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青の章
18.離散
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「最悪だ!おいマリー!役に立たねーのが1人増えたぞ!」
リョウの罵倒が辺りに響く。
食い荒らされた兵士の残骸を見つけ、手負いのファングタイガーを撃退した後、一行はファングタイガーの血の跡を追って、慎重に歩みを進めた。
10分ほど進んだあたりで、前方からかちかちという硬質な物がぶつかり合う音と、何かかが這いずり回るような蠢く音が聞こえてきた。
リョウが足を止めて囁く。
「…いるな。」
リョウが右手で短剣を構えて左手をタクティカルベストのポケットに添える。マリーも背中のバトルハンマーに手をかけ、トウコもまたシュウから渡されたフィンガーレスグローブを装着した。
そのまま静かに歩みを進めた一行だったが、前方から聞こえてきていた何かが蠢く音が消えたと思った瞬間、茂みの向こうから巨大な物体が姿を現した。
その瞬間、トウコが珍しく小さく悲鳴を上げる。
「ひっっ」
リョウとマリーも顔を顰め、リョウが叫ぶ。
「気持ちわりぃぃぃぃ!」
現れたのはグラトニーセンティピードが3匹。2匹は体長4メートルに横幅2メートル、残り1匹は他の2匹に比べると小型だが、それでも体長2メートル、横幅も1メートルはあろうかという巨大なムカデの魔物だった。
そして冒頭のリョウの罵倒が響き渡ることになった。
「おいトウコ!お前が今回役に立たないのはよーーーーく分かってる!だが、1匹は引き付けろ!分かったな!攻撃しなくていい!逃げてていいから引き付けろ!」
「む、無理だ…。」
蒼白を通り越して蝋人形のように蒼白な顔をしたトウコが震える声で言うも、それをリョウは一蹴する。
「この阿呆!全部こっちで片づけてやるっつってんだ!そのくらいしろ!」
「わ、分かった…。」
「こいつらの尻尾の針には猛毒が仕込まれてるわよ。私の治癒魔法じゃ、こいつらの猛毒は消せないわ!気を付けて!」
リョウが一際大きい一匹に走り寄りながら、魔力石を投げ付ける。マリーもまた、バトルハンマーを構えながら別の1匹に向かって走る。
リョウが投げた魔力石が1匹に着弾し爆発が起きるも、それはグラトニーセンティピードが張った障壁に阻まれた。
「こいつら障壁持ちかよ!」
「うそでしょ!?本当なら持ってないはずよ!そもそもこいつらは死の森の中層あたりにいるはずだし、もっと小型よ!」
マリーがそう叫びながらバトルハンマーを1匹の頭に叩き付けるも、これもまた障壁に阻まれた。
残った小型の1匹が跳躍し、トウコの頭上に影ができる。
蠢く無数の足を見たトウコが全身に鳥肌を立てながら飛び退く。
「特殊個体かよ!厄介だな!トウコそのままそいつを引き付けとけよ!」
上体を起こし、大きな口を開けて襲い掛かって来た1匹を避けながらトウコに叫ぶと、そのままリョウは魔力を通した短剣を振るった。
1本1本が大人の腕程ありそうなグラトニーセンティピードの足が複数宙を舞う。しかし、それには構うことなく巨大な針が付いた尻尾がリョウに向けて振るわれた。
リョウがそれを上に飛んで避けると、再びグラトニーセンティピードがリョウを食おうと大きく開けた口を上空に向ける。
それを見たリョウは、魔力石を口に向かって投げつける。
口の中で爆発が起こり、巨大な体をくねらせてグラトニーセンティピードが悶える。リョウはくねる胴体を蹴って、少し離れた場所に着地した。
口から煙と体液を零しながら巨大なムカデがリョウに頭を向ける。その口にあるはずの巨大な牙は中ほどから折れていた。
「これでやっと牙かよ。かてーなコイツら。」
マリーもまた少々苦戦していた。
