常世の彼方

ひろせこ

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黒の章

10.組合長

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 トウコとリョウ、2人の間に一触即発の空気が流れる中、静かな、しかし不思議とよく通る声が響いた。
「これは何事かな?破壊屋のバカ共が暴れているのかな?」

アレックスが声の主を見ると、そこにはプラチナブランドの髪をオールバックになでつけ、ターコイズブルーの冷ややかな目をした40代半ばの男が歩いてくるところだった。
男はこの場には場違いな、ダークグレーのスーツを隙なく着こなしている。

「うげっ!組合長!」

組合長と呼ばれた男は、そのまま静かにあたりを見渡し、
「なるほど」
と一言つぶやいた。
次の瞬間、トウコとリョウを始め、周りで様子を見ていたあるいは逃げようとしていた組合員たちに紅蓮の炎が襲い掛かった。
トウコとリョウは後ろに飛んで炎を避けたが、炎から幾筋もの炎の鞭が伸びて2人を襲う。リョウは氷を付与した短剣で炎の鞭をさばき、トウコは強化した拳で叩き潰している。

「おいおいおい!あの2人はともかく、俺たちは関係ねーだろ!」
「そうよそうよ!髭がちょっと焦げちゃったじゃないのよ!」
アレックスと、強制的に現実へと引き戻されたマリーが組合長に喚く。どうやら、トウコとリョウ以外に襲い掛かった炎は、すぐに消えたようだ。

「街中で、しかも一般市民を巻き込んでドンパチしそうなバカを止めないのは同罪じゃないのかな?」
真っ青な顔で震えている護衛対象の商人一家を組合長がチラリと見る。

「ぐっ・・・それに関してはすまない。でも、あの2人を止めるなんて無理だろう!」
「なに、これだけの数の組合員が一気に襲い掛かったらさすがに止められるのではないかな。まあ大分死ぬだろうが、それは名誉の死ってやつでいいじゃないか。」
微笑みながらそう言い放った組合長に、アレックスは顔を顰めたが何も言い返さなかった。

「ねえ、それよりもあの2人はどうするの?そろそろ許してやってくれない?」
「どうしてああなったのか聞いても?どうせトウコ絡みなのだろうけど。」
「それが・・」
マリーが今朝の顛末と、南門での出来事を組合長に説明すると、
「相変わらずリョウはバカだね。」
と呟き、未だ炎と戦っている2人にひらりと手を振ると、たちまち炎は掻き消えた。
トウコとリョウは揃って地面に座り込み、空を仰いだ。

「組合長とりあえず助かったわ。この借りは今度返すわ。」
「借りはすぐに返してもらうよ。破壊屋には別の仕事をやってもらおう。今すぐ本部に来るんだ。」
「え、だって私たちは今から護衛の仕事があるのよ!?」
「それはキャンセルだね。そもそも、こんな騒ぎを起こしたバカ共に護衛なんてされたくないのではないかな?」
最後は商人一家を見ながら言うと、商人一家は青い顔のままぶんぶんと首を縦に振った。

「それと、君たちも護衛の仕事はキャンセルだよ。」
組合長がリョウに鼻を切られた男とその仲間たちに向かって言う。
「なんでだよ!俺たちは関係ねーだろう!!怪我させられた被害者だ!」
「街に来て日が浅いのだろうが、手を出してはいけない相手ぐらい把握しておくことだね。こんな騒動を引き起こしておきながら被害者面とは笑わせてくれる。君たちは当分の間、奉仕活動以外の仕事は禁止するからよく反省するといい。トウコ、リョウ!本部に来るんだ。」
最後はトウコとリョウに呼びかけた組合長が、男たちに背を向けて歩き出す。

「奉仕活動以外の仕事って・・俺たちにゴミ拾いさせようって言うのかよ!その破壊屋とかいう奴らは別の仕事で俺たちはゴミ拾いってか!?ふざけんな!」
男たちが喚くが組合長は男たちを一顧だにしない。

「くそぉ!」
ついに男たちの1人が剣を抜き、組合長に襲い掛かる。
組合長が小さくため息をつき、男に目を向けた瞬間、男が業火に包まれる。
「ぐああぁっ・・!」
男はそのまま崩れ落ち、しばらく地面をのたうっていたがすぐに動かなくなり、後にはぷすぷすと煙を出す炭化した物体が残った。

「バカねぇ・・組合長の髪と瞳の色で分かるでしょうに。勝てない相手だってことぐらい。」
マリーが心底馬鹿にしたような口調で、炭化した物体を見下ろしながら呟く。

「君たちはどうする?仲間の仇でも討つかい?」
突然の出来事に腰を抜かしている炭化した男の仲間たちに組合長が微笑みながら静かに問いかけると、男たちは震えながら首を横に振った。

「うん、それがいいね。僕はね、使えないバカは嫌いなんだよ。覚えておくといい。」
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