【中華BL】明天《めいてん》の恋文〜ぼくはもう一度『旦那さま』に恋をする

倉藤

文字の大きさ
上 下
45 / 91
第3章 ダオ編・弐

44 ふたたびの地獄①

しおりを挟む
「おい、起きろ」

 身体を揺さぶられ、朦朧としながらも意識が浮上しました。
(ここはどこ?)
 眠る前のことを思い出します。たしか、馬車に乗っていたはずで・・・・・・。しかし今のぼくは、ひんやりとした場所に転がされています。

「いつまで、ぼけっとしている」
「ごめんなさ・・・・・・」

 聴こえてきたのは、リュウホンさまの声。落ち着いた声色であったのに、どすの効いた声で怒鳴られるよりも凄みがあり、肝が縮みあがった。
 一気に、馬車に乗る以前の記憶が巻き戻される。
 リュウホンさまに連れられてお披露目をされ、お酒を飲んだ、そのもっと前のこと。

「あ・・・・・・、いやだ・・・・・・」

 たまらず、『それ』を拒む言葉がこぼれてきます。

「拒んでよいと教えたか? ダオ」
「・・・・・・ッ」

 恐怖に声もでない。床、部屋の気温、言葉。すべてが氷点下の水のなかで起こっている出来事のようで、ガクガクと身体が震えだしてしまうのは必然でした。

「寒いか。ならちょうどいいな。すぐになる」

 直接床に尻をついているからか、静かな足音の振動が嫌に大きく響いてくる。それとも自分の心臓の音でしょうか。どん、どん、と脳みそが鼓動している。

「は・・・・・・はぁ・・・・・・お止めくださ・・・・・・い」
「何度も言わせないでくれ。ダオ、俺を拒むな。今の俺は虫の居どころが悪い」

 拒んでいるのはリュウホンさまをじゃない。ぼくが死ぬほど恐れているのは身体に呪いを刻む火刑です。あれの痛みと苦しみをまた経験するのは、イヤ。

「勝手を働いたのは、脚だったな」

 拒むなと言われても、脚に触れられ、ぼくは反射的に後ずさりました。(———こんなことをして、きっと、頬を打たれる)
 頬ならまだ、いいほうかもしれません。
 ツンと喉奥が痛み、瞼が熱く濡れてきます。
 やがて背中が壁にぶつかり、逃げ場がなくなりました。

「お許しください・・・・・・」
「そんなに泣くな。俺も鬼ではないぞ。好き好んで愛する妻の悲鳴を聞きたいわけじゃない」

 遊ばれている。逃げ場がなくなるまで追い込んでおいて、信じられない発言でした。

「嘘じゃないぞ」

 リュウホンさまはそう言って、ぼくのおとがいをねちっこく撫でる。

「ほんと・・・・・・ですか?」
「もちろん。お前が俺の言うことを従順にきくならば、火刑はしない。どうする?」

 ずるい。睨んでやりたいけれどできない。悔しい。ぼくには選択肢などありません。

「ききます。なんでも、ききます」
「よろしい、では少し待て」

 ふっと気配が離れていきます。ほんの一瞬だけ、息を吸い込める。

「どうやら、前の部屋にはねずみが入りこむ隙間があったようだ。だからお前のために特別に別室を用意してやった」
「別室・・・・・・」
「ここには俺以外は立ち入れない。声も音も、だれにも届かない。当然、お前にもなにも聴こえない」

 悠揚とした口調でリュウホンさまは喋り、戻ってくる。そして緊張したぼくの胸の梅の花を抜き取ると、耳元にかざし造作もなく折ってしまった。
 パキリとかすかに鳴った音。弱々しい枝葉は、まるでぼく自身。
 ぼくははりつけにされたみたいに動けなくなった。リュウホンさまの息づかいがこめかみの髪を揺らし、耳朶に到達する。

「ダオ、最初の命令だ。衣装ふくを脱げ」
「え」
「ほら、どうした。俺の気が変わってしまうかもしれないぞ? せいぜい下品にいやらしく脱いでみせて俺を満足させるんだな」

 室内であるとはいえ、外気の気温と変わらないてつく寒さ。こんな場所で全裸になったらこごえて死んでしまいそうです。
 衣装の合わせ部分を掴み、尻込みしていると、リュウホンさまがこれ見よがしにため息を吐きました。

「脱ぎたくないのか。ならば」
「待って・・・・・・っ、脱ぎます、脱ぎますからっ」

 小刻みに震える身体はすでに危険信号を鳴らしていました。上下の歯がぶつかり合い、無意識に噛み締めた顎が痛んでいます。
 それでも拒否権はない。
 ぼくは一枚、一枚と、衣装を床に脱いで落とし、リュウホンさまの前に素肌を晒しました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

【完結】断罪を乞う

弥生
BL
「生存戦略! ちゃんと『フツーの子』に擬態するんだ」 いじめられていた少年は、気がつくと生まれ変っていて別の生が始まっていた。 断片的な過去の記憶。辛く悲しい前世の記憶。 次の人生は同じ轍は踏まないぞと、前世の自分とは違う生き方をしようとする。 だが、運悪く入学したのは前世と同じ高校で……。 前世の記憶、失われた遺書、月命日に花を手向ける教師。その先にあるのは……。 テーマ: 「断罪と救済」「贖罪と粛清」 関係性: 元カースト1位でいじめていた 影がある社会科美形教師× 元いじめられていた美術部平凡 生存したい前世記憶あり平凡 ※いじめなどの描写が含まれます。 かなり暗い話ですが、最後に掬い上げるような救済はあります。 ※夏芽玉様主催の現世転生企画に参加させていただきました。 ※性描写は主人公が未成年時にはありません。 表紙はpome様(X@kmt_sr)が描いてくださいました。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...