攻撃を避けながらバトルハンマーを振るうも、障壁に阻まれてなかなか攻撃が当たらない。それでも障壁を砕いて、バトルハンマーが徐々に胴体に当たるようになり、少しずつグラトニーセンティピードの動きが鈍くなってきた。
マリーを押しつぶそうと飛びあがったグラトニーセンティピードを、尻尾の方向に向かって飛びながら避けたマリーは、巨大な無数の足を蠢かせて土煙を上げながら全身でグラトニーセンティピードが着地した瞬間、マリーは尻尾に向かって飛び出した。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
野太い声を上げながら、マリーがバトルハンマーを尻尾に叩き付ける。
地面が少し陥没するとともに、毒液らしき緑の液体をまき散らしながらグラトニーセンティピードの尻尾が叩き潰された。
「マリー、そっちは大丈夫だな!?」
「大丈夫よ!もうちょっとで殺れるはず!」
リョウに叫び返しながら、尻尾を叩き潰されてくねる胴体にマリーが更にバトルハンマーを叩き付けると、胴体がひしゃげる。
しかし、それでも動きを止めることなく、大きな口を開けてマリーに食らいつこうとしてきた。それをマリーは後ろに飛んで避けた。
リョウが横目でトウコを窺うと、トウコは小型の一匹の攻撃を必死に避けていた。
「トウコの動きがかてーな。ありゃ、急がないとまずいぞ!」
「分かったわ!」
再度、2人が駆け出した。
「これたっけーんだよなぁ。」
リョウが口の中でぼやきながら、遺跡で巨大な銅像にも使用した一際大きな魔力石を取り出す。それに多めに魔力を注ぎこんだリョウは、牙が破壊された頭部に向かって投げると、ダメ押しとばかりにさらにもう1つ取り出してそれも投げる。
大きな爆発が2度起こり、グラトニーセンティピードの頭部が半分吹き飛ばされた。
しかし、それでも息絶えることなくリョウに毒針が襲い掛かる。リョウはそれを避けると、半分吹き飛んでいる頭部に走り寄ると、両手の短剣を振るった。
体液をまき散らしながら、半壊した頭部が宙を舞い地面に落ちる。グラトニーセンティピードはそれでもしばらく体をのたうたせていたが、やがて動かなくなった。
それを確認したリョウが、マリーに叫びながらトウコの方へ駆け出す。
「こっちはやった!トウコの方に行く!」
「分かったわ!こっちももうすぐよ!」
リョウがトウコの方へ駆け出した時、トウコはもちろん必死に飛び跳ねて攻撃を避け続けていた。蠢く無数の足が視界に入るたびに、全身に鳥肌が立ち足が震える。いつものトウコの動きとは思えないくらい生彩を欠いた動きで避け続けていたが、着地した瞬間に落ちていた小枝に足を取られて転倒するという、トウコらしからぬ失態を犯す。
尻もちをついたトウコを見たリョウが怒声を上げる。
「ド阿呆!」
慌てて起き上がろうとしたトウコに向かって、グラトニーセンティピードの毒針が襲い掛かった。
トウコが障壁を張り毒針の衝撃に構えた時、トウコの視界がリョウの背中で埋まった。
リョウはトウコの前に躍り出ると同時に、全力で魔力を注ぎ込んだ短剣を振るった。
短剣の刃にヒビが入り、そして砕ける。
尻尾と胴体が切り離され、小型のグラトニーセンティピードがのたうった。
「…てめえ、どれだけ俺に迷惑かけたら気が済むんだ。」
腹部から毒針を生やしたリョウが口から血を吐きながらトウコを罵倒する。
「リョウ!」
トウコがリョウの名を叫んだ時、尻尾を切られたグラトニーセンティピードが口を開けて襲い掛かって来た。
トウコは地を蹴ってその口の中に右手を突き入れた。トウコの腕が貫通し、頭部が破壊される。
その様子を見ていたリョウが、「このクソアマ。やりゃできんじゃねーか。最初からやれよ、ボケ。」とまた血を吐きながら小さく罵倒した。
マリーが最後の1匹を片付け、蒼白な顔をしてリョウの元へ駆け寄ろうとした時、新たに3匹のグラトニーセンティピードが現れた。
焦った表情で足を止め、新手の3匹にマリーが対峙する。
その様子を見ていたトウコはリョウに駆け寄ると、毒が回って紫色になったリョウの唇に口付けた。
