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第3章 ダオ編・弐

38 王宮の洗礼①

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 季節は冬を通り越し、新年を迎えていた。
 元日のウォン国では、豪華な新年祭が至るところで行われます。鳳凰と麒麟、蝶を模した灯籠とうろう神輿みこしで担ぎ、街中をねり歩く。細くした竹の骨組みに紙を貼って作られた巨大な人形は、王宮の屋根より高く立派で、とてもとても見応えのあるものだそうです。三日三晩、国民は夜も眠らず、いっときの慶福けいふくを祝い楽しみ、次年もそうあれることを祈る。
 とはいえ、これは祭りを楽しみにしている侍女たちのお喋りに付き合わされたから知っているだけ。
 そのときのというと、お祭りの様子も、お神輿も、鳳凰や麒麟の姿形もわからないので、リュウホンさまの言いつけを守り、屋敷のなかで賑やかな音を聴いて過ごしていました。
 笛の音、笑い声。普段とは異なる人々の声に含まれた熱気。その場にいなくても、ぼくは参加している気持ちになれました。恥ずかしげもなく浮かれてしまったのは、晩に出された祝い酒のせいでも、あったかもしれません。

「あー、あ、駄目です。ダオさま、動かないで」
「う・・・・・・うん、ごめんなさい」

 お祭りの余韻がようやく醒めてきた今日こんにち。侍女たちが張り切ってぼくの瞼に化粧を施しています。柔らかい太い筆が瞼全体でくるくると踊り、かすかに濡れた感触がまつ毛の生え際にそって弓を描くように伸びていくのを感じる。

「とっても美しいですよ。リュウホンさまがお喜びになります」

 侍女たちは絶え間なく称賛のため息をこぼしながら、今度は鬼燈ほおずきの実ほどもある化粧筆で忙しなくぼくの頬を叩いた。

「そうかな、だといいです」

 世辞をかえすのは板についてきた。それとも、嫌だと思う感情が薄れてきているのでしょうか。息をするのと同じくらいに、軽々と口が動きます。

「なんてったってダオさまのお披露目の日です。どのお妃さまよりもお綺麗に仕上げないと」
「ふふ、ちがうよ。今日は雪花見ゆきはなみの会でしょ?」
「ですけれど、リュウホンさまとご一緒なさるのは初ですから。同じことですわ」
「・・・・・・そうかもね」

 雪花見の会とは、冬に花見を楽しむ王族貴族ならではの娯楽です。ウォン国内に雪は降らないため、遠い昔のかつての大王さまが真っ白な雪景色に憧れ、冬に咲く種類の白い花を全土から集めて王宮内に植えたのが始まり。
 普段、王宮に呼ばれるのはもっぱら男子のみなのですが、この会は特別。
 後宮で暮らす妃、側室、それから良家の妻たちが招待客の付き添いで出席を許される華やかな園遊会。けれど、主役は花。各人自慢の付き添い人たちのことは、たわむれに花の名前で呼び、男も女も覆面布ベールをつけて顔を見せないのが決まり。王宮の使用人らも女性であれば皆同じく顔を隠します。
 なのでどんなに着飾っても、ぼくがぼくだと気づかれることはなく意味はないのです。
(だからこそ、リュウホンさまはぼくを誘ってくださったのだと思ってるけど。顔が伏せられているなら、ぼくも多少は気が楽)
 昨日に言い渡された会への出席の旨。あらましは聞いたとおり。
 正直、乗り気ではなかった。しかし、リュウホンさまに逆らうつもりもありません。
 ここ最近、落ち着いた日々を送っているというリュウホンさま。
 冬のあいだは戦が起こりません。どの国も、寒い季節を乗り越えることに専念するのです。そのため毎日のように王宮で職務をこなし、この屋敷に帰ってくる。自然と共に過ごす日が増えました。
 ぼくは穏やかに毎日を送りたい。リュウホンさまが心安らかにいてくれるのならば、ぼくの我慢ひとつくらい安いものなのです。

「満開になっているのは梅の花なんだよね。どんなふうに咲いてるんだろう。白ってどんな色なのかな・・・・・・」

 呟きがこぼれます。雪のようだという、白い小さな花を思い浮かべてみました。
  
「さて、出来ましたよ。リュウホンさまをお呼びします」
「・・・・・・ん、ありがとう」

 屋敷の主の機嫌がよいと、侍女たちの声も明るい。侍女たちは思い思いに話しかけてくるけれど、ぼくの欲しい答えをくれるひとは誰もいなかった。
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