手を置きます。昼餉の盆を回収しにきた侍女に、念入りに髪の毛を解かされたことが腑に落ちました。
ぼくは観察されている。
「ふむ、これはいけない。まちがいなく、この青年が原因でしょう」
「・・・・・・っ、くしゅっ」
「おや、季節の病かもしれませんな。今夜はしっかり養生させてやることです」
ぼくは口を押さえたまま動けませんでした。
声を上げてしまいそうになり、くしゃみをして誤魔化したのです。危機一髪。危なかった。
威厳たっぷりに堅物そうな物言いをしたのは、忘れもしない、天井の通気口から聴こえた声だった。たった一言、名前を呼ばれただけだったのに同一だと気がついたのは、雪花見の会場で聴いた声とも一致しているという裏づけがあったためです。
そして頭のなかのその回路は、今この一瞬にびびっと繋がったのでした。
王宮で出逢ったひとがリュウホンさまと共にいることに疑問点はありませんが、シャオルとはどのような知り合いなのでしょうか。
(じつはシャオルは王宮の住人・・・・・・? いや、でも忍び込むくらいだからちがう)
さまざまな憶測が浮かびます。
このひとに訊いてみたいことがたくさん浮かび、頭のなかで点滅しています。
リュウホンさまは、このひとの指摘に素直にうなずいているようでした。言われたとおりに侍女を呼びつけ、あれこれと指示を出している。
「ダオさま、こちらにどうぞ。お身体を温めるために湯を用意いたします」
「・・・・・・あ、は、い」
ぼくは腕を掴まれて誘導されるがままに場を離れるしかない雰囲気です。もしも監禁部屋に戻れなかったら、せっかく届けてくれた巾着袋を置いていくことになる。
指示を出していた声の方角でリュウホンさまはぼくの背中側にいるのがわかっている。
一か八か、脚を動かす直前に、ぼくはそのひとが居るであろうあたりに顔を向け、声を出さずに「天井」と口を動かしました。
返事の代わりになりそうな動きはありません。気づいてもらえてなければそれまで。逆に、リュウホンさまに怪しまれても終わりです。
「さ、ダオさま」
「はい。今行きます」
ぼくは侍女に連れられて、場をあとにしました。
連れられた先は屋敷内の湯殿。滅多に使わせてもらえないたっぷりの湯に浸かり、温まった身体に上等な衣装をまとう。普段もお手伝いの侍女がついているが、あのひとが助言したのか、倍の数はいそうな予感がしました。
あれよあれよと髪と肌の手入れを施され、囲まれたまま通路を歩きます。戻ってきた場所は、やはり監禁部屋ではなかった。
椅子に案内されると、いつのまに呼びつけたのか、卓子の横に薬の調合師がいました。ぼくは診察を受けて、薬を飲まされ、ぶ厚くてふかふかと寝心地のよい敷布の上に寝かされました。
首まで掛け布団をかけてもらい、ぼくはやっと口を開きます。
「・・・・・・あ、あの、もう大丈夫です。ありがとう。下がってください」
こうでも言わないと、いつまでも落ち着けません。
部屋からひとがいなくなるのを待ち、ぼくは身体を起こす。くしゃみは演技。具合はどこも悪くないのです。
(さて、仕切り直さなきゃ)
知らない部屋に通されてしまったので、家具の位置や部屋の間取りを覚え直さなければいけない。だが立ちあがろうとしたところで、部屋のとびらをトントンと叩く音がしました。
まるで檻から出される動物のようです。リュウホンさまのやけに優しい声色で、ひとりではないのだとわかりました。
「どうだ。お主の見解を話してみよ」
扉をくぐってすぐの場所にぼくを立たせ、リュウホンさまは肩に手を置きます。昼餉の盆を回収しにきた侍女に、念入りに髪の毛を解かされたことが腑に落ちました。
ぼくは観察されている。
「ふむ、これはいけない。まちがいなく、この青年が原因でしょう」
「・・・・・・っ、くしゅっ」
「おや、季節の病かもしれませんな。今夜はしっかり養生させてやることです」
ぼくは口を押さえたまま動けませんでした。
声を上げてしまいそうになり、くしゃみをして誤魔化したのです。危機一髪。危なかった。
威厳たっぷりに堅物そうな物言いをしたのは、忘れもしない、天井の通気口から聴こえた声だった。たった一言、名前を呼ばれただけだったのに同一だと気がついたのは、雪花見の会場で聴いた声とも一致しているという裏づけがあったためです。
そして頭のなかのその回路は、今この一瞬にびびっと繋がったのでした。
王宮で出逢ったひとがリュウホンさまと共にいることに疑問点はありませんが、シャオルとはどのような知り合いなのでしょうか。
(じつはシャオルは王宮の住人・・・・・・? いや、でも忍び込むくらいだからちがう)
さまざまな憶測が浮かびます。
このひとに訊いてみたいことがたくさん浮かび、頭のなかで点滅しています。
リュウホンさまは、このひとの指摘に素直にうなずいているようでした。言われたとおりに侍女を呼びつけ、あれこれと指示を出している。
「ダオさま、こちらにどうぞ。お身体を温めるために湯を用意いたします」
「・・・・・・あ、は、い」
ぼくは腕を掴まれて誘導されるがままに場を離れるしかない雰囲気です。もしも監禁部屋に戻れなかったら、せっかく届けてくれた巾着袋を置いていくことになる。
指示を出していた声の方角でリュウホンさまはぼくの背中側にいるのがわかっている。
一か八か、脚を動かす直前に、ぼくはそのひとが居るであろうあたりに顔を向け、声を出さずに「天井」と口を動かしました。
返事の代わりになりそうな動きはありません。気づいてもらえてなければそれまで。逆に、リュウホンさまに怪しまれても終わりです。
「さ、ダオさま」
「はい。今行きます」
ぼくは侍女に連れられて、場をあとにしました。
連れられた先は屋敷内の湯殿。滅多に使わせてもらえないたっぷりの湯に浸かり、温まった身体に上等な衣装をまとう。普段もお手伝いの侍女がついているが、あのひとが助言したのか、倍の数はいそうな予感がしました。
あれよあれよと髪と肌の手入れを施され、囲まれたまま通路を歩きます。戻ってきた場所は、やはり監禁部屋ではなかった。
椅子に案内されると、いつのまに呼びつけたのか、卓子の横に薬の調合師がいました。ぼくは診察を受けて、薬を飲まされ、ぶ厚くてふかふかと寝心地のよい敷布の上に寝かされました。
首まで掛け布団をかけてもらい、ぼくはやっと口を開きます。
「・・・・・・あ、あの、もう大丈夫です。ありがとう。下がってください」
こうでも言わないと、いつまでも落ち着けません。
部屋からひとがいなくなるのを待ち、ぼくは身体を起こす。くしゃみは演技。具合はどこも悪くないのです。
(さて、仕切り直さなきゃ)
知らない部屋に通されてしまったので、家具の位置や部屋の間取りを覚え直さなければいけない。だが立ちあがろうとしたところで、部屋のとびらをトントンと叩く音がしました。
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