「悪い。お説教は帰ったら死ぬほど聞く。だから死ぬな。私も死なない。そして私はまだお前に謝っていない。帰ったら謝るから絶対に死ぬなよ。いいな。」
リョウの血で口元を汚したトウコはそう告げると、そのままマリーの元へ駆け出した。
「マリー!リョウの治癒を!そいつらは私がやる!そして逃げろ!」
「でも…!」
「急げ!リョウが死ぬぞ!治癒を掛け続けながら砦へ行け!アリアは高位のヒーラーだ!彼女ならリョウを解毒できる!」
マリーは僅かな時間逡巡したが頷いた。
「分かったわ。トウコ、死ぬんじゃないわよ。」
「私を信じろ。そして、リョウを死なせないでくれ。」
トウコとマリーはすれ違い、マリーはリョウの元へ、トウコは3匹のグラトニーセンティピードの元へと飛び込んだ。
リョウの腹部から針を抜き、治癒魔法で傷を塞いだマリーはリョウを担ぐとトウコを振り返ったが、意を決するとそのまま背中を向けて駆けだした。
薄れゆく意識の中、3匹の巨大なグラトニーセンティピードを相手に戦うトウコの背中に震える手を伸ばしながら、リョウの視界は暗転した。
マリーはリョウに断続的に治癒を掛け続けながら走り、大森林を抜けた。待機していた部隊の魔道車に意識のないリョウと共に乗り込み、また治癒を掛け続けながら砦へと戻った。
砦に到着した後は、軍規違反で謹慎を命じられていたアリアがすぐさま呼ばれ、アリアによって治癒が施されたリョウは一命を取り留めた。
しかし、毒が回った影響で高熱が出たリョウの意識が戻ることはなかった。
熱は数日のうちに下がり、意識も近いうちに戻るというアリアの言葉を信じ、マリーはすぐさま大森林の入口へと、トウコの救助隊と共に戻った。
しかし、マリーたちが戻った時には既に夕暮れになっており、これから大森林に入るのは危険だということで、救助は明日へと持ち越されることとなった。
マリーは掌に爪が食い込んで血が流れるほど拳を握り締め、大森林を睨み続けながら一睡もせずトウコを待ち続けた。
夜が明けてもトウコは戻って来なかった。
リョウの罵倒が辺りに響く。
食い荒らされた兵士の残骸を見つけ、手負いのファングタイガーを撃退した後、一行はファングタイガーの血の跡を追って、慎重に歩みを進めた。
10分ほど進んだあたりで、前方からかちかちという硬質な物がぶつかり合う音と、何かかが這いずり回るような蠢く音が聞こえてきた。
リョウが足を止めて囁く。
「…いるな。」
リョウが右手で短剣を構えて左手をタクティカルベストのポケットに添える。マリーも背中のバトルハンマーに手をかけ、トウコもまたシュウから渡されたフィンガーレスグローブを装着した。
そのまま静かに歩みを進めた一行だったが、前方から聞こえてきていた何かが蠢く音が消えたと思った瞬間、茂みの向こうから巨大な物体が姿を現した。
その瞬間、トウコが珍しく小さく悲鳴を上げる。
「ひっっ」
リョウとマリーも顔を顰め、リョウが叫ぶ。
「気持ちわりぃぃぃぃ!」
現れたのはグラトニーセンティピードが3匹。2匹は体長4メートルに横幅2メートル、残り1匹は他の2匹に比べると小型だが、それでも体長2メートル、横幅も1メートルはあろうかという巨大なムカデの魔物だった。
そして冒頭のリョウの罵倒が響き渡ることになった。
「おいトウコ!お前が今回役に立たないのはよーーーーく分かってる!だが、1匹は引き付けろ!分かったな!攻撃しなくていい!逃げてていいから引き付けろ!」
「む、無理だ…。」
蒼白を通り越して蝋人形のように蒼白な顔をしたトウコが震える声で言うも、それをリョウは一蹴する。
「この阿呆!全部こっちで片づけてやるっつってんだ!そのくらいしろ!」
「わ、分かった…。」
「こいつらの尻尾の針には猛毒が仕込まれてるわよ。私の治癒魔法じゃ、こいつらの猛毒は消せないわ!気を付けて!」
