常世の彼方

ひろせこ

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黒の章

05.光と闇

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昔々、光の女神と闇の女神がいました。光の女神は地上の光の世界を、闇の女神は地下の暗黒世界を治めていました。
光の女神は太陽のように明るく輝く金の髪に、澄み切った空のようなサファイア色した瞳を持ち、闇の女神は全ての色を飲み込むような漆黒の髪と、闇の中でも怪しく光る紫の瞳を持っていました。

光の女神は優しく穏やかな性格で誰からも好かれており、常に沢山の人に囲まれていました。闇の女神は意地悪で嫉妬深い性格をしており、皆に疎まれていました。

ある時、光の女神が見目麗しい青年を連れて、闇の女神の元へやってきました。光の女神は言います。

「彼は私の騎士。光の騎士。私たちは愛し合っているの。今度結婚するのよ。あなたも祝福してくれるでしょう?」

闇の女神は嫉妬しました。

自分は暗く日の当たらない世界を治めければならず、光の騎士のような見目麗しい存在もいない。
私だって明るい世界で暮らしたい。私だって沢山の人に囲まれて暮らしたい。
何故?何故?何故?何故私ばかりこんな目に合わなければならないんだ。

あの女がいるからだ。光の女神さえいなければ、光の世界も光の騎士も私のものだ。

闇の女神は光の女神を襲いました。

光の女神と闇の女神の戦いは、それはそれは長く続きました。
戦いの余波で光の世界も暗黒世界も荒れ果ててしまいました。

長く続いた戦いもついに決着がつきます。
闇の女神の爪が、光の女神の心臓を貫こうとしたその時、光の騎士が闇の女神の首を撥ねたのです。光の騎士は闇の女神の四肢をバラバラにし、地下世界の奥深くに封印しました。

それでも闇の女神は諦めていません。
いつか復活して光の女神を殺め、光の世界と光の騎士を自分のものにすることを虎視眈々と狙っています。

この世界の人間ならば誰でも知っているおとぎ話。光の女神と闇の女神。
ほとんどの人間が、金や青のそれに近い色を持って生まれる。それは光の女神の加護を受けた証だ。だがごく稀に、闇の女神の色である黒を持った人間も生まれる。
色なし、忌み子、人モドキ。
様々な呼び名があるが、共通して言えることは疎まれ蔑まれる存在ということだ。
この世界において黒や紫を持つ存在は闇の女神の加護を持つ存在、すなわち、封印されてもなお諦めていない、闇の女神の手先と考えられていた。

この世界において、加護の強弱は魔力の強弱と等しい。
すなわち、金に近い色を持つ人間ほど強い魔力を有しているということになる。白みがかった金の髪と綺麗な青の瞳を持つリョウと、金に近いこげ茶の髪(はないが髭がそうなので髪もそうだろう)と、緑がかった青の瞳のマリーではリョウの方が圧倒的に魔力の保有量は多い。

しかし、闇の女神が封印されている影響か、闇の女神の加護を得た人間は黒しか色を持たず、魔力がないもしくはごく弱い魔力しか持たなかった。魔力を持っていて当たり前のこの世界において、魔力がないことは力を持たない事と同義。
さらに不幸なことに闇の女神の加護を持つ人間は皆、美しい容姿をしていた。その為、闇の女神の加護を得た人間は、生まれてすぐに忌み子として殺されるか、もしくは愛玩奴隷として売られた。

しかし、トウコは黒の髪に紫の瞳、闇の女神の色を完璧に備えて生まれた。その為、闇の女神の加護を得たにも関わらず、強い魔力を有している。
それが良かったのか悪かったのかトウコには分からない。
しかしそれが為に、トウコはこの世界の異端だ。
闇の女神の加護を得た人間にも同胞だとは思われない。

トウコは孤独だ。

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