常世の彼方

ひろせこ

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黒の章

27.エピローグ

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「で、遺跡調査に行ったはずが何故か主を倒して戻ってきました、か。」
笑いを含んだ声で言った組合長に、マリーが渋い顔をする。
「話を聞く限り、トウコとリョウの頭がイカれていなければ、君たちはここにはいなかったのだろうね。」
頭がイカれていると言われたトウコは、我関せずとばかりにマリーの隣で足を組んで煙草をくゆらせ、リョウはトウコの腰を左手で抱き、ソファにふんぞり返るように座って天井に向けて煙を吐き出している。
そんな2人を横目で見たマリーは諦めたようにため息を小さく吐くと応える。
「でしょうね。私も直接見ていたわけじゃないから分からないけど、2人はソフィアと戦っていた。厳密に言うと、ソフィアのことがそれぞれトウコとリョウに見えていて、その相手と戦っていた、かしらね。」
「見てねーだろーなぁ。お前、吹き飛ばされてただけだもんな。」
「ぐっっ・・・」
リョウの心底バカにするような口調の言葉に、マリーが言い返せず口ごもる。
「マリーはヒーラーだからな。」
「フォローになってないわよ、トウコ!」
3人を愉快そうに眺めながら組合長もまた煙草に火をつけると、一口吸って続ける。
「つまり、主は本気のトウコとリョウ相手に同時に戦っていたわけだ。相手の想い人の姿に見えている自分を君たちは殺せるわけがないと油断していたのだろうね。趣味の悪いことを思いつかなければ、君たちは殺されていたね。」
「たまたま運よく核を壊せただけだと思うけどな。そうじゃなかったら俺もトウコも殺されてたと思うぞ。」
「リョウが潰した瞳と、トウコが潰した心臓。君はどっちが核だったと思っているんだい?」
「さあな。両方ってこともあるかもしんねーぞ。」
「たぶん、瞳だ。」
「なぜそう思う?」
「私がリョウの胸を貫いても、まだリョウは私を殺そうとする素振りを見せたのさ。だから、首の骨を折って更にとどめを刺そうとしたら、急に風が吹いた。」
「聞きたくなかった・・・お前、俺の胸に風穴空けた後に、更にダメ押ししようとしてたのかよ・・・えげつねえ・・・」
リョウの呟きにトウコが鼻で笑う。
「トウコがリョウにとどめをさそうとする直前に、リョウがトウコの瞳を潰したってことだね。」
「人聞きの悪いこと言うんじゃねーよ。あのクソ女の瞳だろ。」
「どっちもどっちだわホントに・・。」
マリーが遠い目をしながら呟き、言葉を続ける。
「それにしても組合長。トウコを助けた謎の男は、本当にあなた知らないの?」
「断言するが、本当に僕は関与していないよ。あの遺跡に送ったのは君たち破壊屋だけだよ。」
組合長の言葉にトウコら3人は考え込むようにして黙った。
「道が塞がれる前に遺跡を脱出していたか、それとも本来の姿に戻った遺跡に飲み込まれたか・・・。トウコのことを知っている素振りを見せたのだろう?そのうちまた君たちの前に姿を現すような気がするよ、僕は。」
組合長の言葉に、即座にリョウが怒りと苛立ちを含んだ低い声で反応する。
「黙れ。」
そんなリョウのことを組合長は口元に微笑を浮かべて見やると、「君はバカだが、僕はそんなバカな君を気に入っているよ。」と言った。
トウコが少しリョウに体を寄せると、リョウは大きくため息を吐いてトウコの頭を撫でると体の力を抜いた。
そんな様子を見ていたマリーが「トウコもリョウの扱いがうまくなったわねぇ」としみじみ呟いた。

「さて、君たちの報酬だが、事前に契約していた遺跡調査の報酬に加えて、主の討伐報酬も上乗せするよ。遺跡が宝物庫に姿を変えていた場合の報酬に比べると、雀の涙だが遠慮なく受け取ってくれたまえ。主討伐おめでとう。」
組合長の笑いを含んだ言葉にマリーががっくりと項垂れ、リョウが天を仰ぎながら「あー俺とトウコは大金を手にして結婚してるはずだったのになー」と疲れた様子で呟いた。
そう、トウコとリョウが主を倒したあの後、遺跡は本来の姿を取り戻した。しかし、そこに宝物庫は現れなかったのだった。