リョウが一際大きい一匹に走り寄りながら、魔力石を投げ付ける。マリーもまた、バトルハンマーを構えながら別の1匹に向かって走る。
リョウが投げた魔力石が1匹に着弾し爆発が起きるも、それはグラトニーセンティピードが張った障壁に阻まれた。
「こいつら障壁持ちかよ!」
「うそでしょ!?本当なら持ってないはずよ!そもそもこいつらは死の森の中層あたりにいるはずだし、もっと小型よ!」
マリーがそう叫びながらバトルハンマーを1匹の頭に叩き付けるも、これもまた障壁に阻まれた。
残った小型の1匹が跳躍し、トウコの頭上に影ができる。
蠢く無数の足を見たトウコが全身に鳥肌を立てながら飛び退く。
「特殊個体かよ!厄介だな!トウコそのままそいつを引き付けとけよ!」
上体を起こし、大きな口を開けて襲い掛かって来た1匹を避けながらトウコに叫ぶと、そのままリョウは魔力を通した短剣を振るった。
1本1本が大人の腕程ありそうなグラトニーセンティピードの足が複数宙を舞う。しかし、それには構うことなく巨大な針が付いた尻尾がリョウに向けて振るわれた。
リョウがそれを上に飛んで避けると、再びグラトニーセンティピードがリョウを食おうと大きく開けた口を上空に向ける。
それを見たリョウは、魔力石を口に向かって投げつける。
口の中で爆発が起こり、巨大な体をくねらせてグラトニーセンティピードが悶える。リョウはくねる胴体を蹴って、少し離れた場所に着地した。
口から煙と体液を零しながら巨大なムカデがリョウに頭を向ける。その口にあるはずの巨大な牙は中ほどから折れていた。
「これでやっと牙かよ。かてーなコイツら。」
マリーもまた少々苦戦していた。
攻撃を避けながらバトルハンマーを振るうも、障壁に阻まれてなかなか攻撃が当たらない。それでも障壁を砕いて、バトルハンマーが徐々に胴体に当たるようになり、少しずつグラトニーセンティピードの動きが鈍くなってきた。
マリーを押しつぶそうと飛びあがったグラトニーセンティピードを、尻尾の方向に向かって飛びながら避けたマリーは、巨大な無数の足を蠢かせて土煙を上げながら全身でグラトニーセンティピードが着地した瞬間、マリーは尻尾に向かって飛び出した。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
野太い声を上げながら、マリーがバトルハンマーを尻尾に叩き付ける。
地面が少し陥没するとともに、毒液らしき緑の液体をまき散らしながらグラトニーセンティピードの尻尾が叩き潰された。
「マリー、そっちは大丈夫だな!?」
「大丈夫よ!もうちょっとで殺れるはず!」
リョウに叫び返しながら、尻尾を叩き潰されてくねる胴体にマリーが更にバトルハンマーを叩き付けると、胴体がひしゃげる。
しかし、それでも動きを止めることなく、大きな口を開けてマリーに食らいつこうとしてきた。それをマリーは後ろに飛んで避けた。
リョウが横目でトウコを窺うと、トウコは小型の一匹の攻撃を必死に避けていた。
「トウコの動きがかてーな。ありゃ、急がないとまずいぞ!」
「分かったわ!」
再度、2人が駆け出した。
「これたっけーんだよなぁ。」
リョウが口の中でぼやきながら、遺跡で巨大な銅像にも使用した一際大きな魔力石を取り出す。それに多めに魔力を注ぎこんだリョウは、牙が破壊された頭部に向かって投げると、ダメ押しとばかりにさらにもう1つ取り出してそれも投げる。
大きな爆発が2度起こり、グラトニーセンティピードの頭部が半分吹き飛ばされた。
しかし、それでも息絶えることなくリョウに毒針が襲い掛かる。リョウはそれを避けると、半分吹き飛んでいる頭部に走り寄ると、両手の短剣を振るった。
体液をまき散らしながら、半壊した頭部が宙を舞い地面に落ちる。グラトニーセンティピードはそれでもしばらく体をのたうたせていたが、やがて動かなくなった。
それを確認したリョウが、マリーに叫びながらトウコの方へ駆け出す。
「こっちはやった!トウコの方に行く!」
