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第1章 ダオ編・壱
17 牢獄のなかで①
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今日は、リュウホンさまは来なかった。
何事もなく今日が終わったことに、平和な一日に感謝します。
就寝前の清めと身支度をした侍女の手が震えていたのを、ぼくは申し訳なく思った。
彼女たちの心も疲弊している。終わりの見えない生活に、暗い影が落ちます。
沈んだ気持ちのまま身体を休めていると、窓をコツコツと叩く音がしました。
「シャオル、来てくれたんだ。でも今度から夜は気をつけて、リュウホンさまがいるときもあるから」
ぼくを愛しにと、今はもう言えないけれど。
「大丈夫。しばらくは戦に出かけていて、ここに来られないはずだよ」
窓のさっしからトンと降り立ち、シャオルは明るく答えます。
「どうして、知ってるの?」
「へへ、ちょっとね。調べたんだ」
「ぼくに会いにくるために? ・・・・・・ありがとう。嬉しい」
シャオルの優しさが胸に沁みます。
「あとさ・・・・・・あー、いいや。その前にハイ、これやるよ」
「なに?」
言いかけたことが気になりますが、何かを差し出してくれているようなので、手を伸ばしました。シャオルはぼくの手を導き、手のひらに箸に似た形状の細長いものを握らせます。
「これが筆だよ」
「わあっ、先が柔らかい。フサフサしてる」
指先で撫でると、馬の尻尾がついているみたいだ。
「そこに黒い墨をつけて白い紙に字を書くんだぜ? けど墨を使うにはまだ早いだろ? まずは筆だけで練習したらいいと思って」
「うん、うん、ありがとう」
「おう、へへっ」
気を利かせてくれたシャオルのおかげで鬱蒼としていた心が晴れていく。たまらなくなってぎゅうっと抱きつくと、シャオルが身体を硬くしました。
「・・・・・・なあ、ダオ。手紙を書きたいっていう相手はダオにとってどんなひとだったんだ?」
「それはわからないんだ。大切だったという気持ちだけが留まっていて、身体はどこかに流されてしまったみたい。とっても不思議なことなんだけど」
「故郷のことも?」
「うん」
何度思い返そうとしても同じでした。こぼれ落ちてしまった記憶はもう戻らないのか、完全に消えてしまったのか、蓋をされているだけなら蓋をはずす方法はあるのか・・・・・・。なまじ暇であるため、悩む時間は膨大です。
「フーハン村」
「え?」
「ダオはこの村の名に何か感じる?」
そう言われたので頭で復唱し、ぼくは首を振りました。
「ごめん・・・・・・わからない。もしかしてぼくの故郷なの? それも調べてくれたの?」
「んー、いや、ちょっと小耳に挟んだだけだ」
気になって追求しようとしますが、できませんでした。ぼくの背中をすぅと走るものがあったからです。
「ひゃっ!」
「な、はっは、ほれ、練習すんだろ」
「う・・・・・・そうだけど、なんだったの?」
背中を手で確認しながら眉をひそめると、反対の手を取られ、背中と同じようにすぅとした感覚を与えられました。
「わっ」
「指だよ、ゆび! 背中に文字を書いてやるから真似してみろ」
「・・・・・・くすぐったい」
「それは我慢してよ」
呆れたような声。せっかく協力してくれると言っているのに、ぼくがこのような態度ではなりません。
「わかった。がんばる。よろしくおねがいします」
そう言って口をきゅっと引き結びます。けれど慣れるまでが大変でした。背中をなぞられるたびに、くすぐったさに腹を抱え、ぼくは何度も肩を震わせてしまった。
何事もなく今日が終わったことに、平和な一日に感謝します。
就寝前の清めと身支度をした侍女の手が震えていたのを、ぼくは申し訳なく思った。
彼女たちの心も疲弊している。終わりの見えない生活に、暗い影が落ちます。
沈んだ気持ちのまま身体を休めていると、窓をコツコツと叩く音がしました。
「シャオル、来てくれたんだ。でも今度から夜は気をつけて、リュウホンさまがいるときもあるから」
ぼくを愛しにと、今はもう言えないけれど。
「大丈夫。しばらくは戦に出かけていて、ここに来られないはずだよ」
窓のさっしからトンと降り立ち、シャオルは明るく答えます。
「どうして、知ってるの?」
「へへ、ちょっとね。調べたんだ」
「ぼくに会いにくるために? ・・・・・・ありがとう。嬉しい」
シャオルの優しさが胸に沁みます。
「あとさ・・・・・・あー、いいや。その前にハイ、これやるよ」
「なに?」
言いかけたことが気になりますが、何かを差し出してくれているようなので、手を伸ばしました。シャオルはぼくの手を導き、手のひらに箸に似た形状の細長いものを握らせます。
「これが筆だよ」
「わあっ、先が柔らかい。フサフサしてる」
指先で撫でると、馬の尻尾がついているみたいだ。
「そこに黒い墨をつけて白い紙に字を書くんだぜ? けど墨を使うにはまだ早いだろ? まずは筆だけで練習したらいいと思って」
「うん、うん、ありがとう」
「おう、へへっ」
気を利かせてくれたシャオルのおかげで鬱蒼としていた心が晴れていく。たまらなくなってぎゅうっと抱きつくと、シャオルが身体を硬くしました。
「・・・・・・なあ、ダオ。手紙を書きたいっていう相手はダオにとってどんなひとだったんだ?」
「それはわからないんだ。大切だったという気持ちだけが留まっていて、身体はどこかに流されてしまったみたい。とっても不思議なことなんだけど」
「故郷のことも?」
「うん」
何度思い返そうとしても同じでした。こぼれ落ちてしまった記憶はもう戻らないのか、完全に消えてしまったのか、蓋をされているだけなら蓋をはずす方法はあるのか・・・・・・。なまじ暇であるため、悩む時間は膨大です。
「フーハン村」
「え?」
「ダオはこの村の名に何か感じる?」
そう言われたので頭で復唱し、ぼくは首を振りました。
「ごめん・・・・・・わからない。もしかしてぼくの故郷なの? それも調べてくれたの?」
「んー、いや、ちょっと小耳に挟んだだけだ」
気になって追求しようとしますが、できませんでした。ぼくの背中をすぅと走るものがあったからです。
「ひゃっ!」
「な、はっは、ほれ、練習すんだろ」
「う・・・・・・そうだけど、なんだったの?」
背中を手で確認しながら眉をひそめると、反対の手を取られ、背中と同じようにすぅとした感覚を与えられました。
「わっ」
「指だよ、ゆび! 背中に文字を書いてやるから真似してみろ」
「・・・・・・くすぐったい」
「それは我慢してよ」
呆れたような声。せっかく協力してくれると言っているのに、ぼくがこのような態度ではなりません。
「わかった。がんばる。よろしくおねがいします」
そう言って口をきゅっと引き結びます。けれど慣れるまでが大変でした。背中をなぞられるたびに、くすぐったさに腹を抱え、ぼくは何度も肩を震わせてしまった。
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