「トウコ!リョウ!」
「大丈夫ですか!?」
マリーとヨシが2人に駆け寄りながら声をかける。仰向けに倒れている2人の姿を見たマリーが悲鳴を上げた。
「2人ともぼろぼろじゃないのよ!一体あの靄の中で何があったの!?」
トウコとリョウは起き上がりその場に座り、マリーとヨシを見上げる。
「説明はするから、とりあえず治療してくんねーかな。体中痛くてたまんねぇ。分かってる範囲では左腕と右の肋骨が折れてる。たぶん、他にも骨がいってるとこがあるはずだ。」
「私も頼む。見ての通りリョウに散々切り刻まれたからな。」
トウコの言葉にマリーが目を剥いて更に叫ぶ。
「どういうことなのよ!?リョウ何やってんのよ!」
「いてえ!骨折れてるって言ってんだろ!触るな!揺するな!おいトウコ!お前人聞きの悪いこと言うなよ!俺だけど俺じゃねーだろ!んなこと言ったら、俺の骨折ったのお前だぞ!」
キラキラと金色の粒子が舞い散る中、ぎゃあぎゃあと言い合っているとヨシが突然「あ」と声を発した。
次の瞬間、4人がいた広場が金色の光に包まれ、あまりのまぶしさに全員が目を閉じる。瞼の裏の光が収まったころ、恐る恐る目を開けるとそこには、宝物庫、ではなく何の変哲もない神殿があった。

「おい・・・。宝物庫はどこだ。俺とトウコの結婚費用はどこにあるんだ。」
「神殿ね。」
「神殿ですね。」
「・・・・死にかけた結果がこれかよ。報われねぇ・・・」

リョウががっくりと項垂れ嘆くように言った時、リョウの隣に座り込んでいたトウコが、
「限界だ。ただでさえ血が足りてないのにリョウに散々切られたせいで・・・魔力も枯渇寸前・・・悪い・・」とか細い声で言うと、そのままリョウの肩に倒れこんだ。
「あ!おい!いってえ!左腕にもたれかかるな!」
「トウコさん!?」
「気を失ったわね・・・。」
「マジかよ・・・。治癒してもしばらく目覚まさねーなこれ。ここからリカとの合流地点まで、担いでいくしかねーのか・・。コイツ重いんだよなぁ・・。」
リョウがトウコの頭を己の膝の上に乗せて寝かせながらウンザリした様子で呟くと、ヨシが驚きの声を上げる。
「えっ!トウコさん細いのに・・。」
「肉は胸以外そんなについてねーけど、鍛えてるからな。筋肉ついててて重いんだよ。」
「アンタそんなこと言ったってトウコにバレたら、また骨折られるわよ・・・。それに私が担ぐって言ってもどうせアンタ自分で担ぐんでしょ。」
「当り前だろバーカ。とりあえずトウコが先でいいからマリー治癒してくれよ。金目の物がなんもねえ、こんなしけた場所に長居したくない。とっとと帰ろうぜ。」


マリーが2人の治癒を終え、帰還の準備を整えた一行が神殿を出ていく。
「おいヨシ。俺はトウコを抱えてるし、俺ももう魔力が残りすくねえ。帰りに何か出たらお前がマリーと一緒に頑張れよ。」
「は、はい!頑張ります!荷物も遺跡と一緒に消えちゃいましたからね!荷物持ちじゃなくなった分、僕が戦います!」
「あぁ、ホントに疲れたわ・・。早く帰ってゆっくりお風呂に入りたい。」
「お前、吹っ飛ばされてただけで疲れてねーだろ。」
「おっおだまり!」
「マリーさんはヒーラーですから・・・!」



賑やかに騒ぎながら一行が神殿を出ていくと、後には静寂だけが残された。そこにカツンと足音が響く。
どこからともなく現れた濃紺の外套に身を包んだ男が、紫の瞳で神殿を見上げながら呟く。

「まずは1つ。」
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