「分かったわ!こっちももうすぐよ!」
リョウがトウコの方へ駆け出した時、トウコはもちろん必死に飛び跳ねて攻撃を避け続けていた。蠢く無数の足が視界に入るたびに、全身に鳥肌が立ち足が震える。いつものトウコの動きとは思えないくらい生彩を欠いた動きで避け続けていたが、着地した瞬間に落ちていた小枝に足を取られて転倒するという、トウコらしからぬ失態を犯す。
尻もちをついたトウコを見たリョウが怒声を上げる。
「ド阿呆!」
慌てて起き上がろうとしたトウコに向かって、グラトニーセンティピードの毒針が襲い掛かった。
トウコが障壁を張り毒針の衝撃に構えた時、トウコの視界がリョウの背中で埋まった。
リョウはトウコの前に躍り出ると同時に、全力で魔力を注ぎ込んだ短剣を振るった。
短剣の刃にヒビが入り、そして砕ける。
尻尾と胴体が切り離され、小型のグラトニーセンティピードがのたうった。
「…てめえ、どれだけ俺に迷惑かけたら気が済むんだ。」
腹部から毒針を生やしたリョウが口から血を吐きながらトウコを罵倒する。
「リョウ!」
トウコがリョウの名を叫んだ時、尻尾を切られたグラトニーセンティピードが口を開けて襲い掛かって来た。
トウコは地を蹴ってその口の中に右手を突き入れた。トウコの腕が貫通し、頭部が破壊される。
その様子を見ていたリョウが、「このクソアマ。やりゃできんじゃねーか。最初からやれよ、ボケ。」とまた血を吐きながら小さく罵倒した。
マリーが最後の1匹を片付け、蒼白な顔をしてリョウの元へ駆け寄ろうとした時、新たに3匹のグラトニーセンティピードが現れた。
焦った表情で足を止め、新手の3匹にマリーが対峙する。
その様子を見ていたトウコはリョウに駆け寄ると、毒が回って紫色になったリョウの唇に口付けた。
「悪い。お説教は帰ったら死ぬほど聞く。だから死ぬな。私も死なない。そして私はまだお前に謝っていない。帰ったら謝るから絶対に死ぬなよ。いいな。」
リョウの血で口元を汚したトウコはそう告げると、そのままマリーの元へ駆け出した。
「マリー!リョウの治癒を!そいつらは私がやる!そして逃げろ!」
「でも…!」
「急げ!リョウが死ぬぞ!治癒を掛け続けながら砦へ行け!アリアは高位のヒーラーだ!彼女ならリョウを解毒できる!」
マリーは僅かな時間逡巡したが頷いた。
「分かったわ。トウコ、死ぬんじゃないわよ。」
「私を信じろ。そして、リョウを死なせないでくれ。」
トウコとマリーはすれ違い、マリーはリョウの元へ、トウコは3匹のグラトニーセンティピードの元へと飛び込んだ。
リョウの腹部から針を抜き、治癒魔法で傷を塞いだマリーはリョウを担ぐとトウコを振り返ったが、意を決するとそのまま背中を向けて駆けだした。
薄れゆく意識の中、3匹の巨大なグラトニーセンティピードを相手に戦うトウコの背中に震える手を伸ばしながら、リョウの視界は暗転した。
マリーはリョウに断続的に治癒を掛け続けながら走り、大森林を抜けた。待機していた部隊の魔道車に意識のないリョウと共に乗り込み、また治癒を掛け続けながら砦へと戻った。
砦に到着した後は、軍規違反で謹慎を命じられていたアリアがすぐさま呼ばれ、アリアによって治癒が施されたリョウは一命を取り留めた。
しかし、毒が回った影響で高熱が出たリョウの意識が戻ることはなかった。
熱は数日のうちに下がり、意識も近いうちに戻るというアリアの言葉を信じ、マリーはすぐさま大森林の入口へと、トウコの救助隊と共に戻った。
しかし、マリーたちが戻った時には既に夕暮れになっており、これから大森林に入るのは危険だということで、救助は明日へと持ち越されることとなった。
マリーは掌に爪が食い込んで血が流れるほど拳を握り締め、大森林を睨み続けながら一睡もせずトウコを待ち続けた。
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